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221.獣王の一撃!

「グラバウ……あの日も君を救った『ビースト』の一枚。それをよくぞ」


 引き当てたものだ、というエミルの声は巨獣の遠吠えにかき消される。その声量、そこに込められた力は、講堂中の空気をビリビリと震えさせた。前回のファイトで登場した時以上に、明らかにグラバウの闘志が高まっている。それは如何にも主人であるアキラの闘志とユニットが通じ合っているようだった──否、「如何にも」ではなく事実そうなのだろう。


 プレイヤーの意志の体現、ドミネユニット。それが主人と重なり合うのは当然であるが、しかしドミネイターは必ずしもドミネユニットとしか繋がれないわけではない。そこらの有象無象、エミルからすればドミネイターと名乗ることすら烏滸がましいような拙い実力しか持たない者であっても、カードとの絆。とりわけ自身がエースと認識しているようなユニットとの間には特別なものが生じるのが往々にして常である。


 頂きを目指すだけの力もないくせに半端にそんなものを頼ってしまうから余計に成長できないのだ、とその是非については否定的なエミルもそこにある繋がり自体は否定しないし、できない。何故なら彼もそれと同じことをやっているからだ。


 無論、天凛の才を持つ彼のこと。エースカードの一枚二枚とだけしているわけではない……以前アキラに対しても指摘したように、当然にデッキのカード全てを『完全なる支配下』へ置いている。それだからエースだとか切り札だとか、そんなわざわざの特別認定をせずとも、どのユニットのどのアタックにおいても殊更に重い一撃を繰り出すことができる。真の切り札と呼べる唯一のユニットであるエターナルほどではなくとも、一度のブレイクだけで充分に相手の心身を追い詰めることもできる──それをアキラは既に三度も食らって耐えている、どころか余計に戦意を滾らせているのだが。


 しかしそこは、まさしくエターナルの連続攻撃を受けても屈さなかった彼なのだから。今となってはその時以上にタフネスを高めていてもなんら不思議ではなかった。


(だがこれは……彼とグラバウとのこの「重なり方」は。これではまるで)


 己を見ているようだ、と。

 エミルはそう思った。

 そう、思わされたのだ。


 鏡越しに姿を変えた自分が、主義主張を入れ替えた自分が、自分に対して牙を剥いてきているようだと。


「すぐにも敵をぶっ倒したいっていうグラバウの気持ちが伝わってくる。だけどその前にスペルを発動だ──《ビースト・オブ・トライル》!」


「! 『ビースト』の名の付くスペルカード……!?」


 非常に幅広く、日本に流通しているドミネイションズカードのほぼ全てを網羅していると言っても過言ではない、ムラクモらDA教師すら凌駕するほどの知識量を誇るエミル。そんな彼であってもアキラの『ビースト』ユニットの存在はまったく知らず──元々は若葉家と、若葉家と家族ぐるみで付き合いのある紅上家くらいしか認知していなかったカード群なのでそれも当たり前なのだが──それの派生形である『ビースト』スペルだってもちろん存じていない。故に、アキラが発動したそのカードがどんな効果を持つかなどまったくわからず、相手の説明を待つばかりという彼としては珍しい行為を取るしかなかった。


「《ビースト・オブ・トライル》は自分のフィールド、墓地、コアゾーンのそれぞれに『ビースト』ユニットが置かれている時にのみ発動可能なスペル。その効果は、デッキから『ビースト』ユニットを二体までサーチするというもの!」


「ビースト専用のサーチスペル……! そういうことだったか」


 エミルは己の読み違いを悟った。アキラが墓地やコアゾーンに切り札を忍ばせていたのは、そこからの展開を画策してのものではなくこのスペルを唱えるため。デッキから新たな『ビースト』を呼び寄せるための仕込みであったのだ。


 しかして《ビースト・オブ・トライル》はおそらく先のターン、サイレンスによるダイレクトアタックを受けてのクイックチェックで引いたカード。つまりはアキラが仕込みを始めた段階でこのスペルを唱えられる保証はどこにもなかったことになる……引けると確信していなければ、そして実際に引けなければ無意味となるプレイを恐れず実践し、成功させた。「いいカードを引けた」というあの言葉は強がりでもハッタリでもなかったのだ。


 それはエミルを相手にも己が引き運を守り抜いた証明。アキラが持つ確かな運命力の象徴であり、それを宝の持ち腐れとしないだけの戦い方を身に着けた証拠でもあった。


「俺のフィールドには《キングビースト・グラバウ》が、墓地には《ビースト・ガール》が、コアゾーンには《ダークビースト・マリナス》がいる! 発動条件を満たしているために効果を適用、俺がデッキから加えるのは──《ビースト・オブ・イノセント》と《ビースト・ベイビィ》だ!」


「!」


 宣言通りのカードをサーチしたと明示するアキラ、その一瞬の動作の内にエミルはカード名だけでなくコストやパワーといったステータスまで確認した──イノセントは3コストでパワー2000、ベイビィに至っては2コストでパワー1000。どちらも紛うことなき小型ユニットのスタッツである。もちろんアキラが信頼を寄せる『ビースト』の一員である以上油断はできないが、しかしまさかベイビィがグラバウやアルセリアに匹敵するような戦闘力を発揮するとはとても思えない……そんな可能性まで考慮に入れるのはやり過ぎだ。


(つまりはサポート要員。他の『ビースト』を活かすためのユニットであることは間違いないだろう……ということは、だ)


 グラバウを呼んだ、それが契機。始まりの合図。アキラはいよいよ体勢・・に入っている。場に幾体も『ビースト』を並べる体勢に。それ即ち彼の本領である大攻勢を仕掛ける合図にして、アルセリアを呼び出す兆しに違いない。


 グラバウの召喚コストが7、《ビースト・オブ・トライル》の詠唱コストが4。この時点でアキラは使用可能な11コストを全て使い切っており、このターン中にこれ以上『ビースト』を呼ぶこともアルセリアに繋げることも不可能だが。けれど次のターンには確実に仕掛けてくるだろう。サーチを根拠に、というよりもアキラの発する闘志からこそエミルはそう受け取った。


 とまれ、ひとまずは目の前のグラバウである。


「グラバウの自己強化効果を適用! こいつは相手の場のユニットの数だけパワーを1000上げる。エミルの場にはアリアンとサイレンス、計二体がいる──よって2000のパワーアップだ!」


 《キングビースト・グラバウ》

 パワー7000→9000


「サイレンスの7000をあっさりと超えてくるか」


 メキメキと音を立てながら筋肉を隆起させる獣の王にやれやれとエミルは呟いた。いくらコストパフォーマンスにおいて破格も破格のクアドラプルミキシングユニットと言えども、戦闘ただ一点において緑陣営の大型には──とりわけ『ビースト』には敵わない。赤と緑は共に戦闘偏重と称される陣営であり、似た傾向にある赤と比べてもなお緑は『ユニット同士のバトルに強い色』とされている。そんな特徴をこれでもかと煮詰めて、シンプルながらに強烈な「緑らしさ」を宿しているのがこのグラバウであるからして。


「グラバウは【好戦】によりスタンド状態のユニットにもアタックできる。更に、一度のレストで相手の場の全ユニットへバトルを仕掛けることが可能! 行けっ、グラバウ! まずはサイレンスを粉砕しろ──グランドスラッシュ!」


 強化された膂力を惜しみなく注いでの巨爪一撃。多腕の全てを防御に回しても深々と四重に身を切り裂いたそれに、四色を司る天使は力なく崩れ落ちていった。



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