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215.九蓮華エミルの想うこと

 《焔魔の巨巌サタノサティス》

 コスト3 パワー3000+ TMC 【好戦】


「くそ、またこいつか──サタノサティス!」


 火拳を振り回して己が復活をアピールするそのユニットの持つ、途轍もない処理能力。それは《無秩序の番人ジャスティス》とは方向性こと異なれど、どちらも3コストの域にとても収まっていないという意味ではよく似通っていた。自然、表情の強張るアキラに対してエミルはしかつめらしく頷いて言った。


「そうだアキラ君、君にはまたこの子の恐ろしさを存分に味わってもらいたい。サタノサティスの登場時効果を発動──このユニットより上のパワーを持つユニット一体と、下のパワーを持つ一体を破壊する! 私が選ぶのは《獣奏エレノラ》と《宵闇の妖精ルゥルゥ》だ」


 エレノラのパワーは4000、ルゥルゥは1000。どちらもサタノサティスのパワー3000には合致せず、条件は満たされている。破壊対象を教えられた猿顔の悪魔は、その燃える拳から炎を纏った衝撃は二連続で発射。獣人の女性と闇の妖精を二体まとめて焼却処分した。


「っく! エレノラ、ルゥルゥ……!」


「君のユニット全体へ【好戦】を付与するエレノラは言わずもがな、低パワーながらにそれを強味に変えることのできる【復讐】持ちであるルゥルゥも、さっさと片付けておくに越したことはない。実のところサタノサティスの登場時効果は強制発動でね。場に出た時他に選べなければ自分のユニットを破壊しなければならない制約がある……のだが、アキラ君。緑使いである君の卓越した展開手腕によって私はその悩みから解放されている、というわけだ。ありがとう」


「……!」


 あたかもそれは、エミルを気持ちよくファイトさせるためにアキラが進んで犠牲者を用意しているかのような。そういった物言いにも聞こえた──否、エミルという男の言うことだ。まさしくそういった意味合いでの「ありがとう」なのだろう。自分の立っている場所こそが世界の中心。そう信じて疑わない、疑えない彼の精神性。様子の変貌からそれが一層に際立っていることを、アキラは感じ取っていた。


「さて、これでデスキャバリー含めて君の場に【復讐】持ちはいなくなった。後は取るに足らない小型ユニットが二体だけ……やってしまうがいい、サタノサティス」


 主人の言葉に今一度悪魔が気勢を発す。効果による破壊だけに飽き足らず戦闘にも強い意欲を見せるサタノサティスはずんずんと重く足音を踏み鳴らし、アキラのフィールドへと進軍。


「サタノサティスは【好戦】持ち。登場したターンに君のユニットへアタック可能で、しかも彼にはもうひとつ。一度のレストで二回バトルを仕掛ける能力もある。まずは守護者の《暗夜蝶》を屠り、連続攻撃! その次は最後に残った《慈しみの妖精リィリィ》も殴殺撃破!」


 アタック時にはパワーを5000にまで上げるサタノサティスの、拳のラッシュ。その降り注ぐ小隕石の流星群の如き破壊力には夜蝶も妖精も抗うことなどできない。フィールドへ打ち付けられる連拳の撃音に飲み込まれるようにして二体は散っていく。


「蘇生効果を使用済みの《暗夜蝶》はもう墓地から蘇ってくることもない。そしてコスト軽減効果を持つリィリィも排除した。呆気ないものだね。君が築いた見事な戦線も、崩れ去る時は一瞬だ。世の無情と無常というものを感じないかい? 私は畢竟、それらが全てであると考えているが」


「無情と無常が、全て? どういうことだ」


「またしても君のフィールドが容易く全滅してしまったように。世界とは、物事とはその繰り返しなのだよ。何かが始まり、何かが終わる。人の一生だってそうさ。ファイトだってそう。ファイトを取り巻く界隈だってそう──即ち流転・・だよアキラ君。停滞とは本来、とてもとても不自然なものなんだ。世界の成り立ちやルールからすると、あり得てはいけないもの。安定など本当はどこにも存在しない。『その場にとどまり続けるには常に全力で走っていなければならない』……進化論の一説であり、そして金言だ」


「……何が、言いたいんだ?」


「日本のドミネ界は停滞している。そういう話だ。人のエゴと固執が生む、欲ありきの醜い構図。出来上がってしまったシステムにはなかなか手が付けられないものさ──いくら改善点があろうとも、時代にそぐわなくなっていたとしても。かつてシステムを作り上げた若き俊英、現代の重鎮たる老人たちがそれを許さない。守るのさ、自分たちの立場を。利権を。過去の栄光を! いつまでも価値あるものとして何よりも優先させる。それが歪みを生むのだと知りながら、知らないふりをしている。我が家を筆頭に御三家などと呼ばれて悦に浸っている血筋たちなどその象徴だろう? 上の世代でまだしも柔軟であられるのは生ける伝説である学園長その人くらいで、他は皆まったく駄目だ。若い才能を育てるための土台であり骨子である、システムそのものである老人たちの大半はもはや見る影もない……過去に放っていたはずの輝きをとうに失い、くすんでしまったただの石ころさ。それは次代を走る者たちの足を取る『邪魔』にしかならない」


「……!」


「過激な主張だと思うかい? だが純然たる事実だ。私たちよりひとつ上の世代からプロとして世界で活躍できている者の増え方はずっと横ばいだ。現状維持──ではなく。ドミネ教育の土壌が出来上がったことで年々プロを志望する子供たちの数が増えているのを鑑みれば、横ばいなのはむしろ劣化と言える。未だに本気でプロ入りを願うなら進学先がドミネイションズ・アカデミア一択なのもいただけない……この学校を貶めたいのではないよ。変化の無さを私は憂いているのだ。米国や欧州に後れを取り続ける理由がそこにある。走ることを忘れ、歩みすらも止めてしまったこの国は、いずれ世界から取り残されることになるだろう」


「──もしかしたら一理あるのかもしれない。自分のことに精一杯で、国や世界の目線で物を考えたことがない俺には判断なんてしようがないけれど。少なくともお前が本気でドミネ界を変えようとしているのは……それが伊達や酔狂でやっていることじゃないっていうのは、伝わってきた。でも」


「でも?」


「変化が常に起こるもので、起こさなくちゃならないものなんだとすれば。始まったなら終わらなきゃいけないとすれば──エミル。お前が創ろうとしている世界だって、いつかは終わる。そういうことになるよな」


「まさしくそこなのだアキラ君。だから・・・


「なんだって?」


「停滞なく前進し続ける世界。現状維持とは無縁で常に向上し続ける未来! それを私の手で創るのだ──創らねばならないのだ! 当然に生半なことではない、如何に私が天凛の才を持とうとも一人では無理だ。そういった夢のような世界を現実とするためには多くの強き聡きドミネイターが要る。故の選別、選民の発掘だ。デッキ構築と同じくだよ。才ある者だけで構築する! 『その他大勢』という不純物は文字通りに世界の純度を下げる不要の存在……切り捨てるしかない。そうでなければ私たちに未来はないのだからね」


「…………、」


「以前の君ならいざ知らず、今の君なら私の言っていることもよくわかるはずだ──その目に見えているはずだ。自分と、他の者たちの違い。隔絶した性能差・・・というものを、君はしかと認識できているだろう。ならば世界のため、未来のため。私に従うことが正しいのだと理解し始めてもいるのではないか?」


 投げかけられたその問いに、アキラは──。



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