214.猛攻のミキシング戦法!
「くっ……、」
前述した通り、エミルがなんらかの手段をもってアリアンを再展開してくることは想像の範疇であった。だが《クリアワールド》という舞台装置の登場はまったくの予想外だった──復活は一度切りでなく延々と続く。まずはこのエミルにのみ有利に働くエリアをどうにかしないことには、アリアンはいくらでも何度でも蘇ってくる……!
「真に迫ったいい顔だ。脅威をきちんと脅威として認識するのはドミネイターとして大事な能力……無陣営の増殖は君にとっての苦難。だがそれだけではない。早速アリアンの効果を使わせてもらおう──発生させる色は緑・白・黒! 三度目の三色混色!」
「ッ!」
「とても好い気分だ……中立の無色を合わせて六色を自由にできるというのは、まさしく! ドミネイションズの神にでもなったようだ! 3コストで出でよ、《無秩序の番人ジャスティス》!」
《無秩序の番人ジャスティス》
3コスト パワー2000 TMC 【守護】
無数の浮遊する腕を持つ、悪魔とも天使もつかぬ厳めしい人型の何か。登場と同時にギロリとアキラを睨みつけた彼は明らかに、激しい怒りを抱いているようだった。
「ジャスティスは公平を愛する悪魔天使。フェアにするためならなんだってする傍若無人の存在さ。ほら、彼は私たちの歴然たる差にお怒りのようだよ」
「俺たちの差だって?」
「まずはライフ。君のライフコアは五つ、私は四つ。私の方が少ないね──これはフェアじゃない、少なくともジャスティスの目にはそう映る。よって登場時効果を適用、私のライフコアをひとつ回復させる!」
「何……?!」
またしても回復効果持ちか、とアキラが瞠目する間にジャスティスがエミルへライフコアを授け、これで互いのライフは並んだ。一時は四つも差がついていたとは思えないこの状況に、しかし差を詰めた側のエミルは然程の達成感も見せずに。
「次はコスト。君のコアゾーンには八つ、私のコアゾーンには七つ。比べてみると、ああ。こちらも私の方が少ないね?」
「っ、まさかコストまで──!?」
「そのまさかさ。続けてジャスティスの登場時効果を適用、デッキの一番上のカードをコストコアへ変換する!」
ぶんと多腕のひとつを振るったジャスティス。その風圧によってめくり上げられたデッキトップの一枚がコアゾーンへと運ばれる──アキラは見逃さない。そうして置かれたカードがレストしていないことを。つまりはこのターン中にもすぐに使用できる、という点を。当然、アキラがそれに気付いた際の微妙な変化をエミルもしかと見ており。
「そうだアキラ君、これで私の未使用コストは残り2となった……だが、それを使う前にジャスティスの効果処理を終わらせてしまおう」
「まだ何かあるっていうのか」
「あるとも。だが安心してくれ、次でラストだ」
何を安心できるものか、とアキラは内心で呆れる。
ライフとコストの増強。相手より少なければ、という条件付きとはいえこの時点でも3コストのユニットとしては信じられない性能だというのに、それだけに留まらないというジャスティスのあまりの暴れぶりにアキラは戦慄を覚える。サタノサティスといいポリテクスといい、そしてこの悪魔天使といい。本当にトリプルミキシングユニットというのは好き放題なカードだ。『ビースト』という単色でもかなりの性能を誇るカード群を持つ彼が言えた義理ではないかもしれないが、しかしそんなアキラだからこそ余計にエミルが操る一枚一枚のカードパワーの高さはより実感できるというもの。
その恐ろしさにおいても、また。
「ライフとコストの調整と来たからには、次は手札あたりか?」
「いい読みだ。実際、ジャスティスの色に青が含まれていればそういった能力になっていたかもしれないね。だが彼が所属しているのは青ではなく、言ったように緑と白と──そして黒陣営だ」
「黒陣営……ってことは」
仮に、ライフ回復が白陣営。コストブーストが緑陣営に対応したものだとしたら、残るは黒の力。そして黒から連想されるものと言えば、手札増強ではなくやはり破壊。リソースの操作よりも直接的に場へ作用するやり方が、ずっと想像しやすい。ならばジャスティス最後の効果で調整されるものと言えば──。
「そう、参照されるのはユニットの数だ。数えて比べてみようか? ひぃ、ふぅ、みぃ……おやおや、君の場には五体もユニットがいるんだね。対するこちらはアリアンとジャスティス、たったの二体。これではバランスが釣り合わない──均等じゃない。ジャスティスはこんな不公平を許さないよ」
「っ、」
「想像通りだともアキラ君。三度ジャスティスの登場時効果を適用、君の場のユニットを一体破壊する!」
やはり相手ユニットの破壊効果か──しかし、一体だけならまだマシ。ライフとコストがたまたま同じ数になっただけにアキラは勘違いしかけたが、ジャスティスの能力は「公平を目指す」というだけで必ずしも「公平にする」ものではないようだ。ライフの回復も、コストの増強も、そしてユニットの破壊も、あくまでひとつずつ。それが鉄則。これでエミルと同数の二体になるように三体も間引かれていたらと思えば、一体程度なら必要経費と割り切れる。
問題はエミルがどのユニットを狙うのかだが……。
「そうだね。ここはやはり《闇重騎士デスキャバリー》を破壊対象に選ぼう」
──やってしまえ、ジャスティス。
大して力の籠っていないそんな命令に、しかしジャスティスは大いに反応を示した。全部で六本の多腕の内、右側にある三つに拳を握らせて──発射。散弾の如くに同時着弾した三拳はデスキャバリーを盾ごと吹っ飛ばし、地に縫い付け、そしてその命を奪った。主人の死によって彼の愛馬も悲しみのいななきを上げながら消滅していく。
「デスキャバリー……!」
「退場を悔やむ暇はないだろう。ほら、君も懸念したように。私にはまだ使えるコストが残っているんだからね」
愛用ユニットの壮絶な散り方に心を傷めるアキラへ、未レストの2コストを示しながらエミルは言う。色はそれぞれ彼のデッキカラーを示す青と黒。アリアンが場にいる以上はその色分けに意味なんてない、はずだが。けれど手札から新たなカードを抜き出したエミルは、此度はアリアンの能力を使うことなくそれをプレイした。
「2コストを使用し、青黒の混色呪文を詠唱する。《色彩衝突》!」
「今度はミキシングのスペルカードか!」
「トリプルミキシングスペルでなくて助かった気持ち、かな? だがこのスペルはトリプルでこそなくとも十二分に強力だよ──まずは墓地から5コスト以下のミキシングユニットを回収する。私が選ぶのは《無限の従来ポリテクス》だ」
「!」
ライフ回復効果持ちのユニットが再びエミルの手に渡った。これでは再びライフ差をつけたとしてもまた回復されてしまう──しかもポリテクスはジャスティスと違い、その際にアキラのライフまで奪っていく。クイックチェックの機会すらも、だ。面倒なカードを回収されたな、と攻め方を考えなくてはならなくなったアキラを尻目に、エミルは墓地へと再度手を伸ばす。
「《色彩衝突》には回収だけでなく蘇生効果もある。手札に戻したミキシングユニットよりも低いコストを持つミキシングユニット。を、フィールドへ呼び戻すのだ──ポリテクスは4コスト。蘇生対象とするのは3コストである《焔魔の巨巌サタノサティス》、条件は問題なくクリアだ!」
地表を割り砕き出現する、業火を腕に纏った猿顔の悪魔。場を荒らし尽くしたそのユニットの再登場に、アキラはぐっとカードを握る手に一層の力を込めた。




