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208.エミルの反撃、悶絶のアキラ!

 ライフコアが砕かれる。大量の怪光線からプレイヤーを庇わんと前に出た一個が、呆気なくバラバラにされてしまった。「ぐうっ!?」とアキラはその衝撃にたたらを踏む。身体中に走る痛み──以前に食らったエターナルのそれほどではないが、しかしだからこそ二重の意味で彼には衝撃であった。


 プレイヤーと一心同体、ドミネイト召喚で呼び出される《天凛の深層エターナル》。そんな特別なユニットならばその一撃に他のユニットにはない重みが宿っていたとしても──そこまで暴力的ではないにせよアキラ自身も《エデンビースト・アルセリア》で似たようなことをしているだけに──納得ができた。それにしたってエターナルの攻撃には常軌を逸した威力があったけれど、エミルが操るドミネユニットなのだからむしろそれくらいでなくてはおかしいとも思える。そうでなくては『天よりの才者』ではなく、エターナルだってそんな彼の切り札になり得ないと。


 ただしこれ・・は別だ。そういった納得や理屈とは距離を隔てた場所にある。たった今、登場時効果でこちらのライフを奪ってみせた《無限の従来ポリテクス》はドミネユニットでもなんでもない、ただデッキに入れられたカードの一枚だ。無論、三色混色トリプルミキシングカードという付加価値。絶対的な希少価値レアリティを有している、そういう意味での特別なユニットでこそあるものの。しかして出自不明、力の源も未解明、謎だらけの真の特別であるドミネユニットとはそもそもの土俵が違う。あくまで通常のカード。なんら異常も異様も異質もない普通のカードでしかない……はずなのに。


 なのにこんなにも重いのか。犠牲となったライフコア越しにもプレイヤーをつんざく撃音と振動、決して小さくない苦痛。言うまでもなくこれは通常のファイトでは起こり得ない事態だ。エミルはエターナルを使わずとも、切り札でもなんでもない一枚でも、ここまでの威力を叩き出すことが可能である。その事実が極めて恐ろしく、そして厄介だった。


 それはアキラを心理的にも物理的にも追い詰める要因にもなるからして──。


「うっ、く──」


「はは、寝耳に水の痛みだったろうによく倒れずに耐えたね。しかし君にとっての苦痛はまだ続くよアキラ君……さあ、ライフコアがブレイクされたのだからクイックチェックの時間だ。カードを引いて、そしてポリテクスの効果で墓地へ捨てるといい」


「っ……クイックチェック、ドロー!」


 引いた瞬間に、墓碑天使の無数の眼(なのかどうかアキラにはわからないが)に再び光が灯る。怪光線の束を発射した際の赤色とは違って緑色がアキラの手元へと注がれ、その手からドローしたカードを奪い取って強制的に墓地へと落とした。クイックチェック封じ。やはり面倒この上ない能力だと歯を噛み締めるアキラだったが、落ちていくカードを見て表情を変えたのはエミルの側も同様であった。


「今のは、《暗夜蝶》。自身を蘇生召喚できる緑陣営の守護者ユニット……このクイックチェックでちゃっかりと墓地効果持ちのカードを引き当てるとは」


 カード自体は、前回のファイトでも目にしている。特異な挙動をするユニットだが所詮はパワー2000の小粒である。一度蘇ってしまえばそれ以外に何ができるわけでもない単なる小型の守護者なのだから、特段に着目すべき点もないのだが……ただし、ここで彼がそれを引けたという観点には大いに注目しなければならない。


 何故ならば。ポリテクスの一撃でアキラが苦しめられたことからも明らかな通り、エミルは闘志も全開に、全力で以て彼を捻じ伏せんとしている──彼の持つ運命力ごとその全てを飲み干さんとしているところなのだ。エミルのオーラとは即ち可視化された運命力そのもの。互いの闘志がぶつかり合う現状はそれの押し合いであり、だというのにアキラはしかとこの場面で有効な札を手にしてみせた。そうはさせじと襲いくる圧倒的な闘志に苛まれながらも勝機も正気も手放さない。苦しみに喘ぎつつがっちりと掴んでいる、そこにこそエミルは瞠目させられた。


(掛け値なしに優れた才能だ──そう、負けん気だって立派な才のひとつ。どれだけ巨大な器だろうとそこに芯がなければ脆いもの。その例で言うなれば若葉アキラという器には大器たるに相応しい確固の芯が備わっていることになる。それが私への抵抗を成立させている最もの理由)


 逆に、芯ばかり立派でも。つまりは負けん気ばかりが強くて肝心の器という実力が伴っていなければ、『芯なしの大器』と同様になんの意味もなく、エミルの興味引かれる人材とはならない。直近で言えば紅上コウヤ、舞城オウラ、玄野センイチ。アキラの成長を阻害する因子として間引いたあの三人あたりは、実力以上に高いプライドを有していた好例。とまれもう少し待てば器の方が追いつきそうな、自分の築かんとしている世界にも残しておきたいと思えるような、そんなドミネイターに育つ予感を抱かせる三人でもあったために好例ではあってもここでの例えとしては少々不適切だったかもしれないが……なんにせよだ、とエミルは後悔などせずにさっぱりと物事に整理をつける。


(アキラ君という大器の完成を当然に優先すればこそ、そこそこの器である紅上君たちを排したのはまったく正しい行いだった。ムラクモ先生の助力が大きいにしたってこれだけの域に彼がいるのは、私がしたことも大いに関係しているはずなのだから──短期的にも将来的にも必要な経費・・だった。などと言えば、彼は怒るだろうか。もっと闘志を燃え滾らせるのだろうか……いや)


 無粋なことだ、とエミルは断じた。そう考えること自体がファイトに水差す行為であると。アキラは何もかもを糧としてここに立っている。持てる全ての力を出して戦っているのだから、そこに今更の挑発など無用だろう。それは相手も自分も貶める真似だ。ついついいつもの調子で煽ってしまいそうになる悪い癖を、エミルは努めて抑える。


 これ以上何をするまでもなく、燃料は注がれ切っているのだから。


「どうした、エミル。何もすることがないならターンを終えたらどうだ?」


「……ふふ。悪いがアキラ君、もう少し付き合ってもらうよ。私にもポリテクスにもやれることが残っているのでね。言ったろう? ポリテクスは相手ライフを奪うと同時に私のライフを回復させると」


 エミル 

 ライフコア3→4


「……!」


「七対三、から六対四だ。改めて数字にすると大分差が縮まった気がするだろう? ……だがこれで終わりじゃない。ポリテクスには【疾駆】という速攻能力もある」


「なんだって……!?」


 墓地に仕込まれた《暗夜蝶》が蘇るにはアキラのフィールドでユニットが破壊される必要がある。場が壊滅しているからには少なくともこのターン中に早速の蘇生がなされることはない……つまりポリテクスを止める者はいないということ。


「サタノサティスは君のユニットに対してこそ殺意の高いユニットであったが、ポリテクスは君自身にただならぬ殺意を向けるユニットだ。再び味わうといい、トリプルミキシングユニットの力を! その全身で!」


 ダイレクトアタック! というエミルの命令に従って墓碑天使は稼働。先ほど放ったのと同様の無数の赤い光線を、今度は一本にまとめて極太の大光線としてアキラへ射出。瞬きよりも早く到達したそれにライフコアがまたひとつ消し飛ばされる──だけに留まらず、先以上の痛みと衝撃がアキラの体の中を駆け巡った。


「ぐぅうああああっ!!」



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