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205.加熱するファイト! 主導権を握るのは

「たった一枚だけで……俺のユニットを全滅させるなんて」


「ふふ。サタノサティスにはバトル時に自身のパワーを+2000させるパワーアップ効果もあるのだけど、貧弱な妖精や最軽量ユニットが相手ではそちらは活かしようがなかったね」


「っ、」


 2000のパワーアップ。つまりサタノサティスはユニットとの戦闘時においてはパワー5000の中堅クラスのスタッツを得る、ということ。これは3コストのカードとしては破格の数値だ。しかも『常に5000』ではないという一見しての弱点も、このユニットにおいては登場時に発動される除去効果の一助になる。素のパワーが高いと『自身よりパワーの低いユニット』という片方の破壊条件を満たしやすくなる半面、『自身よりパワーの高いユニット』というもう一方の条件が満たしづらくなる──そして破壊が叶うのならどちらを優先したいかと言えば、当然にパワーで上回っているユニットの方だ。無論、今し方エミルがそうしたように双方の破壊を実行できたのならそれが一番なのは間違いないが。


 なんにせよ【好戦】持ちでもあるサタノサティスは総じて狂った処理能力を有した低コストユニットだと言える。たった一体で四体を処理されてしまったアキラとしてはそうとしか評価のしようがないが、しかし。サタノサティスはただの3コストユニットではなく、召喚に三色を要するトリプルミキシングという『尖った』カードである。


 混色のデッキ構築がどんなに研究が進んでも未だに二色を前提としていることからも明らかな通り、三色構築というのはハッキリ言って現実的ではない──ちょっとした遊びの場に持ち出すのならともかく、真剣に勝敗の懸かったファイトをしようという時にそれを扱うのは正気の沙汰ではない。そう断言できてしまえるくらいに、三色はデッキとしてのバランスが成り立たない劇薬・・なのだ。


 何せ二色の時点で手札とコストコアのカラー不一致。俗に「色事故」と呼ばれる現象は高確率で起こるものだ。コストコアとしてチャージされるのはデッキの一番上のカードであるからして、ドローと同じく完全にランダム。望んだ色がコアとして溜まってくれるか毎ターンギャンブルを行なっているようなものである。それでいてそこにミキシングカードまで採用しようものなら、重要なファイトの序盤においてまったく動けない確率はますます高まる。それこそ、ようやくカードをプレイできるようになってミキシングや高コストユニットの力を万全に使えるようになった頃には、もはやどうやっても巻き返せないくらいに追い込まれていた……なんて事態を招きかねないことは、誰にだって予想がつく。


 青黒の混色かつミキシングを大量に投入していながら当然のように色事故を回避しているエミルは、凄まじい運命力。まさに神に祝福されたような引きをしていると言わざるを得ない。そこはアキラとしても大いに認めるところだ。だが、さしもの彼も三色構築──いやさサタノサティスのカラーが黒赤緑であることを思えば四色・・。仮に事故らずに回せたなら協力極まりない、だが三色以上の更なる劇薬……もはや使い手だけを殺す猛毒と言って差し支えないそれを今のように涼しい顔で操れていたかというと、いくらなんでもあり得ない。どんなに並外れた引き運があろうと、望んだ展開に持っていく技量があろうと。そんな構築にしてしまえば充分に、十全に、充満に己が手足の如く動かすことはできなかったろう。それがアキラの結論。


 故にこそ、マズいのだ。


 サタノサティスの横で、相変わらず色味の欠けた──どことなくファイトを行なっていない時のエミルにも似た、色素に薄い様相で佇む妖精。色を自在に変える《円理の妖精アリアン》。本人は無陣営という色に縛られない存在でありながら、主人の望むがままにコストコアを操作する彼女がいるおかげで、今のエミルは四色どころか五色。ドミネイションズの全色を自由にしている状態だ。


 色事故のリスクを押しのけつつ、各陣営の力を存分に発揮できるという、反則インチキと称すに不足ない脅威的な強味を彼は手にした。単にフィールドが壊滅しただけでなく、そのことをしかと認識できているからこそアキラの顔付きはここまで険しくなっているのだ。


「お察しの通りだよ、アキラ君。ユニットを出すよりも先に《依代人形》を並べた理由がここにある。つまりは新構築のデッキ、その要となるアリアンを守るための壁。それが今回の人形の役割なのさ」


 エミルの進化したデッキ。その戦術の根幹を担うのがアリアンであるなら、さっさと除去してしまえばいい。常在型効果を有するユニットに共通する弱点を突けばエミルのデッキコンセプトは瓦解し、たちまち本来の強さを発揮できなくなる……とは、当然に思い浮かぶ対抗策。アキラだってもちろんそうしたいところではあるが、しかしそれを許してくれないのが件の《依代人形》だ。


 初ターンと二ターン目の動きを鈍くさせてまで二体の人形を設置した理由が、ようやく判明した。即ち《依代人形》はユニットの身代わりではなくアリアンの身代わりとなるため『だけ』に用意されたものだということ。そうなると、アキラがアリアンを除去するのは一筋縄ではいかなくなる。


(最低でも二回、アリアンはフィールドからの退場を免れることができる……しかもそうするたびにワンドローのおまけ付きだ。これは難しい局面になってきたぞ)


 最低でも、というのはつまり新たな《依代人形》のカード。三枚目や四枚目がいつ設置されるとも限らないことを加味してのもの。既にエミルの手札の中にあるおそれを否定できないし、仮にまだそこになくとも墓地に置かれた《依代人形》のドロー効果が発動されればデッキ内に眠っている別の《依代人形》を引き当てる可能性も上がるのだ。ユニットが全滅したことで現状のアキラが攻め手を欠いている状態である点も照らし合わせれば、アリアンをフィールドから引き剥がすには相当な手間がかかるというのは自明の理であった。


「確かに『壁』だな。それもとても分厚くて高い壁……最高だぜ。そうでなくっちゃ面白くないものな」


「ははは! 流れを奪われてもそんな口を叩けるなら一流だね──私はこれでターンエンド。さあ、君は再び運命を掴めるかな?」


「俺のターン。スタンド&チャージ、ドロー!」


 最初の主導権争いでは、あたかもジャンプボールを放棄するようにエミルがそれを掴み取りにかからなかった。アキラがファイトの流れを奪えたのは当然と言えば当然で、故に今。改めてエミルが主導権を握ったここから盛り返すことができるか。もう一度流れを引き寄せることができるかどうかが、アキラに問われていた。


 そこにこそ成長を遂げた彼の真価が表れる。そう見做しているのはエミルだけでなく、二人のファイトを見守るムラクモや泉といった、この日のためにアキラがどれだけの苦行を行なってきたか知っている者たちも同様だった。序盤が終わり、まさにファイトの本番はここからである、と──。


「ふぅー……」


 多種多様の想いが募り渦巻く中心、鉄火場の只中で、しかし張本人たるアキラは限りなく冷静だった。熱くドミネイターの血を滾らせながらも思考はクールだった──心を燃やし、けれど頭だけは冷やしたままに彼は考えを巡らせる。


 《焔魔の巨巌サタノサティス》

 コスト3 パワー3000+ TMC 【好戦】


 《円理の精霊アリアン》

 コスト2 パワー1000


 《依代人形》(オブジェクト)×2


 これがエミルのフィールド。サタノサティスも厄介ではあるが、やはり優先して対処すべきはアリアン。それを邪魔するのが二体の藁人形、であるならば。


「焦らず、順序立てていくしかないな。まずは人形を片付ける!」



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