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203.新たなミキシングとエミルの答え

「これは──」


 フィールドを覆う笛の根に応じて、アキラの墓地より浮かび上がるカードが二枚。オリヴィエは混色ミキシング、緑陣営であると同時に黒陣営のユニットでもある。何が起きようとしているのか、その内容を察することは容易く、そしてエミルの思った通りにアキラは言った。


「オリヴィエの登場時効果を発動、俺の墓地に眠る『3コスト以下で相手によって墓地へ置かれた黒陣営か緑陣営のユニット』を二体まで蘇生リアニメイトする! そしてその後、この効果で蘇ったユニットの数まで相手の場のユニットを破壊することができる!」


「おっと」


 複数蘇生、だけでなく複数除去のおまけ付き。ミキシングだけあってなかなかに強烈な効果だとエミルは笑う──そんな彼に構わずアキラは二体のユニットを場へ戻す。


「俺が蘇生させるのは、当然墓地にいるこの二体! 《ベイルウルフ》と《緑応鹿》! それぞれコストは1と2、条件はクリアしている!」


 フィールドへ舞い戻った小狼と葉鹿がオリヴィエを挟むようにして並び立つ。蘇生が成立したことで、付随する効果も問題なく発動された。


「これでオリヴィエは相手ユニットを二体まで破壊できるようになった」


「私の場にいるのはアンドルレギオ一体のみ。破壊能力を十全に活かせないのは惜しかったね、アキラ君」


「そいつを処理できるなら構わない。やれっ、オリヴィエ! ポワ・デストラクション!」


 オリヴィエの笛から鳴る音色がハッキリと変化し、より低く力強い、しかして同時に寒々しさも感じさせるメロディが周囲を包み直す。その音が持つ不可思議なパワーが、今度はアキラの墓地ではなく敵対者たるアンドルレギオの一身へと向けられる──その結果、巨大ワームはその身を内側から破裂させて息を引き取った。音による内部破壊。これぞオリヴィエの得意攻撃である。


「やってくれるじゃないか、アキラ君」


「……!」


 唯一のユニットを破壊されたというのにエミルは涼し気な笑みを消さず。対して破壊した側だというのにアキラの眉根には深くしわが寄った……またしても《依代人形》を使わなかった。コストの高低という大きな差こそあれど、場に出てしまえば《神器絶殺アンドルレギオ》には《侵食生者トラウズ》以上のカードパワーがある。単純にステータスだけで比較しても8000と2000だ、フィールドに残してより役立つのがどちらであるかは比べるべくもない。だがエミルは、トラウズどころかアンドルレギオをも見捨ててしまった。なんの躊躇いもなく見殺しにして、それを後悔する様子の欠片も覗かせない。


 ──強力な二体のミキシングユニット、すらも超える『何か』がいる。いよいよその予感が確信に変わったところで、アキラは自身に落ち着けと深呼吸を促す。


(冷静に状況を考えろ。仮にアンドルレギオを上回るような恐ろしいユニットが出てきたとしても、今ならさほどその対処にも困りはしないんだ──形勢は依然として俺に有利! その事実を忘れて慌てるような真似はしちゃいけない。そんなことでプレイミスをするのは絶対にご法度だ)


 エミルのフィールドはオリヴィエによって壊滅し、再度がら空き状態。対するアキラのフィールドには。


 《ベイルウルフ》

 コスト1 パワー1000


 《緑応鹿》 

 コスト2 パワー2000 条件適用・【守護】


 《恵みの妖精ティティ》

 コスト3 パワー1000


 《遠笛吹きのオリヴィエ》

 コスト6 パワー5000 MC


 四体のユニットによる戦線が出来上がっている。内三体が小型とはいえ、数は力だ。身を守るユニットのいないエミルからすれば決して軽視はできないだろう。それでいて互いのコストコアは四つ、手札の枚数は五枚と並んでいる。ライフでは七対三とアキラが圧倒していることもあって、自認通りに優勢なのはどの観点から見ても彼の方。前のターン以上に有利が広がっていることもあり、今やアキラは完全にファイトの流れを掌握できていると言っても過言ではないだろう──だとしても油断は一切なく。


「蘇った《緑応鹿》の登場時効果を発動、デッキの上から三枚をチェック……《獣奏リリーラ》を手札に加えて、残りの二枚をデッキボトムへ。この効果で手札へカードが加わったことで《緑応鹿》は【守護】を得る!」


 手札の補充、そして守護者を立てる。場をより固めて次のターンに備える。手落ちのない堅実かつ実直なプレイング。ここまで優勢を作っておきながら、なのにここまで張り詰めたようにカードを操るのは──知っているから。よく理解しているからだ。


 流れを完璧に奪ったとしても、しかしそれをあっさりと奪い返してしまえるのが目の前にいる九蓮華エミルという男であると。まさしく勝利目前の状況から逆転負けを喫してしまった前回の経験から、そう学んでいるからであった。


(ライフコア、残り一。そんな一手どころか半手の遅れも許されない崖っぷちからエミルはひっくり返してみせた──同じような展開でムラクモ先生に勝ったことで、余計に実感できた。それがどんなに難しくて、怖くて……そして楽しいことなのかを)


 ムラクモの速攻に対応しきれず追い込まれただけのアキラとは違って……逆転を目指すために極限まで頭を働かせて盤面を整えていったアキラとは、まったく違って。エミルは自ら望んで崖の際に立った上、そこから捲り上げるのにも余裕綽々。まったく神経を尖らせてはいなかったし、さして興奮してもいなかった。似たような勝ち方と言っても両者の差は大きい──その良かれ悪しかれに関わらず、アキラは思うのだ。


 ただ純粋に、エミルは凄いと。圧倒的なファイトセンスに、ひたすら脱帽であると。そう素直に賞賛し、尊敬することになんら戸惑いなどない。それだけ彼は、アキラが知る大勢の強者たちと比較してなお一等に飛び抜けた強度と完成度を誇るドミネイターである。


 だから。


「だからお前に、勝つ。たとえ次の一手でこの有利が覆されたとしても……最後に流れを掴むのは、俺だ」


 ターンエンド、と秘めやかならぬ決意の声音でそう告げたアキラに、エミルは少しばかり目を見開いてから。そしてもう一度その顔に柔らかな微笑みを浮かべた。


「まるで。これから私のすることがわかっているような……ような口振りじゃないか」


「まさかだろ。エミルじゃないんだ、俺にはそんなことできないよ。一瞬で相手のデッキ構成を見抜けもしなければ未来予知めいた先読みだってできやしない……だけど知っている。どんな方法にせよエミル、お前がこのまま俺を好きに走らせはしないってことくらいな。頭じゃなく、心でそう感じるんだ」


「ふ──その信頼はくすぐったい。だが、悪くないね。君から寄せられる期待ならば、そう、是が非でも応えたくなるよ」


 高まった闘志の共鳴か、互いの兆し故か──あるいはその両方か。いずれにしろ共通しているその感覚・・に、アキラは殉じるつもりでいる。どこまでも深みに嵌っていくつもりでいる……そうと知れたことでエミルもまた、落ちていく。より深くへ、深層へ。やがて辿り着く『底』で向かい合うことを楽しみに、今は、


「ならば応えよう。私なりの示し方でね」


「……!」


「私のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー……後行プレイヤーに与えられるディスチャージの権利は二度まで。既に二回行っている私にこれ以上の損失補充ディスチャージは許されない。だが、充分だ。コストコア五つ。これだけあれば本格的に動き出すに充分過ぎる」


 いよいよ来るか。立ち上がりとしては非常に緩やか、悪く言うなら鈍くすらあったエミルのプレイが、これより本格化する。闘志から発せられる重圧の急激な高まりにアキラが身構え、そしてエミルは一枚のカードを手札から抜き放った。



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