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201.開幕の読み合い、アキラとエミル

「《依代人形》でも流石にライフコアの破壊を肩代わりすることはできない……甘んじて受け入れよう、君のダイレクトアタックを」


 小さな牙を剥いた《ベイルウルフ》の突撃に対し、エミルは何もしない。先と変わらず両の腕を広げたままその攻撃を迎える──牙がエミルに届く、その直前に動くライフコア。衛星のような軌道でエミルとウルフの間に割って入った一個のコアが盾となって受け止める。止めると言っても基本、ライフコアはアタックに対して無力だ。主人を守る以上のことはできず、たとえパワー1000というアタッカーとしては最底辺のユニットである《ベイルウルフ》の攻撃であっても呆気なく砕け散る。だがその代わり、破壊された後にコアは主人へ贈り物を授ける。


 粉砕されたコアの粒子がエミルのデッキへと流れていき、彼に新たな力を与えた。


「ライフコアがブレイクされたことにより、クイックチェック。私はデッキの上から一枚ドローし、それがクイックカードであれば即座に無コストで使用することができる──おや、残念。発動はなしだ、引いたカードを手札に加えるよ」


 言葉とは裏腹に大して残念だとも思っていなさそうな軽い所作でエミルは引いたカードを手札に混ぜて、肩をすくめた。本当にクイックカードを引けなかったのか否か……あるいは引く気がなかったのか。どちらにせよ、とアキラは思う。


 ファーストアタックは自分が奪った。現在のエミルのライフは五、対する己は無傷の七。ファイト最序盤のこの一幕、流れを取っているのは間違いなくこちらである。無論、その流れがいつ向きを変えてもおかしくないとアキラも理解している──両者の闘志は、ドミネイターが醸すオーラは高い次元で拮抗している。それ即ち運命力の拮抗であり、均衡でもある。いつなんの拍子に決定的に破れてしまってもおかしくはないのだ。


 流れは揺蕩っている。不安定だ。今は辛うじて、ほんの僅かにアキラに有利か、といったところ。そこで自惚れるほどアキラは自分を高く置いてもいなければ、エミルを低く見てもいなかった。


(とにかく懸念していたクイックによる横槍はなかった。だったら安心して展開ができる!)

「ここで俺はこのユニットを召喚する──コスト2、《緑応鹿》!」


 《緑応鹿》

 コスト2 パワー2000 条件適用・【守護】


 角や身体の一部から緑々(あおあお)しい葉を生やした立派な体格の一頭の鹿が、アキラのフィールドへ降り立った。彼は登場と同時に角の葉っぱを散らせるような勢いで首を振り始め、それが能力発動の合図となった。


「登場時効果発動! デッキの上から三枚を確認し、その中に種族『アニマルズ』のユニットがいれば一枚だけ手札に加えることができる!」


「不確定な手札増強か。三枚と確認範囲は決して広くないけれど、2コストとしては悪くない効果だね」


「まずはデッキトップをチェック」


 三枚まとめてデッキから引いたアキラはそれらのカードの種類を手早く確かめて、内一枚を選びエミルへと開示した。


「『アニマルズ』の《ジャックガゼル》を手札に加える。そして選ばなかった残りの二枚はデッキボトムへ好きな順番で置く」


「《ジャックガゼル》。ふふ、これはまた難儀なユニットを引かれてしまったね」


 エミルへ見せる必要があるのは手札に加えたカードのみで──それが本当に条件に見合ったものであるかを証明するためのマナーだ──デッキの底へ帰る他の二枚について開示義務はない。こういった処理はファイトボードを用いない簡易ファイトで行われるものと同様に進めるのが常識。だからアキラは選んだ《ジャックガゼル》を明かしたし、エミルは選ばれなかった残り二枚を見せろとは要求しなかった。ドミネイターの流儀を守ること。それは互いに運命の一戦になると感じているファイトにおいても、彼らが共に冒すことのできない絶対の不文律であった。


「ターンエンドだ!」


「ならば私のターン。スタンド&チャージ、ドロー……ふむ。なるほどこれは、計らいというやつなのかな」


「……?」


「ああいや、こっちの話さ。なかなか面白い引きだと思ってね。とまれ今はスタートフェイズだ、きちんと宣言をしておこう。此度もディスチャージを行なう。ライフコアを犠牲としコストコアへ。これで私が使えるコストは4となった」


 初撃を奪われていながらまったく躊躇いのないディスチャージ。既に半分近くのライフコアが消失しているが、そんなことをまるで気にしていないかのようにエミルはコストコアをレストさせた。


「まずは2コスト使って、二枚目の《依代人形》をプレイ。場に並べて設置するよ」


「二枚目だって──?」


 これはアキラにとって予想外だった。身代わり効果を持つ《依代人形》を頼りとし、4コストを全て使っていよいよ強力なユニットでも呼び出すかと思えば、まさか身代わり人形の方を増やしてくるとは意外もいいところ。その不規則的なエミルのプレイングに嫌な予感を覚える。


「そう胡乱げにしなくてもいいだろう、アキラ君。《依代人形》が役目を果たすのはしばし先のことなのだから……とりあえず、それまでの繋ぎにこの子でも出しておこうか。残りの2コストでおいで、《侵食生者トラウズ》」


 《侵食生者トラウズ》

 コスト2 パワー2000 MC 【復讐】 条件適用・【好戦】


 青と黒、どちらの陣営にも所属する混色ミキシングユニット。前回のファイトでも苦しめられた低コストながらに抜群のカードパワーを持つトラウズの登場に、アキラの表情は険しくなる。


「たしかそのユニットは、俺の場に青か黒以外のユニットがいれば【好戦】を得る【復讐】持ち……!」


「正解だ。君の場には緑陣営の《ベイルウルフ》と《緑応鹿》がいるので条件クリア。トラウズは【好戦】を得て、それによって召喚したターンにもすぐにユニットへアタックすることができる。そのユニットが起動スタンド状態だろうと疲労レスト状態だろうと関係なく、ね」


 攻撃制限。俗に『召喚酔い』と呼称される制約を自身の能力により取り払ったトラウズへ、エミルは屠るべき獲物を指定する。


「トラウズで君の《ベイルウルフ》へアタックだ」


 ウルフのパワーはトラウズに劣っている。【復讐】というバトルの勝敗に関わらず相手ユニットを破壊する下剋上の能力を活かすまでもなく、ここは確実に一体仕留めておこう──というエミルの思考を、アキラは覆す。


「甘いぜエミル、こっちも条件適用だ! 《緑応鹿》は自身の効果で『アニマルズ』のピックに成功した場合、【守護】を得る! 今のこいつは守護者ユニットになってるってことさ」


「ふふん、そうかい。ということは?」


「もちろんガードする! トラウズにはウルフじゃなく《緑応鹿》とバトルしてもらうぞ」


「いいだろう、やってしまえトラウズ」


「迎え撃て《緑応鹿》!」


 主からの命令に従って小狼を守るべく前に出た葉鹿へ、黒い核に水を纏わせた人型ユニットが襲いかかる。不定形の肉体を活かし腕を刃の形状で硬質化したトラウズの全体重を乗せた斬撃が決まるのと、葉鹿がその立派な角で思い切り敵を突き上げるのは同時だった。両者のパワーは2000、互角。故に互いの一撃で相打つのは自然の成り行きであった。


「ふ……」


「……!」


 だがそれだけではない。同コスト同パワーのユニットが共倒れた、だけではないのだ。エミルとアキラはそこに互いの戦略を、そして思惑を、研ぎ澄まされたドミネイターの嗅覚によって敏感に嗅ぎ取っていた──。



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