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2.初ファイト! 黒い少年VSアキラ

 距離を置いて向かい合った二人の前に半透明の板のようなものが浮かんだ。ドミネイターの戦意に反応して出現する、デッキを置いてカードをプレイするためのファイトボードである。


 そこに叩きつけるような荒々しさでデッキを設置した黒い少年に倣って、アキラも自らの宝物であり戦うための武器でもあるそれをそっと乗せた。


「さあ! 命核ライフコアを展開しな!」


「ライフコア?」


「ドミネイターの命の象徴にして、ユニットの攻撃から俺たちを保護する身代わり……それがライフコア! 七つあるそれが全て砕けた時、そのプレイヤーの敗北が決定する。ってまさかこんな初歩的なことを知らねえって言うんじゃねえだろうな?」


「そ、そんなわけないだろ。それくらい知ってるさ」


 実際、知識としてはあった。日々コウヤを始め友人たちのファイトを見学しているアキラだ。ライフコアを減らしたり減らされたりで彼らが一喜一憂する様を見て、それがどうやらファイトの重要な部分らしい、ということはわかっていた──ただいざ自分がその立場となると、やはり勝手は違うもの。彼は黒い少年から見ても明らかにあたふたとしていた。


「……チッ。とっととカードを引かねえか。まずは五枚! それがファイト開始時点での手札の枚数だ」


「五枚……えっと、こうか」


 手早く己の周囲に浮かぶ拳大の輝く石、ライフコアを七つ展開させた上で手札も用意した黒い少年とは違い、アキラはその様を真似てようやく準備を完了させた。一枚一枚デッキからカードを引く手際もたどたどしく、この時点で黒い少年は対戦相手に彼を選んだ自身の嗅覚が鈍っていたのだと判断せざるを得なかった。


(いくらなんでもド素人過ぎる……! だが始めちまったファイトに背を向けるなんざ俺様のプライドが許さねえ。なに、定石もクソもねえようなプレイングに惑わされねーのも優れたドミネイターの素質ってもんだ。危なげなく食い殺してやるぜ……)


「先行は譲ってやるぜ! だが先行一ターン目のプレイヤーはカードをドローできない。チャージだけ行いな」

「チャージ……確かコストコアを増やすこと、だったよな」


 魔核コストコア。カードをプレイするには相応のエネルギーが必要であり、コストコアとは名の通りそれを得るための対価コストとなるものである。山札の一番上のカードがコストコアへ変換されることを、ドミネイションズ用語ではチャージと呼ぶ。


「通常はドローの前にスタンド&チャージのフェイズが入る……が、起動スタンドってのは前のターンに使われたユニットやコストコアの疲労レスト状態が解除されること。当然ファイトの初っ端には関係がねえ」


「そうだったのか」

「そうだったのか?」


「あ、いや……よし! デッキから一枚チャージ! そしてそのコストコアを使って、召喚! 来い《ベイルウルフ》!」


 わおん、と可愛らしく鳴きながら小さな狼がフィールドへと降り立った。小柄だが黒い少年を睨みつけるそのめらめらとした勇ましい眼差しには、主人であるアキラを我が身に代えて守らんとする誇り高さが窺える。


「ふん。コスト1のユニットをちゃっかり持ってやがったか……だがユニットは召喚されたターンには攻撃ができねえ。コストコアも使い切ったことだし、もうお前にやれることはねえな」


「召喚酔いっていうルールか……確かに、これ以上は何もできない。これでターンエンドだ」


「ならば俺様のターン! ドローだ!」


 デッキからカードを引き、六枚となった手札に目を通しながら黒い少年は考える。


(《ベイルウルフ》、パワーは1000……奴のデッキカラーは『緑』か)


 ドミネイションズカードには独自の世界観が設定されており、ユニットたちは五つの陣営に分かれて時に争いながら、時に手を取り合いながら日々を生きている。そんな陣営の中のひとつが緑。通常、デッキを組む上ではその色ごとに固めるのがベターであり、陣営にはそれぞれの特色・・というものがあった。


(緑陣営の得意は連携! ユニット同士での助け合いが本領だったな。序盤は小型ユニットの物量で戦線を維持し、終盤には大型ユニットで決める。そういう王道の戦法だ。手堅くてわかりやすい。はっ、確かに素人が扱うにはもってこいだ──だが! 俺様にとっちゃ王道なんざ手玉だぜ!)


「ここで俺様はディスチャージを宣言!」


「!?」


 黒い少年のライフコスト。七つの内のひとつが、いきなり砕け散った。何もしていないのに相手プレイヤーのライフが減少したことに驚くアキラだったが、よく思い返せば見学したファイトにもこういう場面はあった。


「ライフコストを犠牲にして、チャージを行なうのか!」


「その通り、対価を得るための対価ってところだな。後攻のプレイヤーは最初のターンからこのディスチャージ権が与えられ、ライフを減らす代わりにデッキの一番上のカードをコストコアか手札に加えることができる! これを俺様は一度のファイトで二回まで行える。当然お前にもディスチャージの権利はあるから安心しな」


「……!」


 黒い少年は軽く言ったが、ライフコストを支払うということはそれだけ敗北に近づくということだ。安易にやってしまっていいものかどうかアキラにはわからなかった。だがこれで、最初のターンだというのに黒い少年のコストコアはふたつ。1コスト分しか動けなかった自分との差は大きい。その思考を裏付けるように彼が動いた。


「増やしたコストコアを使って! 来いよ! 《闇人形ドールジェミニ》!」


 《闇人形ドールジェミニ》

 コスト2 パワー1000


 ゴシックな黒い衣装を身に纏った球体関節の人形。少女型で愛くるしいながらにどこか黒々とした不気味な雰囲気を放つ彼女は、場に降り立ったのちカーテシーによる優雅な一礼を披露した。


「ユニットの中には特殊な能力を持つ者もいる。こいつもその内の一体だ。見せてやるよ、ジェミニの登場時効果を発動!」


 クケケ、と少女らしからぬ笑い声を漏らしたジェミニの両目がビカッと見開かれる。瞳孔を全開にしたその恐ろしい形相に小さな狼は思わず怯み──そして全身を爆散させた。


「なっ、《ベイルウルフ》!?」


「ひゃははは! ジェミニは召喚された時、場にいるパワー1000以下のユニットを一体問答無用で破壊する! 強制効果な上にこいつ自身もパワーが1000しかねえから、他にユニットがいなけりゃ自分を破壊しちまうっつー困った面もあるが……お前がお誂え向きの獲物を用意してくれたおかげで今回は悩まされずに済んだぜ」


「くっ……」


「このまま攻撃、といきてえところだがジェミニも召喚酔いでこのターンは動くことができねえ。俺様はターンを終了するぜ」


「俺のターン! スタンド&チャージ、ドロー!」


 前ターンで使用したことでレスト状態となっているコストコアを回復させ、そこに新たなコストコアが追加される。ドローまで含めて一般にスタートフェイズと呼ばれる工程をアキラが終えたのを確認し、黒い少年が言った。


「ディスチャージをするかしないかはここで判断する。カードを使用するアクティブフェイズに入れば次のターンが来るまでディスチャージは行えない。加えて、先行を取ったプレイヤーは後行プレイヤーと違ってファイト中一回しかその権利を貰えない。さあ、お前はどうする?」


「……、」


 ライフを支払うか否か。支払うにしてもその対価を手札に換えるかコストコアに換えるか。五枚の手札と、相手の場のジェミニを見て、アキラは決断を下した。


「ディスチャージを宣言! 命核ライフコア魔核コストコアに変換!」


「俺様と同じ選択をしたか……上等!」


 アキラのライフが黒い少年と同じく六になり、代わりにコストコアが合計で三つになった。そのことに殺気混じりの笑みを見せる黒い少年へ、アキラもまた臆さず好戦的な表情を返した。


「ライフは減ったけど、これでさっきのターンより断然動ける! まずは来い、二体目の《ベイルウルフ》! 続いて召喚、コスト2! 《デンキ・バード》!」


 狼に続くようにフィールドへ現れた一匹のふわふわとした黄色い鳥。身体中からパチパチと音を立てているのは、どうやらその豊かな羽毛を擦り合わせて溜まった静電気が原因であるらしい。


「《デンキ・バード》の登場時効果! 場にいる同じ種族の一体へ【疾駆】を与える!」


「種族……! ユニットが持つ特徴のひとつ。《ベイルウルフ》と《デンキ・バード》は共に『アニマルズ』か」


「そう! これで《ベイルウルフ》は【疾駆】の効果を得る!」


「【疾駆】ってのは召喚酔いを無効化する能力──つまり!」


「召喚されたターンでも攻撃が可能になったわけだ! 行けっ、《ベイルウルフ》!」


 仲間から電気を分けてもらったことで全身の毛を激しく逆立たせた狼が、その小柄さからは信じられない脚力でフィールドを駆ける。何も反応できないジェミニの横を通り抜け、黒い少年へと跳びかかる。その牙は確かに彼を捉えていたが──攻撃を受けたのは彼自身ではなくライフコア。恐ろしい獣の牙からプレイヤーを庇う代わり、コアのひとつは犠牲となって砕けてしまう。


「ちいっ! トーシロが俺様のライフに傷を付けるとは……だがただではやられねえ。砕けたライフコアはプレイヤーの新たな力となる!」


 命核コストコアはプレイヤーの命そのもの。ディスチャージ同様、その消え際には力が遺される。


「失ったライフコアひとつにつき、デッキからカードを一枚ドローできる! これで次のターンのドローと合わせて俺様の手札は七枚。迂闊に攻めたところで敵に大反撃のチャンスをくれてやるだけだと覚えておくことだな」


「──そんなことはわかってる」


「なにぃ?」


「わかった上で、攻めるんだ! そうでなきゃドミネファイトでの勝利はない。そうだろ!?」


「……! なるほどな、思ったよりかは食いでのある獲物らしい。いいじゃねえか、そうでなきゃ面白くねえもんなぁ!」


 ターンを終了するアキラに合わせて、己を傷付けた狼よりも遥かに獣らしい獰猛な気配を滾らせながら黒い少年はターンを開始させる。


「スタンド&チャージ、ドロー! そしてディスチャージを宣言だぁ!」


「なんの躊躇いもなく……!」


 ライフを削られたばかりだというのに、まったく悩まず更に自らライフを削った。これで黒い少年の命核ライフコアは残り四つ。敗北が恐ろしくないのかと戦慄するアキラを、黒い少年は笑い飛ばす。


「何を恐れることがある? どんだけライフを削られようが先に相手をぶっ殺せばそれで勝利だ。この程度痛くも痒くもねーんだよ──俺様もディスチャージ権を使い切っちまったが! これで使えるコストコアは四つ! じっくりと味わわせてやるよ、『黒』陣営の恐怖を……!」



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