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190.双方勝利宣言

 ほんのお遊び。そう口にしたイオリの真意をアキラはしかと理解していた──そうだ、彼は《幻妖の月狐》が「欲しくて奪った」わけじゃない。場に出ている戦力として見た場合の月狐は単なる低コストの小型ユニットであり、それ以上でもそれ以下でもない。つまりは奪うべき力としては大した魅力もないカード。無防備に場に立っているとはいえわざわざ自身のライフコアを犠牲にしてまでそのコントロールを得る価値があるかと言えば、正直に言って()()


 月狐を重用しているアキラであってもそこの判断は間違えない。ならばイオリが嬉々としてそんな勿体ない真似を、言い換えれば正着ではない一手を打った理由があるとすればそれは……『示威行為』に他ならないだろう。アキラにはそれがわかっていた。


「序の口、ってことだな。月狐はただの見せしめで、そして予告でもある。ここから先に俺がどんなユニットを出しても──そのユニットを頼りにすればするほど、お前は容赦なく俺からそれを奪うっていう宣戦布告だ。ぬばたまで月狐を奪ったのは要するにそういう意味だろう?」


「ご名答。きちんと伝わっているようでイオリは一安心ですよ。ふふ、奪われるとわかっていながらユニットを出すも出さないもあなたの自由。ですがどの道を辿ろうと行き着く先は変わりないとよく覚えておくことです……イオリはこれでターンエンド!」


 ユニットも運命力も、そして勝利も。その果てにある『エミルからの寵愛』──彼が築く新世界を生きるに最も重要なそれも、奪う。何もかもを奪うのが自分であると。そう確信して口を裂いたように笑うイオリはどこまでも九蓮華・・・であった。かつてドミネ後進国であった日本を現代に至るまで支えた高家、その御三家の内の一角、九蓮華。血が持つ強欲さはかつて良くも悪くも日本ドミネ界を発展させた要因のひとつであり、薄れて久しいそれを割合として色濃く現出させているイオリは、ある意味では八人兄弟の中で最も正統派のドミネ貴族であると称して差し支えない存在だった。


 そんな彼の、エミルとはまた異質の強欲さ。それを闘気オーラからひしひしと受けてアキラは。


「勝手に目を付けられた側からしたらどうぞご勝手にとしか言いようがないが……だけどエミルからの寵愛云々はともかく、勝利までくれてやるわけにはいかないからな。予定に依然変更はない。お前の言う通り確かに俺の行き着く先は変わりなく──ちゃちゃっと勝たせてもらうぜ、九蓮華イオリ」


「若葉アキラ……いい加減にその生意気な口を、」


「閉じさせたいなら勝てばいいのさ。俺のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー!」


 怒りに目を剥くイオリに構わずアキラは五枚の手札から一枚のカードを引き抜いてファイトボードへ。


「まずは二枚目の《幻妖の月狐》を召喚、登場時効果で一枚ドローして一枚墓地へ。続けて残りの3コストで《恵みの妖精ティティ》を召喚、こちらも登場時効果を発動! 二枚ドローして内一枚を手札に、もう一枚をコストコアへ変換する」


 《恵みの妖精ティティ》

 コスト3 パワー1000


 またもや召喚された月狐と共にアキラの場へ現れたのは小柄な少女。子供にしても小さすぎるその背丈はまさしく妖精の名に相応しい愛らしさがあるが、彼女が持つ効果は愛玩要素の欠片もない実用性の塊。《誘うぬばたま》と同じ3コストでパワー1000という低いスタッツであるのも納得の強力さだ。


 どんな大型ユニットだろうとコントロールを奪って味方につけられるぬばたまとはまったく方向性において異なるものの、イオリのデッキにおけるそれと同様の役割をアキラのデッキでティティが担っていることは想像に難くない……が、それはそれとしてこんな非力な妖精がなんなのか。さっきから不遜な物言いと呼び出すユニットのパワーが見合っていない、とイオリはアキラのプレイングを嘲笑う。


「またドロー加速にコストコアのブーストですか……それで? 新たに増やしたその1コストでまた《ワイルドボンキャット》でも呼び出しますか?」


 緑陣営の使い手らしい大したアドの稼ぎ方だが、今のところ戦線は貧弱そのもの。強気の態度に隠しているだけで実のところ、奪われても大して困らないユニットを手慰みに並べているだけではないのか──つまりは見せつけられたコントロール奪取に恐れて展開を縮こまらせているのではないか。そういった疑いの目を向けて問いかけるイオリだったが、この直後に彼は自身の思い違いを知る。


「いや、残念だけど1コストで使えるカードが今は手札にない。増やしたコアを活かせるのは次のターンからだな」


「なんだ。本当にただブーストしただけですか。でしたらさっさと手番をこちらに渡してくだ──」


「だから『コストを使わずに』呼び出させてもらう」


「──さい。って、はあ?」


 アキラの思わぬ発言にイオリが表情を歪めた途端に、彼は自分の墓地へと手を伸ばし。


墓地から(・・・・)効果を発動させる──墓地にある種族『アニマルズ』と『ダークナイト』のユニットを一体ずつ。《ドーンビースト・ガウラム》と《闇重騎士デスキャバリー》をデッキに戻すことで、このユニットは一度だけ自身を蘇らせることができる。来い、緑黒の混色ミキシング! 《ダークビースト・マリナス》を蘇生召喚!」


「っ、自己蘇生リアニメイトで墓地から……!」


 《幻妖の月狐》二体と《恵みの妖精ティティ》。これらの効果で墓地へ埋めた三枚のカードは、マリナスと彼女を蘇生させるための種であった。ようやくアキラの狙いを悟ったところの彼に、骨の長槍を手足の如くに操って構えたマリナスはすぐさま襲いかかる。


 《ダークビースト・マリナス》

 コスト4 パワー4000 MC 【疾駆】 【好戦】 【復讐】


「マリナスには【好戦】の能力がある。よって出たターンに即相手ユニットへ攻撃することが可能! 《誘うぬばたま》へアタックだ、マリナス!」


 マリナスが標的としたのはイオリ本人ではなく彼が操るぬばたま。ただの一歩で彼我の距離を詰めた彼女はその勢いを落とすことなく武器を振るい、紫蛇の全身を細切れに裁断した。呆気なく散った己のユニットの死に様を目に映しながら、しかしイオリは。


「ひょっとして常在型効果よろしく、ぬばたまさえ破壊すれば《幻妖の月狐》が自分の下に戻ってくるとでも思いましたか? だとすればお生憎さま、たとえぬばたまがやられてもその効果は消えず持続します。つまり彼の眼差しが捉えたユニットは一生捕らわれたままだということ──月狐は返してあげませんよ。一度奪ったからにはずっとイオリの物なんです!」


「ん、そうか……だったらしょうがない」


 イオリが言ったように、その期待がなかったわけではない。あわよくば月狐を取り戻せるのではないか、という可能性を探った。探ったがしかし、それが叶わなかったとしても落ち込みはしない。()()ぬばたまを狙ったのはあくまでその順序がベターであると判断したからに過ぎず。


「マリナスの効果。相手ユニットを破壊した時、このユニットは一ターンに一度だけ起動スタンドする」


「っ、自己蘇生だけでなく自己スタンドの能力まで備えて──」


「《幻妖の月狐》へアタックだ!」


 驚くイオリの目の前で、再びマリナスが踊る。骨の槍の刺突で容赦なくやられた月狐の行き先はフィールドではなく墓地だが、返っていくのは勿論アキラの墓地である。奪った戦力ものがすぐに奪い返された──その事実がイオリの神経を否応なく逆撫でた。



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