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188.前哨戦!? アキラVSイオリ!

 ──重たい。


 彼を目の前にしてまず感じたのはそれだった。そして、音が遠くなったと。イオリはそんな風に思った。まるで彼という存在そのものが放つ気配によって周囲の雑音が軒並み弾かれているかのように──彼の立つフィールドが現実世界とは隔絶した異空間と化しているかのように、イオリには感じられたのだ。


 自らの体重が増したかと思うほどのプレッシャー。これは、この感覚は。


 エミルの放つそれと同じ……?


「…………」


 その少年は、若葉アキラは、何も言わなかった。イオリの顔を一瞥して、ただデッキを取り出し、出現したファイトボードの上に置いただけ。淡々とファイト開始の準備を進めるだけ。その落ち着き過ぎている出で立ちが、どうしてかイオリには無性に気に食わなかった。


「……何も訊かないんですか?」


 だから思わず、そう問いかけた。自分の前にも出現したファイトボードへ自らのデッキを設置しつつ表面上はにこやかに、しかしはっきりと苛立ちのわかる顔付きで。そんなイオリにアキラは。


「訊くって? いったい何を」


「あるでしょう、あなたには気になることが。自分の前に立っているのが何者なのか、とか。とにかく質問のひとつやふたつくらいあって当然じゃあないんですか?」


「別に。見れば大体察しも付くし、それに君がたとえどこの誰であっても関係はないよ──君を倒せば、エミルがここに上がってくる。そうなんだろう?」


 それだけわかっていれば充分だ、と。アキラは五枚の手札を引いてライフコアを展開する。これで準備は万端。会話を続ける気もなくさっさとファイトに入ってしまうつもりでいるようだ。


 ……本当に、自分が誰であっても構わない。一切どうだっていい、というその態度。見据えているのはあくまでもエミルただ一人。だけども彼は目の前の敵を軽んじているわけではなく、戦意自体は忌々しいまでにこちらへぶつけてきている──必勝の精神。気配、口調、佇まい、眼差し。その全てから滲み出すそれにイオリの癇癪はますます募っていく。


「やっぱりこの学園はふざけている。教師がそうなら生徒もだ。このイオリを、兄さまの築く新世界でナンバーツーになるイオリを、こうも軽んじてっ。どうでもいい奴として扱うなよ──イオリはお前たちなんかに見下される存在じゃないんだッ!!」


「…………」


「そっちが聞きたくなくとも勝手に自己紹介させてもらいますよ。若葉アキラ、お前を倒す者としてね! イオリは九蓮華イオリ、九蓮華家の四男、そしてロコルのでもあります。兄さまから聞いていますよ、ロコルとは『好い仲』なんでしょう? そのロコルと同じ顔をしているイオリに、あなたはこれから惨敗するんだ。無惨に敗北すると書いて惨敗! 恐れ多くも兄さまを下さんとする身の程知らずにはお似合いの末路ですよ」


「……もういいか? 待たせ過ぎても悪いから早く始めたいんだけど」


「待たせ過ぎる……?」


「ああ。だってここにいる皆が見たがっているのは、俺とエミルのファイトだからね。余計なことに時間を長く使わせちゃ申し訳ない」


「……!」


 それは、ムラクモが中心となって全校生徒を集める際に用いた出席のための理由付けがどういったものであるか。その仔細をアキラも存じているが故の言葉であったが、だがそんなことを知る由もないイオリにとっては……いや、仮にそれを承知していたとしても彼からすればひどい侮辱に他ならなかった。


 相手の戦意に負けぬだけの闘志を、殺気を全開にしたつもりだった。しかし渾身の威嚇が、挑発のセリフ共々あっさりと受け流されて──その上でそれ以上の挑発までされたのだ。彼からすればそういう状況であり、そして九蓮華家の者らしいプライドを人一倍に持つイオリのこと、もはや怒りが頂点に達するのを抑えられるはずもなく。


「──いいですよ、そうまでも。どこまでもイオリを舐め腐るのなら。お望み通りドミネイションズで教え込んで上げますよ、嫌というほど九蓮華の威光ってものを!」


 アキラに倣って手札を五枚ドロー、ライフコアを七つ展開。これで互いにファイト開始の準備は整った。


「「──ドミネファイト!」」


 先行を示すライフコアの点滅が起こったのはイオリの方だった。それを見た彼は手早くコストコアのチャージを行ないながら言う。


「あなたの牙は兄さまに届かない、どころか向けることすら叶わない。不届き者を誅するイオリの働きに兄さまは喜んでくれるでしょう……ふふふ、絶好の機会ってやつです。ここまで大掛かりにそのためのお膳立てをしてくれたのには礼を言っておきましょうか。踏み台の役目ご苦労様です、とね!」


 元々はエミルの「食べ残し」を処理する名目で役立つ人材だと強くアピールし、彼が目指す新世界にて重鎮の立ち位置に付く確約を得る。そのつもりでの同行であり、DAへの入学を目指すのだってたった一年だけでもエミルと通学を共にしたいから、などというブラコンの極まったような理由はただの建前にして後付け。既にエミルが通っているから、というだけで自分が国内最高峰の教育機関でドミネイションズを学べないなどあってはいけないことだと、そう思うからこそのであった。


 ただ、食べ残しなんて所詮はエミルに負けてもはやドミネイター未満となった哀れな生き物であり、その他の中級生だって九蓮華に属するイオリにとっては大した敵ではない(はず)なので、エミルの前でどれだけ勝ち星を連ねようともそれだけで本当に正しく評価されるのか。DAに通うことはもちろん、将来に彼の右腕として重用してもらえるのかは果たして怪しいところではあった──それが、こうなった。東雲兄弟などとは比べ物にもならない「極上の獲物」が、エミルにとっての紛うことなき「特別」がそこにいる。


 エミルの特別とは即ちイオリにとっての邪魔である。彼に一等目をかけられる者が自分以外にいては将来設計に支障をきたす。故にここで倒す。すると一石何鳥なのか数えられないほどに都合がいい。絶対に倒して、全てを好転させてみせる。間違いなく風は自分に吹いているとイオリは確信している。


(確かに兄さまが欲しがるだけあって若葉アキラ、十把一絡げのそこらのドミネイターとは明らかに違う。気配だけでイオリにもそうわかるくらいには……だけど問題ない、イオリは九蓮華だ!)


 同じ姓を持つ兄弟姉妹の中でも特別賢しく、立ち回りが上手い。そう自認しているイオリは、自分が勝てない相手はエミルくらいのものだと──エミル以外にいてはいけないのだと、そう考えていた。


「イオリはこれでターンエンドします。さあ、あなたのターンですよ若葉アキラ!」


「──俺のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー」


 引いたカードを確認したアキラは、手札から引き抜いた一枚と合わせて二枚のカードを片手に持って宣言する。


「ディスチャージを行なう。ライフコアのひとつをコストコアに変換、これで使えるコストは2。この2コストで《ワイルドボンキャット》を二体召喚!」


 《ワイルドボンキャット》×2

 コスト1 パワー1000


「そのユニットは!」


「知ってるか。なら話も早い、《ワイルドボンキャット》の効果を二体同時発動! 登場時にこのカードは自身をコストコアに変換することができる!」


 フィールドに降り立ったばかりの二体の篝火を思わせる色の毛並みをした子猫がポポン! と立て続けにその身を魔核コストコアへと変え、アキラのコアゾーンへと収まった。


 一ターン目からふたつもコストコアをブーストした。アキラのそのスピード感に、自然とイオリの目付きは険しくなった。



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