表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/510

179.決着! 答えを示すファイト!

「《ドーンビースト・ガウラム》……!」


 ムラクモが見上げるその存在を一言で表すならば、虎だった。白く、大きく、激しく燃え盛る一本の尾を持った異形の虎。野生の獣が身に宿す美しさと恐ろしさ、双方を極限まで高い次元で両立させたその姿は──どこか神々しさすら感じさせる幻想的なものがあった。


「これが」


「はい。これがマリナスに並ぶ俺の新しい切り札……そしてこのファイトに決着をつける『ビースト』です」


「……!」


 決着。その言葉に、あまりのガウラムの存在感に半ば意識を奪われていたムラクモが我に返る。決着だと。自分のライフコアはまだ三つあるのだ。見れば《ダークビースト・マリナス》のように混色ミキシングユニットですらないこのガウラムが、マリナスにすらできない三つのライフを捥ぎ取るという真似がよもや可能だとでも言うのか──いや。


 思い返し、思い出し、思い直す。たとえミキシングでなくても『ビースト』カードが軒並み強力無比な効果を宿していることは先ほど語った通りで、ガールにしろグラバウにしろレギテウにしろ、方向性こそ多少なりとも違えどその攻撃性能が天下一品である事実に変わりはない。


 補助向けのメーテールやイノセント、そしてドミネユニットであるアルセリアを除いて大別するならば。バトル特化のグラバウ、ライフコア奪取に特化したレギテウ、その中間にいるガールといった具合だろうか──ならばそう、このガウラムもまた、レギテウのようにライフを詰めるのに特化したユニットであると仮定した場合。なんの守りもない相手から三つのライフコアを奪うくらいは、わけもないことである可能性が高い。


 しかし、そうだったとしてもまだ疑問が残る。そこに説明を求めずにはアキラの見据える決着を受け入れることはできない。


「8コスト。俺の切り札である《スターマイネス・ロートレック》にも並ぼうかという大型ユニットだな。途轍もない力を秘めているのは見ただけでも理解できるし、それをこの土壇場で呼び寄せてみせるとはなるほど大したものだが……若葉。いったいどうやってたった1コストでこいつを召喚した?」


 8コストが1コストで召喚される。格安にもほどがあるだろう、とムラクモは少し眉をひそめながらアキラにそんなことができた理由はなんなのかと訊ねた。もちろん、彼は腕前確かなドミネイターにしてアキラの担当教師でもある。その謎を解き明かす鍵が先ほどの繰り返された夜蝶の自爆行為にあるとは察しも付いているが、そこはきちんと本人の口から説明をさせたかった。カードが持つ能力の説明はドミネイターの義務でありマナー。それを相手に促すこともまたマナーのひとつであるからして。


「ガウラムには自身の召喚コストを軽減する効果があるんです。『ターン中に破壊されたユニットの数に合わせてコストも下がる』。0コストにはならないという制限もついているけど、1コストまで下がるなら破格もいいところ。おかげで《集団昂進作用》と《呼戻師のディモア》をプレイしてもなんとかコストコアが足りました」


「コスト軽減効果……なるほどな」


 レギテウにも手札を捨て去ることでその分コストを軽くする効果があった──この合致はますますムラクモの推測を補強する材料となった。奇襲性に優れた『スターライト』という種族をメインに据えたデッキを扱うだけあって、彼にはよく理解できる。低コスト、あるいは無コストで飛び出して一気に場を掻っ攫う。ムラクモの戦法とレギテウの強さはそのコンセプトが概ね同一であると言っていい……ならばそのレギテウと重なるガウラムもまた、そこに則った強味を持つユニットであることはもはや疑う余地もなく。


「とはいえ楽なことじゃあない。ガウラムのコストを最低限にまで持っていくために《暗夜蝶》に自爆特攻を繰り返させた……繰り返させる必要があったから入念に場を整えた、というプレイングの経緯はわかったが。しかしそうするために使ったカードの枚数が多過ぎる。こんなのはもうコンボとも言わん、成立したのはまさに──『奇跡』としかいいようがない」


 偶然か必然か。起こってしまったからにはその区分に大した意味はなく、また当人の望む通りになっているのだからいずれにせよそれは起こるべくして起こった奇跡である。ドミネイターが引き寄せる奇跡。あるいは、覚醒の兆し持つ者が手繰り寄せる奇跡を超えた奇跡。そうとしか、いいようがない。


 ムラクモが行なった《星の加護》と《洗礼淘汰》のコンボ。そんなものとは比べようもないほど難度の高い盤面に、アキラは労せず展開を導いた──本当に労せずか。彼なりの苦心もあっただろうことを思えばアキラ本人は激しく首を振るかもしれないが、なんであれ『導かれている』のに変わりはない。……もしくは。


 若葉アキラこそがドミネイターの『導き』であるのか。


「《超大暗夜蝶》はただのコスト軽減を進めるシステム。再び甦ったマリナスすらも単なる露払いとは、活躍させる下準備がなんとも豪勢なことだ。それで? 満を持して登場したその虎はどんな決着を望むんだ?」


「──ガウラムの条件適用効果はふたつ。ひとつはパワーアップ効果。グラバウが相手フィールドのユニット数に応じてパワーを上げるのとは反対に、ガウラムは自分フィールドの他のユニット数に応じてパワーが上がります。俺の場にはガウラム以外のユニットが五体、よって5000のパワーアップ!」


 《ドーンビースト・ガウラム》

 パワー8000→13000


 ミシリ、と虎の肉体から威圧的な音が響く。ただでさえも逞しかった体に更なる力が灯り、かのロートレックすらも上回る筋肉の隆盛がそこ宿る。巨大な虎がもう一回り大きくなった──そう思えるほどに白虎の威容、威圧は留まるところを知らず。より勢いを増して燃え盛る炎尾が一振りされ、爆音と共に地を打った。


「……! 軽々と10000の大台を超えてきたか……だが俺の場にユニットはいない。そのパワーアップはさして重要じゃないな」


「戦闘が発生しないなら、そうですね。だから重要なのはふたつ目の条件適用。『自分の場にいるアニマルズユニットの種類に応じて奪うライフコアの数を増やす』という能力の方です!」


「なんだと──それはつまり」


「ご想像の通り。《暗夜蝶》と《大暗夜蝶》は同名ユニットとしてカウントされるために一種類扱い。だけど他にもマリナスとガウラム自身。俺の場には合計三種類の緑ユニットがいることになる……よってガウラムが一度のダイレクトアタックでブレイクするライフコアの数は、三つ。ムラクモ先生、ちょうど先生の残りライフとぴったりですね」


「!」


 三引く三はゼロ。幼児にだってできる簡単な計算だ。そして一回の攻撃でライフコアを三つとも奪っていくのならクイックチェックに望みを託すこともできない──そこで引く意義があるのはライフコア回復のカードだけ。しかしてムラクモのデッキはそういった方面にも強い白陣営が主軸でありながら、その手のクイックカードが採用されていない。他にどんなクイックユニットやクイックスペルを引こうともライフが尽きれば敗北確定、ということは。


 この時点で既にムラクモの負けは決まっている。それがわかっているのはムラクモ自身だけのはずが──己が勝利を微塵も疑っていない。アキラの顔付きはそういう顔付きであった。


「ふ……運気の波。運命力のピークに合わせて攻め、そのまま飲み込み勝利する。つまり引き続き俺に『引かせない自信』があるということだな、若葉。確実にガウラムのアタックで勝敗を決するという覚悟がお前にはある」


「はい。先生が心配してくれているのはよく伝わってきましたから……だからこれが俺の、俺にできる精一杯の答えの示し方です」


「そうか。ならいい──終わらせろ」


「ガウラム! ムラクモ先生へファイナルアタックだ!」


 ゴウと炎の推力で白い巨体が砲弾の如き勢いで迫ってくる。その迫力、敗北を目の前に、されどムラクモの表情は穏やかそのものであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ