178.破壊と蘇生のループ
《暗夜蝶》×2
コスト2 パワー2000 【守護】 +【好戦】
《大暗夜蝶》×2
コスト3 パワー3000 【守護】 +【好戦】
先の再現のようにアキラのフィールドを舞う四匹の蝶。先と異なる点があるとすれば、スペル《集団昂進作用》によって付与された【好戦】の能力の有無。僅かな違いのようでいてこれは甚だ大きな差異であった──アキラにとって、そしてムラクモにとっても。
「【好戦】……で、どうするつもりだ若葉。【疾駆】を与えたところで直接攻撃に制限のあるそいつらではどうしようもないが。だが【疾駆】の代わりに【好戦】を与えたってますます意味などないだろう。その能力でアタックできる相手は、俺の場にただ一体。ロートレックしかいないんだぞ」
《スターマイネス・ロートレック》
コスト9 パワー10000 【重撃】 【疾駆】 +【守護】
むん、と胸の下で拳同士を突き合わせるモストマスキュラーのポーズを取って己が発達した筋肉を見せつけるロートレック。こちらはこちらでスペル《星の加護》によって【守護】を得ており、今はその肉体美を主人であるムラクモを守るための壁としているところだ。この宇宙戦士を越えない限りムラクモのライフコアへ手出しはできない。が、数において上回ろうとも夜蝶らではロートレックに敵わないどころか、まずもって制約によりライフコアへ触れることすら許されていない。つまり「どうしようもない」という結論に変わりはないのだ。
そう指摘されて──アキラは微笑んだ。
「確かに《暗夜蝶》のパワーじゃ、それに毛が生えた程度の《大暗夜蝶》のパワーでも、ロートレックには到底敵いっこない。それは事実です……でも、だからこそいい。そういう場合だってある」
「……!」
「それを証明します! 行ってくれ夜蝶たち、ロートレックに一斉攻撃!」
編隊でも組んでいるかのように規則正しい並びで四匹の蝶が星頭の巨漢へと突撃し、そして腕の一振りでまとめて吹き飛ばされる。それはあたかも星の引力へ吸い込まれる小隕石の末路のようであった──アキラの戦線、壊滅。だが夜の蝶は散ってからが本番だ。
「ここで破壊をトリガーに《超大暗夜蝶》を復活させ、その効果を適用! このユニットが場にいる限り『夜蝶』ユニットの蘇生制限はなかったことになる。これで今破壊された四体は再び墓地から舞い戻れるようになりました!」
「だから、それがどうした。お前のフィールドはターン開始時と何も変わっていない。元通りだ。無駄に墓地と場を循環させてなんの意味がある?」
「まだですよ先生、俺の準備はまだ終わっていない。ここで! 五つのライフコアの内の四つを使ってこのユニットを召喚します──来い、二体目の《呼戻師のディモア》!」
「!」
ここにきて破壊と蘇生を同時に行うユニットの登場。すると、まさかまたしても……とムラクモが瞬時に思い描いた展開は正確で。
「ディモアの登場時効果で《超大暗夜蝶》を破壊、それによって墓地から黒以外のユニット一体を復活させられる! 俺が呼び戻すのはもちろん! 《ダークビースト・マリナス》!」
《ダークビースト・マリナス》
コスト4 パワー4000 MC 【疾駆】 【好戦】 【復讐】
「ちぃ、またそいつか」
地面から生えるように湧き出てきて、骨の長槍をひゅんひゅんと振り回しながら敵であるロートレックを見据えるマリナス。彼女の蘇ったその瞬間から戦うことしか頭にない様子には流石のムラクモもうんざりのようだった──何せマリナスには対バトルにおいて最強の能力があるのだからそれも当然。だがアキラには彼女へ命令を下す前に、まだやるべきことが残されていた。
「ディモアによって《超大暗夜蝶》が破壊されたため、それをトリガーにまた墓地の四体の夜蝶を蘇らせます! そして引き続き得ている【好戦】によって今度は《暗夜蝶》一体だけでロートレックへアタック!」
「また自殺させるだと──」
それもわけがわからないが、今度は四体まとめてではなく一体のみ? そこにどんな理由があるのかムラクモには読めない。その謎の答えはまだアキラの中にしかない。
「一体だけでもう充分。《超大暗夜蝶》が復活能力を使ってしまったのでこれ以上《暗夜蝶》が復活することはありませんが……だけどもう充分に、足りている」
「足りている、だと? いったいそれはなんの話だ」
「すぐにわかりますよ先生──そのためにも、ひとまずその邪魔なヒーローには消えてもらいます! マリナスでロートレックへアタック!」
マリナスには『戦闘破壊無効』の耐性があり、その上でバトルしたユニットを確実に屠る【復讐】の能力もある。つまり彼女に勝負を挑まれた時点でもはや運命は決しているのだ。それはロートレック自身も理解しているだろうが、しかし彼は宇宙を股にかける偉大な英雄。たとえ勝てない相手だろうと主人の敵から逃げることはせず、真っ向から自慢の拳の一撃で迎え撃って……そしてそれを躱さずに食らい、だがその代わりに致死の猛毒が塗られた刃で彼の皮膚を裂いたマリナスの、戦闘では死なないからこそ可能となる捨て身の戦法に敗れてその命を散らせた。
「ロートレック……!」
「マリナスの更なる効果を発動、相手ユニットを破壊した時このユニットは起動する! もうムラクモ先生の場に守護者はいない、このままダイレクトアタックだ!」
「ッ、」
ロートレックを斃したその足で敵陣のもう一歩奥へ。そこにいる敵の首魁へとマリナスは淡々と骨槍を振るった。鋭い音を立てて砕かれるライフコア。これでムラクモのライフは残り三。いよいよアキラとの差も縮まってきている。
「クイックチェックによって一枚ドロー……何もなしだ、手札に加える」
あれだけあったライフ差が、序盤で稼いだアドバンテージが無に帰されようとしている。今のチェックでクイックカードを引けなかった──「引かせてもらえなかった」部分も含めて、そこはアキラの奮闘を心から称賛したいムラクモであったが。しかしマリナスの殺傷力と自己スタンド能力を使い切ってしまったアキラがここからどうするのか。まだ彼に攻め手が残されているのか、そこが問題だった。
「残り、1コストだぞ。お前が使えるコストはたったそれだけだ──【好戦】を得てもディモアや残りの夜蝶では俺に攻撃の手を伸ばせん。この状況からお前は、それでも勝つつもりでいるのか?」
アキラの手札は残り一枚。それがどういったカードであっても、ここから三つのライフコアを持っていくのは不可能。そうとしかムラクモには思えないが、アキラは。一連の行動の謎の解となるそのユニットを握っているアキラからすれば、この先は「詰め」の段階であった。
「ムラクモ先生。俺、言いましたよね。エミルに負けた後、父さんから新しくビーストを譲り受けたって」
「……ああ、そこにいる《ダークビースト・マリナス》がそうなんだろう。お前が手に入れた一枚の新切り札。俺から見ても既にお前はその力を十全に扱えている」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、先生。ちょっと誤解があるみたいです。マリナスは一枚の新切り札じゃなくて、『新切り札の一枚』ですよ」
「……、なんだと?」
アキラが何を言っているのか。一瞬理解に苦しんだムラクモだったが、しかし彼はすぐにその言葉の意味を察した。
「お前の残り一枚の手札、もしやそれは──」
「はい。貰ったカードがマリナス一枚だって言った覚えはありません──俺のデッキに投入された新たな『ビースト』カードは、二枚! その内のもう一枚がこいつです! 1コストで召喚、来てくれ! 《ドーンビースト・ガウラム》!!」
《ドーンビースト・ガウラム》
コスト8 パワー8000 【疾駆】
白い巨影が、フィールドに降り立った。




