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177.虎視眈々、攻守戦!

 より強く守備を意識したデッキ作り。それに挑むにあたって《デスデイム・ブルームス》という新たな黒陣営の守護者や、『夜蝶』シリーズのカードを厚く採用すること。そこに行き着いたのは無論、ブルームスと同じ種族『ダークナイト』のクイックユニットであるデスキャバリーの存在と、元から《暗夜蝶》を守りの手段として重宝していたが故──つまりは今の自分にも無理なく拡張しやすいと思われる方法をアキラなりに選んだ結果なのだが。


 とはいえ、元の形からの拡張とはいえデッキの中身が変容することに変わりはなく。それがファイトにおいて上手く『回って』くれるかはまだ本格的な特訓を始めていないアキラにとって未知数もいいところであった。まさかそこの試験を、まさしく試験テストとして。ぶっつけ本番にも近しい流れでムラクモを相手に行うことになるとは夢にも思わなかったアキラだった……しかし何はともあれ、デッキの感触はいい。振り回されているという感覚もない。思った以上にこの変則的な構築を自分は操れている、と彼は自己評価する。


 変則的、とは普段のアキラの構築と比しての相対的な表現であるが。だが基本に忠実なビートダウン、攻めつつコストコアを溜めて大型ユニットで決める、というコンセプトを崩したことのないアキラからすればここまで【守護】持ちのユニットを重視したデッキ作りは初めてであり、そこに力を入れたからには攻め手において普段よりパワーダウンしている事実も否めない。どこかを尖らせればどこかが劣る。ムラクモが攻めにおける奇襲性を取って多様性を捨てているように、アキラもまた攻撃力を落とすことで防御力を得ている。今のデッキを端的に表すならそういう文言が最適となるだろう。


 ある意味でのコンセプト無視。徹底して遵守してきたそこを侵してまで使い慣れない形へデッキを変えた理由は、アキラ自身が言ったように『特訓のため』だ。守りを知ることは攻めを知ること。巧みに受けられるようになれば、そこに割かれるはずだった本来のリソースよりも安く済ませられれば、その分だけ攻めることにより力を注げる。──アキラもわかっていたのだ。ムラクモや、あるいはエミルに指摘されるまでもなく、爆発力。機運やカードとの絆に頼っていてはいつまでも通じないと。その戦法は自身のドミネイターとしての強さをやがて頭打ちにすると、理解していたのだ。


 だから改革が必要だった。デッキを通して意識を変える。そうすることで次に構築するデッキは、もっともっと攻撃的で自分に適したものとなる。そう、何もアキラはこの守り偏重の戦い方でエミルにリベンジしようというのではないのだ。そもそもエミルには《神器絶殺アンドルレギオ》という破壊を介さない除去能力を有するミキシングユニット、そして何より能力の全容がまだ見えていないドミネユニット《天凛の深層エターナル》がいる。戦闘や効果での破壊に強い《暗夜蝶》の布陣では、それ以外の除去には対応できない。それでもアキラがこのデッキを用いているのは、今の自分で扱える守勢として最もオーソドックスな構築を目指したからだ。その判断は、現在の戦況を見るに決して間違いではなかったろう──。


「と認めよう。甲羅に縮こまった亀のような堅さ。誰にでも通用するとは言わんが、少なくとも俺にとっては非常に突破困難な盤面だとな。ターンエンドだ」


 しかし亀のように守っているだけではファイトには勝てない。ここからアキラがどうするかに期待を持つ意味でも、ムラクモはこれ以上攻めようとはしなかった──ロートレックは攻撃権を残している。そのアタックによって《超大暗夜蝶》を屠ることはできる。少なくとも、一度は確実に。


 だがそうするとアキラの墓地に眠る四体の夜蝶が揃って蘇る。そしてそれらを屠った段階で《超大暗夜蝶》が自身の蘇生効果で戻ってくるだろう。一度きりであるその効果を使い切らせるためにはもちろんアタックすべきだ、そこに迷う余地はない。けれど今がその時かと言えば怪しい部分もあった──アキラの場にユニットが増えること。ユニット同士の連携が持ち味である緑陣営を主体とする彼の場に、更なる守勢を築くための展開の『種』を蒔く手伝いをするのは良くない。


 《暗夜蝶》の蘇生条件は相手からの破壊に限られないため、アキラが自ターンにおいて自ら《超大暗夜蝶》を破壊すれば結局同じことになる。とはいえ破壊のためにもうひと手間かかるのであれば重畳。そこからの展開に多少なりとも負担を強いられるとすれば悪くない。


 そういった計算の下にムラクモはエンド宣言をした。まずもってアキラの手札はたった二枚、次のドローを含めても三枚でしかない。仮に蘇生効果を活かしたプレイングをするにしてもその手札分しか動けない点も踏まえれば、彼にやれることは相当に限られる……。


(──やれることが、限られる……?)


「俺のターン!」


 ハッとするムラクモ。それと同時にアキラはターンを開始し、デッキからカードを引いた。その迷いなく力強い様に、ムラクモの小さな気付きはより明確さを持って確信へと移り変わっていく。


(三枚の手札に、合計の8コスト。もしもそれで若葉が守勢ではなく『攻勢を築く』つもりなら。こいつの持つ爆発力を今こそ全開にしようとしているなら──それを防ぐに俺の場はとても万全とは言い難い)


 ライフコアは四つ、守護者となってそれを守るロートレックが一体。相手がアキラでなければここでライフアウトに過度に怯える必要など皆無だが、しかし相手はアキラなのだ。このファイト中、彼はまるで息を潜めるかのようにいつもの爆発を見せていない。そこにこそムラクモは嫌な予感を覚え、そして。


波がある・・・・。そう知りました」


「……!」


「運命力。その押し合いを意識するようになって、泉先生のそれを飲み込んで勝って。逆にエミルには飲み込まれて負けました。相手が強ければ強いほど『たった一度の爆発』くらいで勝てはしないと経験として学んだ──だからここまで待った。ムラクモ先生を完全に飲み込める瞬間! それが今!」


「やはり仕掛けてくるか……!?」


 攻める側である。あと一手で勝利を掴める自分と。

 守る側である。あと一手のミスも許されない相手。


 その認識を、持ち過ぎていた。アキラが守りを固めれば固めるほどに当然ながらムラクモの注目は、その守り方に隙がありはしないか。そこを確かめる方へとシフトしていった──もしもそれこそがアキラの狙いだったとすれば。もしも守備を固める裏で、虎視眈々と攻め入る準備までしていたのだとすれば。


「いいだろう。ここから勝ち切れるのなら花丸合格をくれてやる。やってみせろ若葉!」


「言われずともそのつもりです! まずは《緑莫の壺》をレスト! 黒のコストコアを生み出し、これでこのターン中に俺が使えるコストコアは八つ! その内の三つを消費してこのスペルを唱えます──《集団昂進作用》!」


「! そいつは緑の《昂進作用》の……」


「そう、派生スペル! だけど《昂進作用》とは違って発動のために場のユニット一体を破壊する必要があり、一ターン限定のパワーアップや破壊耐性の取得はなし。その代わりに! このターンに俺が召喚する全ユニットへ【好戦】を付与することができる!」


 ユニットではなくプレイヤーに作用するタイプの効果──しかもこのスペルによって『破壊』がアキラの場で起こる、となれば。


「効果処理に入ります! 俺は発動コストとして《超大暗夜蝶》を破壊して墓地へ。これによってここから場に出るユニットは全て【好戦】を得る……そして! 俺のユニットが破壊されたことで墓地の《暗夜蝶》二体と《大暗夜蝶》二体の効果を発動、四体同時蘇生!」


 ぶわっと。まるで宙へ躍る噴水のように四匹の美しき夜蝶が、地の底よりフィールドへと舞いもどった。



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