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175.蝶、蝶、蝶!

 ムラクモの場にはロートレックとシロマネキの二体。それに対してアキラの場は。


 《暗夜蝶》

 コスト2 パワー2000 【守護】


 《大暗夜蝶》×2

 コスト3 パワー3000 【守護】


 《呼戻師のディモア》

 コスト4 パワー2000


 この四体が並び戦線を築いている。登場時効果を使い終わって実質無能力バニラユニットも同然であるディモアはともかく、三体の蝶型ユニットはいずれも【守護】持ち。その上で漏れなく自己蘇生効果を宿している、手厚くアキラを守ってくれる存在。一見して頼りなさげでその実、かなり堅牢な壁だと言えた。


 だが隙が無いわけではない。たとえば先ほど《暗夜蝶》がそれで蘇生のタイミングを逃していたように、彼らはフィールドでまとめて処理されるのに弱い。《大暗夜蝶》は前のターンに味方ユニットが破壊されていても蘇生が叶う、つまりはタイミングを《暗夜蝶》以上に選んで復活させられるユニットであるが、しかし『自身が墓地にいる状態でユニットが破壊されて以降』という条件に変化はない。蘇生効果を使うためには先んじて墓地で待機・・しておく必要があり、仮に今ここで全体除去でもされてしまえばアキラを守る壁は一体も戻ってこず──そしてムラクモの手札には、先の《魂歯みのシロマネキ》の効果でドローした二枚目の《洗礼淘汰》があった。


(あとはパワー3000以上の守護者ユニットを場に用意するだけ……その当てもある。《呼戻師のディモア》で破壊する対象に蘇生効果を使い終わった方の《暗夜蝶》を選んだのは迂闊だったな、若葉)


 ファイト中に一度。《暗夜蝶》も《大暗夜蝶》もそのカードごとに一度限りしか蘇生効果を使えない。二体の《暗夜蝶》で延々と蘇生ループを起こせるようにはできていないのだ。そこは開発者によるカードデザイン時点での配慮だろう。この制約がある以上、アキラの墓地にいる方の《暗夜蝶》はもはや無力。彼が破壊対象に選ぶべきはまだ効果を使っていない他の三体であった──と、そこまで考えてムラクモは自問自答する。


(……するか? 今の若葉が、そんな手落ちのプレイングを)


 少々使用感に癖はあるものの、《暗夜蝶》は有用な守護者ユニットだ。だからこそアキラも合同トーナメントの頃からデッキの守りの要として重用しているに違いない。彼にとって黒を代表する守護者がデスキャバリーであるとすれば、緑の守護者代表はこの蝶だと。普段から実技担当としてアキラのファイトを見てきているムラクモにとっての印象は、そうだ。


 指導ファイトの一場面くらいでしか緑陣営を使うことのない自分と違って、常にデッキカラーを変えないアキラの方が《暗夜蝶》の扱い方に関しては一家言あるだろう。なんと言っても実際にその蘇生効果をこれでもかと活用して危ないところを切り抜けてきている彼なので、ならばますますおかしいだろう。既に全体除去による被害を受けておきながら、その対処を怠るなんてことがあるのか──あるとすればそれは。


(あえて誘っている、のか。再び俺が《洗礼淘汰》ないしはなんらかの全体除去の手段を取ることを……?)


 そうとしか思えない。それだけ、せめて一体だけでも墓地に自己蘇生可能な夜蝶を仕込んでおかないアキラのプレイには違和感があった。普通のドミネイターであれば見逃してしまいそうな小さなしこりを、しかしムラクモは決してスルーしたりしない。合理的に考える。トーナメントより前の若葉であればいざ知らず、泉親子を下し、九蓮華エミルへの勝利に燃える現在の若葉であれば。その選択、その判断、その決定には全て彼なりの合理的思考というものが伴うはずなのだ……無論、そこに単なるミスというノイズが混ざっていないとも言い切れないのが相手を読むことの難しさでもあるのだが。


(だがこの点に関してはおそらく間違いない。露骨と言ってもいい誘い方だ、若葉は俺の見えないところで全体除去への備えを構えている。さすがにそれがどういったものかという仔細まではわからんが……ともかく『ある』とわかった以上、俺が行うべきはひとつだ)


 ムラクモは手札から一枚のカードを抜き出し、コストコアをレストさせる。


「シロマネキには悪いがのことでもあるからな。4コストで白の《強制献身》を詠唱する。こいつは場にいる白以外のユニットを破壊することでデッキからカードを二枚ドローできるスペルだ。お前が使った《繁栄の対価》のドロー版といったところか」


 一枚のカードで二枚引く。単純に手札を増やしたムラクモは自分が新たに手にしたカードがなんであるか確かめて、それからアキラへ視線を移して言った。


「俺もあえて誘いに乗ってやろう、若葉。何が待ち構えているにせよ現状、お前の戦線を一撃で葬り去ることが勝利への最大の近道であるのは確かなわけだからな」


「……!」


「続けて1コストで白のスペル《星の加護》を詠唱だ。こいつは場の種族『スターライト』ユニットを対象に発動され、そのユニットへ【守護】の能力を付与する。言っておくと一時ではなく永続効果だ」


 ムラクモの場にいる『スターライト』は(どころかまずユニット自体が)一体のみであるため、スペルの対象となるのはもちろん《スターマイネス・ロートレック》を置いて他にはいない。【守護】を得たからといって何か外見に変化があるわけではないが、けれどアキラの目にはロートレックの星形の頭部の放つ輝きが更に力強さを増したように映った。これ以上眩しくなられるといいかげんファイトにも支障が出そうだったが、そんなことよりここで着目すべきはやはり、無駄のないプレイばかりのムラクモにしては強引な手法で【守護】持ちを置いてきたこと。


「お察しの通りだ。お前の予想通り、あるいは希望通りに唱えてやる──残りの5コストを使用して《洗礼淘汰》を発動。守護者となったロートレックを対象に取り、互いのフィールドにいるそれ以下のパワーのユニット全てを無差別破壊する。迸れ、弱さを罪とせし浄化の光よ!」


「ぐっ……!」


 再びプレイヤー双方のフィールドを覆い尽くす暴力的な光の奔流。今度はその発生源がロートレックということもあってか──彼の持つ10000のパワーがそうさせているのか、はたまた彼自身の輝きがそれを助長させているのかは定かではないが──《ララ・らてぃんくる》から放たれた閃光よりも遥かに光量において勝り、その破壊力も一線を画していた。一瞬にして四体のユニットが塵へと変えられたことでアキラは《洗礼淘汰》とロートレックの合わせ技に戦慄を覚えて……それと同時に、笑みを見せた。


「やっぱり。ムラクモ先生ならそうすると思っていました──たとえ俺の企みを察しても、その上で堂々と! 俺のフィールドを壊滅させてみせると!」


「ほお……えらく得意気に言ってくれるが、若葉。お前の企みがなんであれはもうない。このままロートレックでダイレクトアタックすればそれでファイトは終了だぞ?」


 この惨状をどうする、と挑戦的に問いかけるムラクモに対し。アキラは一枚のカードを掲げることで答えとした──今はムラクモのターンだ、それなのにアキラはまるで己の手番であるかのように「それ」を呼び出した。


「……まさか、お前の手札にもあったのか。ロートレーやロートレックと同じく!」


「そう、先生の『スターライト』やクロノも使う『デスワーム』と同じく! 『アニマルズ』にも特定条件下で相手ターンだろうと自己召喚できるユニットがいる──それがこいつです! 来い、夜を連れる蝶の巨頭! 《超大暗夜蝶》!」



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