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173.集う蝶の群れ! アキラの守勢

「くっ……、」


 ロートレーの登場に渋面を作るアキラ。順調に攻め立てていたところに新たに相手の戦力が追加されれば悔しがるのも当然だろうが、しかしそれだけにしては少々彼のリアクションは大きすぎるようだった──その理由についてムラクモは察しがついている。


「お前のマリナスへの命じ方。他のカードを使う前にアタックできるユニットにとりあえずアタックさせた、というだけではないな。俺の反撃がないようならなんらかの手段で以て更にライフコアを削る算段だったんだろう……あるいは本当に一気にライフアウトまで持ち込むつもりだったか? なんにせよ当てが外れたな、若葉。ロートレーの自爆効果はお前にそのプレイングを許さない」


 相手ユニットの登場に反応して自分ごとそれを破壊する、ロートレーの献身的な妨害効果。発動タイミングが限定されているとはいえ、それをいつ発動するかはムラクモ次第。つまり攻めの要となるユニットだと判断できた場合にはロートレー共々破壊してしまえばその時点でアキラの攻め手が止まるということ──これは仮にアキラが守備を意識したプレイングに切り替えたとしても同じことが言え、守りの要。先ほどの《デスデイム・ブルームス》や《獣奏リリーラ》といった強力な【守護】持ちのユニットを道連れにしてしまえば彼の戦線はあえなく崩壊する。


 つまりはどちらに舵を切るにせよ、どういった作戦があったにせよ。ここでのロートレー登場はアキラにとって非常に苦しい展開に他ならないというわけだ。


(このターンに勝ち切る気でいたのなら尚のことにこたえるだろう。とはいえ、学園に来たばかりの頃ならいざ知らず、俺はもうお前をその程度のドミネイターだとは思っていないがな……)


「俺はスペルを発動します!」


 ファイト中であるからして決して言葉には出さない信頼の想い。ムラクモから向けられたそれにまるで応えるように、手札から一枚のカードを引き抜いたアキラの目はどこまでも真っ直ぐだった。──怯んでいない。そのことに教師として純粋な感動を覚える。


「緑の3コストスペル、《繁栄の対価》! これは自分の場の緑陣営以外のユニット一体を破壊することで、そのユニットのコスト分の緑コストコアを得ることのできるスペルです」


「……なるほどな。お前の場にいるのは《ダークビースト・マリナス》のみだが、そいつは──」


「そうです。混色ミキシングカードは備わっている色全てに対応する。よってマリナスは黒陣営としても扱えるので──《繁栄の対価》の条件クリア! マリナスを破壊し、俺は新たに緑の4コストを得る。ごめんなマリナス、今はこうするしかないんだ……!」


 気にするな、というように微笑を携えたままマリナスは静かにその姿を消した。彼女のいたそこからふわりと浮かび上がってアキラへと集う、四つの輝き。それは魔核コストコアへと変換されたカードが持つ輝きにそっくりだった。ただし実体カードを持たないためにそのコアにはタイムリミットがあり、次のターンまで持ち越せない制約がある。


 マリナスというエースカードを失ってまで得たその場限りの4コスト。それも《繁栄の対価》を使用するために3コストを費やしているからには、収支で言えばたった1コストしかプラスになっていない。それでは損失と収益が見合っているとはとても言えないだろう──ということは、単に1コスト増やすだけがアキラの狙いではない。そう理解を示したムラクモの予想を裏付けるように。


「俺の場のユニットが破壊されたことで墓地の《暗夜蝶》の効果を発動、自身を蘇生召喚!」


 地の底から浮かび上がり、ひらりひらちと長い羽をはためかせる妖しい黒蝶。一見して非力ながらに守護者ユニットでもある彼は、一度は確実にアキラを敵のアタックから守ってくれる心強き存在。反対にあと一撃で勝利を手にするムラクモにとっては鬱陶しい存在だ。


「このタイミングで出てきたか」


「《洗礼淘汰》の全体破壊のせいでさっきは出せませんでしたからね。それで、どうしますか先生? 《暗夜蝶》に対してロートレーの自爆効果を使うか否か」


「……使わない。そのユニットの面倒は自己蘇生能力にある。ただし一度蘇ってしまえば単なる小型の守護者でしかない。ロートレーを犠牲に取り除くには安すぎる駒だ」


 ムラクモはロートレーの温存を決めた──もちろんこれは考えなしの決定などではない。《暗夜蝶》を生かしたがために、そこを起点・・に何かしらのコンボや展開に繋がる危険性も彼はしっかりと考慮に入れて、その上でそれ以上に『ここでロートレーを切らされる方がマズい』と判断したのだ。本命を通すために妨害を使わせようとしているのなら、その本命にこそ自爆をぶつけるべき。何せアキラにはまだ使えるコストコアが八つもあるのだから、ここからどういった動きを見せるにせよ潰しにかかるべきは今じゃない。


 実に彼らしく合理的な思考の下に成ったその決断は。


「だったら俺は新たにスペルを唱えさせてもらいます──4コスト、《呼集生来》! このスペルは場の2コスト以下の『アニマルズ』ユニットを対象に発動し、それと同名のユニットをデッキから可能な限り場に呼び出すもの! これによって俺は三体・・を無コストで召喚します!」


 それはかつてミオとのファイトでオウラが用いた《天の梯子》の緑版スペル。その制約も同様にかかるが、無論のことアキラはそれを承知の上で使用している。問題なくスペルの効果処理が適用され、彼の場にはどこからともなくユニットが集った。


 ひらりひらりひらりひらりひらりひらり──四羽の蝶が優雅に羽ばたき、アキラのフィールドを黒く艶やかに彩る。その光景にムラクモは目を剥いた。


 《暗夜蝶》×2

 コスト2 パワー2000 【守護】


 《大暗夜蝶》×2

 コスト3 パワー3000 【守護】


「《大暗夜蝶》だと……!」


「ご存知ですよね、ムラクモ先生なら。《大暗夜蝶》はルール上《暗夜蝶》と同名のカードとして扱われる特殊なユニット。だから《呼集生来》で呼び出すことができた──そしてそれだけじゃありません」


「わかっている。《呼集生来》で呼び出されたユニットは効果が無効化され、アタックもできない木偶の坊となる……だがパワーやコストなどのステータス同様、【疾駆】や【守護】のようなキーワード能力は基本的にユニットから消えない。つまり無効化バニラユニットになってもその能力だけは残る。そしてアタックできないという制約も守護者ならばほとんど問題にならない」


 その上で、とムラクモはアキラのフィールドを指差して続けた。


「ユニットの効果が消えてもそれは場にいる間だけ。墓地に置かれればその情報がリセットされるのもまた基本的なルールだ……無論例外となるパターンもあるが、《呼集生来》で召喚されているユニットは例外に含まれず、つまりは墓地でこそ効果を発揮する《暗夜蝶》と《大暗夜蝶》には無効化の制約などまったく関係がない……ということだな?」


 デッキからの召喚というとんでもない呼び出し方をされていながら、実質的にこの蝶の群れはなんの制限も受けていないに等しい。《呼集生来》のデメリットを全てすり抜けて、有用性ばかりを活かしている。同名扱いの利用も含めてカード同士にシナジーがあり、コンボとして非常に美しい。それを評価する思いも込めて説明を引き継いだムラクモに、アキラは破願した。


「もっと守備にも意識を向けた方がいいなって思って組み込んだコンボです。実戦で試すのはこれが初めてですけど、思った以上に上手く決まって嬉しいですよ。ムラクモ先生が最初の《暗夜蝶》を破壊していたらできませんでした」


「ふん。そうしていたらお前は別のプランに切り替えていたんだろう……まったく、戦り辛いことこの上ないドミネイターだな」


 以前ほど我武者羅に攻め入ることばかりに注力しているわけではない──そこにアキラの成長が如実に表れており、愚痴のような言葉とは反対にムラクモの口元には笑みがあった。



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