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172.頭打ちの戦法

 マリナスが貢献できるのは攻撃面においてのみで、防御面には些かの役にも立たないのは言った通りだ。マリナスを蘇らせたところで返しのターンで身を守る術とはならない。それは残りライフ一のアキラにとっては字面通りに致命的なこと。何よりも防衛こそを第一にしなければならないからには──いや。


 そこまで考えて「もしや」とムラクモは懸念する。


(まさか若葉こいつ。ここから持っていく・・・・・気か……?)


 一気に決着をつける。そのつもりであるのなら防衛に気を使う必要などない。ムラクモにターンを渡さずにファイトを終わらせられるなら、アキラからしてもそれが最善。そしてそういった怒涛の攻めを行なうのは如何にも爆発力に優れた彼らしい戦法ではあるが……しかし、あり得ない。結論としてはそれだった。ムラクモの場には守護者ユニットが一体、ライフコアは五つ。ここからライフアウトにまで持っていくには最低でも六回はアタックをせねばならず、マリナスを含めてもそこまでの攻撃回数を捻出できるとは到底思えなかった。


 7コスト。それだけ使えれば普段のアキラならひと息に勝負を決めきることも可能だろう。ただしそれはそこに至るまでに充分な仕込みを済ませていれば、の話である。前述したようにアキラのデッキは墓地を多用する戦術が組み込まれており、そのタクティクスが件の爆発力を生む大きな要因であることは疑う余地がない。


 序盤の内から《幻妖の月狐》などで墓地に後々使うカードを埋め、《恵みの妖精ティティ》でドロー加速とコアブースト、それらの下準備を経て瞬間火力を生み出す。爆発とは言ってもアキラの怒涛の攻めは本当にただ訳もなく爆ぜているのではなく、こういった入念な用意あってこそのものだ──そこを突いて泉モトハルがアキラに『爆発させない』プレイをしていたのは記憶に新しく、そしてその対処法は何も泉だからこそ発想し得る類いのものでもなく。


 相手にリソースを作らせない。ファイトであれば誰しもが自ずと実践していることである。無論のことそれを徹底して行うというのであれば難度は跳ね上がり、途端に実行者は少なくなるが。しかしてまさかドミネイションズ・アカデミアの教員が「その程度のこと」を実戦で行えないはずもない。泉が圧倒的なコントロール力でそうしたように、ムラクモもまた圧倒的な速攻によってアキラに下準備をさせなかった。方法こそ違えどこのやり口がアキラに対して特効を持つこともまた疑う余地はない──窮地からの脱出。敗北間際から一気に捲り上げる戦い方でこれまで何度も重要なファイトを制してきたアキラなので、そこを意図的に抑えつけられると途端に手枷を付けられているような不自由さを味わうことになる。


 ピンチでこそ発揮される勝負強さ。それで勝機を掴む『快感』に、アキラは一種の中毒となっている。そうムラクモは医者の如くに彼の症状を診断する。なまじ本当にそれで勝ててしまうために厄介なのだが、とまれ大逆転にばかり拘るともなく拘ってしまう自覚なき危うさは、ドミネイターとしての欠点であり悪癖である。もちろん、そうやって強敵を下してきたからこそファイト歴の浅さを感じさせない急成長を彼が遂げられているのだと理解しているが……。


 けれど安定した勝ち方を好まないアキラに対し、ムラクモはこう指摘する──爆発に頼らなければ勝てないのであれば、遠からずその成長は頭打ちになると。


(さて。泉先生に大苦戦したこと、そして九蓮華エミルに実質敗北したこと。その経験から若葉はどこまでそれを理解できているか……)


 自覚のない悪癖も、しかし真っ当に成長と気付きを経ているなら自覚があろうとなかろうと自然と改善されることだろう。このままじゃ駄目だ。そう思ったからこそアキラもデッキ内容を大幅に見直したに違いなく、その成果がファイトにも表れるか否かは、ここからのプレイングによって明らかとなる。


 無理を通してでもあくまで爆発に拘泥するか、それとも──。


「まずはマリナスでらてぃんくるにアタック!」


「!」


 《ダークビースト・マリナス》

 パワー4000


 《ララ・らてぃんくる》

 パワー4000


 【好戦】によりレストしていないユニットにもアタックできるマリナスがその能力を活かし、守護者であるらてぃんくるへ突撃する。両者のパワーは互角、通常のバトルであれば双方が破壊されて終わりとなるがマリナスの場合はそうならない。彼女には戦闘破壊されないという能力もあるために、ここで力尽きるのはらてぃんくるだけとなる。《洗礼淘汰》の発射原となった星型生物に、先の恨みを晴らさんとばかりに激しく長柄の骨槍を叩きつけたマリナス。その一撃で呆気なくらてぃんくるは粉砕される。


「らてぃんくる撃破! この瞬間、マリナスのもうひとつの効果発動──相手ユニットを破壊したことで一ターンに一度、自身を起動スタンドさせる!」


「ちっ。【好戦】持ちはこれだから面倒だ」


 マリナスが【疾駆】だけしか持っていなければ、そのアタックをスルーしておけば被害はライフコアひとつだけに済んだのだが。けれど彼女は【好戦】に加えて自己スタンド能力まで兼ね合わせている。つくづく恐ろしい攻撃性能だとムラクモは眉根を寄せる。そんな彼の目前に、既に獣少女が武器を振り翳して迫っていた。


「マリナスでダイレクトアタック!」


「くっ……」


 らてぃんくる同様に粉砕されるライフコア。これでムラクモのライフは残り四となった。段々と差が縮まってきた。それに喜ぶ間もなく、アキラはクイックチェックを警戒しなければならない。


「効果ではなく戦闘でらてぃんくるを除去したからには一安心……だと思っていないか?」


「ッ……!」


「なら残念だったな若葉。俺のデッキにはこういうカードも入っている──クイックスペル発動、《忌々しい記憶》」


 黒陣営のクイックスペル。そこに《洗礼淘汰》以上に嫌な予感を覚えたアキラの直感はなんとも正しいものであった。


「こいつも使用にはそこそこ難のあるクイックスペルでな。発動条件は『ターン中に自分のユニットが破壊されていること』……要するにユニットをスルーされてライフコアだけを削られていた場合、このスペルはなんの役にも立たなかったということだ。そういう意味ではマリナスの戦闘特化の仕様に助けられたな」


「ユニットの死がトリガーのクイックスペル。如何にも黒らしい条件だけど、それを達成するのに適しているのは──」


「そう、守護者の層に厚い白だな。高確率で【守護】持ちが居座るからにはそれを先んじてバトルなりスペルなりで除去しておかないことにはライフコアに辿り着けない。そうすると俺はこのカードを活かせるというわけだ」


「……やっぱり凄いですね、先生たちのデッキの構成は」


 採用するカードもその組み合わせ方も、そして全体のバランスも。とてもよく考えられている──そこの腕前がやはり生徒とは明確に異なっていると、泉とのファイトも思い返しながらしみじみと述べたアキラにムラクモは小さく鼻を鳴らした。


「人並みの感想を口にしている場合か? 褒めても出てくるのはお前にとっての面倒だけだぞ──《忌々しい記憶》の効果処理。このターン中に破壊されたユニット一体と、それとは別陣営のユニット一体をまとめて蘇生召喚する」


「混色構築前提の、複数蘇生スペル……!」


「その通りだ。この効果によって俺はたった今破壊された白陣営ユニット《ララ・らてぃんくる》。そして墓地に眠っている黒陣営ユニット《魂歯みのシロマネキ》を同時蘇生。更にシロマネキの登場時効果を発動、らてぃんくるを破壊することで二枚ドロー、その内の一枚をコストコアへ変換。──効果で場の種族『スターライト』のユニットが破壊されたことにより、こいつを無コストで召喚できる」


「……!」


 やはりいたか。先ほどの確信の裏付けから顔付きを険しくさせるアキラの前に、三度そのユニットは姿を現わした。


「来い、《スターマイン・ロートレー》!」



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