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170.形勢逆転、また逆転

「バトルだ! マリナスでロートレックへアタック!」


「防ぐ手立てはない。迎え撃ってくれロートレック」


 《ダークビースト・マリナス》

 パワー4000


 《スターマイネス・ロートレック》

 パワー10000


 主人からの指示に従い激突する両ユニットには、比べるのも馬鹿らしいくらいのパワー差がある。数字の差はユニットの力関係において絶対。その例に漏れず先んじて攻撃がヒットしたのはロートレックの方であったが、しかし巨拳を真正面から食らってもマリナスの動きは止まらない。『戦闘破壊の無効』。その耐性を持つマリナスにはどれだけのパワーをぶつけても意味はない──逆にマリナスが持つ骨の刃には致死性の猛毒が塗られており。


 拳を打ち付けられながらも果敢に斬りつけたその一撃は、ロートレックのタフネスからすればほんの掠り傷もいいところであったが……されどマリナスはもう自分のすべきことは終わったとばかりに彼へ背を向けて、またロートレックも隙だらけの彼女へ追撃を加えることができなかった。がくりと膝をついた彼の逞しい肉体が内側から猛毒に侵されていることは疑いようもなく、そのまま宇宙を守るヒーロー(という設定だ)は無念の内に力尽きてしまう。


 悠々と長柄の骨武器を構え直すマリナスを見て、ムラクモは眉間に皺を寄せた。


「反則的だな。戦闘破壊耐性を持つ【復讐】ユニットは……しかもユニットを倒せば再起動スタンドまですると来ている」


 マリナスの恐ろしいところはスタンドする条件が『戦闘での破壊』と『効果での破壊』、どちらも含まれている点だろう。確実に相手ユニットを屠れる能力を持ち、それによって確実にスタンドする。そして次のユニットを狙うもよし、ダイレクトアタックするもよしだ。戦闘破壊されないからにはレストすることは他のユニットのように無防備を意味しない。どこまでも攻め得の、まさに攻撃性と殺意に満ちたユニットである。【疾駆】と【好戦】によって対応できる幅が広く、いつ召喚されても相応以上の活躍が見込める点も含め、流石に『ビースト』のミキシングカードだけはある。そうムラクモはそのパフォーマンス能力に呆れながら納得させられた。


「再スタンドにはターン中一度の制約があるので、上手くハマった時は《ビースト・ガール》の方が敵ユニットの処理能力に長けていますけどね。でもどんな盤面でも絶対に仕事してくれるのはマリナスの方だ──行けっ、マリナス! ムラクモ先生へダイレクトアタック!」


「っ、」


 再度敵陣へ攻め入ったマリナスがムラクモへ向けて刃を振るい、それをライフコアが受け止める。初ブレイク。ようやくのそれを叶えて万感の思いを抱くアキラだったが、勝つためには相手からのブレイクを一度も許さないままあと五回これを繰り返さなくてはならない。その遠く険しい道のりを思えばここで大袈裟に喜んではいられない──まずはクイックチェックで予想外の展開になりはしないか。そこに備えて身構えたアキラに、ムラクモは淀みなくデッキからカードを引いて言った。


「クイックチェック、ドロー。……発動はない。手札に加える」


「……ふう、冷や冷やしますね。だけどこのターンは俺に分があったってことでいいですよね? 残った2コストで《暗夜蝶》を召喚! 俺はこれでターンエンドします」


 アキラの場には攻撃可能な──守護者ユニットながらにデスキャバリーと同じくダイレクトアタック不可の制約がない──屍の女性騎士ブルームスもいるが、彼女にはランダム破壊の効果を活かすべくガードをしてもらわねばならず、またそうでなくとも一撃たりとも攻撃を通すわけにはいかない現状、【守護】持ちを不用意にレストさせることはできない。それを弁えているためにアキラは《暗夜蝶》という別の守護者も呼び出したのだ。


 追加で壁を立てられたのはマリナスという低コストでロートレックを処理できるユニットがいたからだ。土壇場のドローで待っていましたとばかりに手札へ来てくれた彼女に感謝しつつターンを終えたアキラに、ムラクモは言う。


「随分と楽しそうだな。いや、実際お前はこれ以上なく楽しんでいる。珍しいぞ、それだけ自分のピンチを喜べる奴は……特に敗北寸前の、本当の瀬戸際で笑えるドミネイターはな」


「そうですか? ……そうかもしれませんね、ドミネイターなら誰だって相手を圧倒して勝ちたいだろうから。俺だってそういう勝ち方が気持ち良くないわけじゃない──でも」


 でもそれでは物足りない。

 というより、勿体ない気がする。


 苦戦して、あわや敗北を覚悟して、その末の勝利。そちらの方が『より強くなること』を目指すのならば意義がある。圧倒して勝つというのはつまり相手との力量差が大きいということで、そこに同格や格上を相手に苦しんだ時ほどの新たな気付きや成長はないのだから──故に窮地は喜ばしい。ここを乗り越えた時、自分はまたひとつ理想のドミネイターへの階段を上った。段階・・が進んだと実感できることが、アキラにとっては目先の勝敗よりも余程に重要だった。


「苦戦するばかりが成長の道じゃないとは思いますし、この考え方が俺に敗北を刻むことで成長させようとしたエミルのそれと似ているのも、自覚しています。だけどあいつと俺にはたったひとつの決定的な違いがある……だから俺はエミルに挑む。そして勝つ──勝たなければいけないと、そう思っているんです」


「……なるほどな。心意気に関しては充分。俺が何をするまでもなく整っているようだな。だが問題はその思想に伴うだけの力量があるかどうか。九蓮華エミルには恐るべき野望と恐るべき力の両方が備わっている──果たしてお前は奴とは違う形でそこに並び立てるか。それだけに留まらず奴を上回れるか。その試金石としてこのファイトは大いに役立てるはずだ」


 それに相応しいハードルとして立ち塞がること。アキラの飛躍のための踏み台たり得るファイトにすること。それを意識してムラクモは自身のターンへ移行する。


「俺のターン、スタンド&チャージ。ドロー」


 《ダークビースト・マリナス》

 コスト4 パワー4000 MC 【疾駆】 【好戦】 【復讐】


 《デスデイム・ブルームス》

 コスト5 パワー3000 QC 【守護】


 《暗夜蝶》

 コスト2 パワー2000 【守護】


 自分の五枚の手札、そしてアキラのフィールドを眺めてムラクモは思考する──ロートレックをやられ、ライフコアを削られ、その上で【守護】持ちまで増やされるとは想定外。アキラの運を試すとは言ったがたった6コストでここまでの最善・・を引き寄せてくるとは思いもしていなかった。そこに寄与しているのはやはりマリナスの存在だが、とまれ攻撃性能に特化している彼女はそれだけに、ムラクモのターンにはなんの妨害ともならない。最短での勝利を目指すのであれば無視してもいい……が、だとしてもだ。


(ガードすることでこちらのユニットを一体は持っていくブルームス。そして《暗夜蝶》は自分のユニットが破壊されたターンに自己蘇生が可能な守護者……堅固とは言わんがそれなりに鬱陶しい布陣だな)


 守護者ユニットの数はたった二体、ながらにそれを超えてダイレクトアタックを通すためには三度の攻撃では足りないのが目に見えている。特にフィールドが壊滅状態にある今は、いかにムラクモの操る『スターライト』が奇襲に長けた種族であったとしてもここから一気にファイトを終わらせるのは至難の技となる。


 幸い、欲しかった除去札をクイックチェックによって引けはしたが──。


「まあ、迷うのも馬鹿らしい。少々割高だが使ってしまおう」


 まずはこいつを召喚、と場に出たのは最初に召喚されたてぃんくるが大型になったようなユニット。


 《ララ・らてぃんくる》

 コスト3 パワー4000 【守護】


「そしてらてぃんくるを対象にこのスペルを手打ちする──白の全体除去クイックカード、《洗礼淘汰》だ」


「……!」


 見覚えのあるそのカードに、アキラの表情が歪んだ。



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