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163.本気のファイト! ムラクモVSアキラ!

「ムラクモ先生……わかりました」


 アキラは頷き、デッキを取り出す。本音を言えば今すぐエミルへ挑みに行きたい気持ちは変わらない。こんなところで時間を使っていいわけがない、と今もこんこんと眠り続けているコウヤ、オウラ、クロノ。三人の友のことを思えばそう焦ってしまうのは当然だろう──だが、それでも理解した。逸る気持ちとは裏腹に頭ではこれが必要かつ最短の過程であると認められている。


 なんの策もなく。成長したという実績なくしてエミルに挑むのを愚行と称したムラクモのそれは正論以外の何物でもない。以前とは違いエミルに対する怒りに燃えている今、使命感に駆られている今。その熱量の差分、彼を前以上に手こずらせることはできるかもしれないが……しかしそこで『勝てる』とはアキラも思えない。自信を持って断言することができない。それだけ九蓮華エミルとの間にあった差は大きかったし、そして何より。


 前回のファイトでは彼の本気をまったく引き出せていない──そう確信しているからこそ、アキラはこの状況を受け入れる。修練と試練の間。そう名付けられた殺風景な地下室で、ムラクモの課す特別テストに合格する。それができたなら自分はきっと大きく成長できているはずだから。


「俺も本気でいかせてもらいます」


「ああ。そうでないとここにつれてきた意味がない」


「「──ドミネファイト!」」


 互いに手札を五枚引き、ライフコアを展開。先行を知らせるコアの明滅が起こったのはムラクモの方だった。


「俺からだな。チャージをして、1コスト使用。《ラ・てぃんくる》を召喚」


 《ラ・てぃんくる》

 コスト1 パワー1000


 ピカピカと輝く小さな塊。淡雪のようなそれは見た目通りに非力の、なんの効果も持たない白陣営の最軽量バニラユニット。同じ白陣営でかつ同ステータスにはオウラのデッキに入っている《小天星ルル》もいるが、ルルとの違いは種族だ。ルルが『エンディア』であるのに対しててぃんくるは『スターライト』であり、それによって運用に差別化が図られる。


「俺はこれでターンエンド」


「俺のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー!」


 手札を確認しつつアキラは考える──能力によって互いに強化をかけ合い並べば並ぶほど強固な布陣となっていく『エンディア』とは違い、確か『スターライト』は白陣営にしては珍しい個人主義。一体一体のユニットが個別に強味を持つタイプの種族だと記憶している。そうなると最軽量ユニットに《ラ・てぃんくる》を採用しているからといって必ずしも『スターライト』の種族シナジーを重要視しているデッキだとは言えないかもしれない……極端な話、白陣営のコスト1であればなんだっていいと考えての投入かもしれないのだから。


 とまれそこはファイトが進めば明らかになるのだ、今は初ターンから動いてきたムラクモに対抗すべく自分も動くべき。そう結論した彼は。


「ディスチャージを宣言、ライフコアのひとつをコストコアへ変換!」


「!」


「2コストでオブジェクトカード《緑莫の壺》を設置、宣言するのは黒! これで俺は毎ターン黒のコストがひとつ多く使えます!」


 設置したターンからでも《緑莫の壺》はコストを賄ってくれるが、アキラの手札に1コストだけで使える黒陣営のカードはない。黒を指定したのは先を見据えてのことであり、今はこれでいいとエンド宣言を行う。最速でユニットを出してきたムラクモに対しオブジェクトを置くだけに留まったのは少々の出遅れと言えなくもないが、されどターンが経過するほどにアドバンテージを生んでくれるカードを最初に場へ出せたのは悪くないだろう。出遅れを補って余りある加速を期待できる。というアキラの考えは当然ムラクモにも察せられている──その上で彼の出で立ちに変化はなく。


「俺のターン、スタンド&チャージ。ドロー」


 ちらりと引いたカードを確かめた彼は、迷わずディスチャージ権を切った。


「こちらもライフコアをひとつコストコアへ変換する。これで溜まった3コストを使う──前に、《ラ・てぃんくる》でダイレクトアタック」


 場がガラ空きなら攻めない理由がない。元よりアキラのデッキは攻撃力に比べて守備力が、つまりは【守護】持ちが薄めであることは担当教師としてムラクモも存じている。クイックチェックの機会を与えてしまえば序盤から《闇重騎士デスキャバリー》といった強力な守護者が飛び出してこないとも限らないが、無論ムラクモはそれを恐れてプレイが縮こまるようなドミネイターではなく。


 そして仮にそうなったとしても、アキラへの最適解は間違いなく速攻これ。彼が爆発力を発揮するための下地を作らせないまま倒し切ることである。


「ぐっ……!」


 てぃんくるがアキラのライフコアへと体当たりする。それはまるで小さな星と星とが衝突したような光景だったが、一方的に砕けたのはライフコアだ。それによってアキラはカードを一枚ドローする──が、引いたのはクイックカードではなかった。ムラクモの予想通りにデスキャバリーの登場を期待していた彼だが、早々にそれが叶うほどムラクモの運命力は弱くないようだ。それは初めからわかっていたこと、そう残念がりはしないものの……しかし問題はこうも早くファーストアタックを決められた点にある。


 迅速、かつ果断。白陣営を使って行うプレイとしては珍しいそれをムラクモが行なったのは、何も自分がユニットを出していないせいだけではないとアキラは勘付く──速攻は最初からの既定路線。ムラクモはおそらく短期決着を目論んでいる、と。


(泉先生がやったのと同じ、俺が大きく攻め込むための用意をさせない戦法。ガチガチのコントロールでそうしたあの人とは違ってムラクモ先生は、ファイトの展開を早めることでオレに何もさせないつもりでいる……!)


 短期戦を狙っての速攻──やることが単純で初心者でも手を出しやすい反面、成功させるには実はかなりの技量が要る難しい戦法だ。大抵は相手ライフを削り切る前にガス欠の方が先にやってくるというどうしようもない欠点。そこに悩まされて、あるいは学びを得て自分なりにデッキを見直し、中速や低速の構築に切り替えるドミネイターは後を絶たないわけだが……言わずもがなドミネイションズ・アカデミアで教鞭を執っているムラクモがまさかそこに解決策を見出していないはずもなく。


「3コスト使って召喚、《魂歯みのシロマネキ》」


 《魂歯みのシロマネキ》

 コスト3 パワー2000


 ハサミのような形で巨大な杭を両腕に持った異形の蟹。としか表現のしようがないそのユニットは、登場と同時にぎょろりとした目玉を味方であるはずのてぃんくるへと向けた。


「登場時効果を発動、自軍の白ユニット一体を破壊し、俺はカードを二枚ドロー。その内の一枚を手札へ、もう一枚をコストコアへ変換する」


「……!」


 シロマネキは黒のユニット、でありながら効果は白陣営との混色構築が前提となっている。それを活かそうと思えば構築が狭まる分、得られるアドバンテージは大きい……何せシロマネキのそれはドミネイションズにおけるアド稼ぎの代名詞たる種族『フェアリーズ』、その中でも代表的なカードとして知られる《恵みの妖精ティティ》とまったく同じであるのだから。自ユニットの破壊を条件とする黒らしい制約も付いてはいるが、しかしそれにこそ長けているはずの黒ユニットが緑の得意分野で活躍するというのは凄まじい。


 何より、ムラクモのことだ。きっとユニットの犠牲にだって明確な意味を持たせてくるはず──というアキラの警戒は実に正しくて。


「破壊とドローの処理は同時だ。よって俺は今引いたこのユニットを()()()()で召喚する。来い、《スターマイン・ロートレー》」



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