表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/510

16.挑め、ドミネイションズ・アカデミア!

 光陰矢の如し。一ヵ月という時間はあっという間に過ぎ去った。学校の勉強もそっちのけで日がなドミネイションズカードのことばかり考えていたアキラにとっては、ここ最近の全てがまさに矢が飛び去っていくような一瞬のことにしか感じられなかった。そのせいもあって、栄えある『ドミネイションズ・アカデミア』の本試験会場Aにてアキラはカチコチに緊張してしまっていた──既に会場にいる肉体に対し、まだ精神の実感が追いついていないのだ。


「うう……予想してたことではあるけど、やっぱ俺だけ浮いてる感が半端ない……!」


 右を見ても左を見ても強そうなドミネイターばかり。とても同じ歳の子供たちとは思えないほどに皆が堂に入っている、ようにアキラには見える。なんなら傍から見ても明らかな己の緊張ぶりを笑われてしまっているような気すらしてきた──こうも不安になるのは、果たして本当に成長できているのかと自分で自分に懐疑的になっているからだ。


 毎日何戦もファイトしたし、その都度細かくデッキ構築も見直してきた。ドミネファイトへの知識もプレイングもほんの少し前までとは雲泥の差になっている、それは確かだ。


 しかし絶対的な成長度はともかくとして、相対的にはどうか。そもそも他のドミネイターとはスタートラインが違っているのだから、たとえ少しばかり急いだとてそんなものは焼け石に水なのではないか……そういったネガティブな思いに捕らわれてしまうのも無理はない。何せアキラは、これからの人生全てを左右するほど重大な試験を受けるのだ。そのプレッシャーからナーバスになってしまうのは自然なことでもあった。


「いや……ロコルも言ってくれたじゃないか。俺は、強い。強くなったんだ。努力の期間は人より短かったかもしれないけど、濃密さなら負けてない自信がある。皆に協力してもらって培ったものを緊張なんかで台無しにはできないぞ。落ち着け、若葉アキラ」


 自分にそう言い聞かせることで、何もしていないのに荒れていた呼吸も少しは落ち着いてきた。冷静になって今一度辺りを見渡してみれば、自分と同じく会場内で待機している誰もが多かれ少なかれ緊張しているのがわかった。アキラほどそれを表に出してはいないが、よくよく見れば冷や汗や貧乏ゆすり、忙しく周囲へ視線を走らせている者など、平常ではないサインが何かしら出ている。


 なんだ、他の受験生も俺と同じなんだ──そう思えばアキラの心も多少軽くなった。


「でも、あの子はちょっと他と違う感じだな……」


 たった一人だけ。少し離れた位置にいる背の低い少年。とても十二歳には見えない幼い見かけをしているその子だけは、まったく緊張の様子が見られなかった。頭の後ろに両手をやって、軽快に口笛まで吹いている姿からは試験に対する気負いなど一切感じられない。虚勢などではなく彼は確実にリラックスしていた──誰もがプレッシャーに押し潰されそうになっている、そうならなければおかしいこの場面で。それは異様なことであった。


「同じ試験会場ってことは、あの子も俺にとってはライバルか。ちょっとついてないな」


 あれは間違いなく強者だ。その独特な佇まいから身近にいる強力なライバルたちを連想したアキラは、故に彼のことも手強い相手であると認識した。


 本試験を受けられるのは振るい落としのペーパーテストで必要最低限の学力と『詰めファイト』の実力を確かめられ、受験生に相応しいと認められた子供たちだけ。その予選合格者たちがいくつかの会場に別れ、本戦とでも言うべき本試験で激しく蹴落とし合う・・・・・・。年度ごとに細部は変わるが、本試験でぐっと人数が減らされるのは毎年共通しており、その選別方法がサバイバルに近しいこともまた恒例であると言われている。


 つまり、同じ試験会場にいる者はその全員が打ち倒すべきライバルなのだ。


(ペーパーテストに関しては、意外と楽勝だった。けど、ざっと見ただけでも会場内にいるドミネイターは千人を下らない。ここと同じ規模の会場が他にも十個はあるってことを考えると、あのテストは受かって当然のものなんだろう。やっぱり本試験からが圧倒的に厳しいんだな……!)


 アキラは知る由もないが、今年のDA受験生は三万人強。その中から本試験に進めたのは一万と千人。彼にとっては簡単だったペーパーテストでもおおよそ三人に二人が振り落とされている。決してスルーできて当然というほど易いテストではなかったが、しかし彼の考えもあながち間違っていない。なんと言っても例年通りなら今年もDAに入れる新入生は五十~六十人程度であり、その人数にまで絞られるとなるとここから二百人の内の百九十九人が不合格となる計算になる。


 本試験こそが本番にして過酷な試練であるという認識は実に正しいものであり、だからこそアキラよりもずっと以前からDA受験を視野に入れていたドミネイターであっても、その本番とあってはこうして緊張が避けられないでいるのだ。


(試験の厳しさは平等だ。ファイト歴が十年だろうと一日だろうとこの場にいるなら関係なく、学校に認めてもらえなきゃそこで終わり。──俺は俺の精一杯をぶつける!)


 アキラが強く意気込んだところ、丁度のタイミングでモニターに映像が出た。広い会場内のどこからでも目に入る巨大な画面に一人の男性が映る。カッチリとしたスーツ姿ながらに髪はもじゃもじゃ、顔付きもものすごく眠たそうな、いまいちちゃんとした印象を受けないその男性の正体は──『試験官』。会場Aを担当する、要はアキラ始めこの場のドミネイター全員の命運を握っていると言っても過言ではない重要人物である。


 ごくりと大勢が唾を飲む。その音が響き渡るほど皆が皆、物音ひとつ漏らさず真剣にモニターへ注目する中。画面内の彼は会場の温度とは正反対のまったく熱も覇気もない声で言った。


『えー、試験官のムラクモといいます。それでは私の監督下で本試験を始めようと思います……やってもらうことは簡単、三勝・・を目指してください。それだけでいいです』


 ざわり、と場の空気が動く。三勝できれば合格──できなければ不合格ということか。しかし戦う相手は誰で、どうやって決定されるのか。その困惑に答えるように試験官が一台のドミホを手に取った。


『皆さんドミホは持ってますね? その中にはDAの受験アプリも入っているはずです。それが戦うべきドミネイターを教えてくれますよ。指示に従ってちゃちゃっと勝ってください。良いファイトを期待しています……はい、それではスタート』


 ビーッ、ビーッと会場内のあちこちでドミホが鳴り出した。それが通知音であることに気付いた各自がドミホを取り出して確認する。アキラもそれに倣って自分のドミホを見てみれば、受験資格の入手の際にインストールしていた受験アプリが勝手に立ち上がっており、画面内で矢印がぐるぐると動いていた。もしやと思い方位磁石のようにドミホを水平に持ってみれば、案の定回っていた矢印はその勢いを弱め、やがてひとつの方向を指し示して止まった。


 ならばこの先に、とアキラが顔を上げれば。


「どうやら君だな? 俺のファイト相手は」


「!」


 既に対戦相手が目の前まで来ていた。彼の手にあるドミホを見れば、確かに矢印はこちらを向いて止まっている。受験アプリは二人が対戦相手であると教えてくれている──それがわかれば、すべきことはひとつしかない。


「やろうか。どっちが勝っても恨みっこなしだ」


 デッキを取り出して掲げたアキラに、対戦相手の少年はニヤリと笑って応じるようにデッキを持った。


「悪いけど、勝つのはこの俺さ。君には敗退してお家に帰ってもらおう」


「……! こっちこそお生憎、負けるつもりはさらさらない!」


 相手から感じる緊張と、それ以上の自信。長くドミネファイトをやってきている者特有の闘争本能というものを肌で察したアキラは、厳しい勝負になることを予感しつつもライフコアを展開させてデッキから五枚の手札を引いた。


 ──絶対に勝ってみせる、誰が相手だって!


「「ドミネファイト!」」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ