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149.エミルVSコウヤ!

「む──無念、ですわ……きゃあああっ!」


「オウラッ!!」


 放たれたトドメの一撃。ライフアウトを喫したオウラの華奢な肢体が宙を舞う。クロノの時と同様にその体を抱き留めたコウヤはすぐに彼女が無事かどうかを確かめたが、そこもクロノと同じだ。気を失っている。おそらくすぐに目覚めることはないのだろう、と腕の中でぐったりしているオウラを見てコウヤはそう思った──故に怒りを更に募らせる。そっと自身最大のライバルを横に寝かしてやって、彼女は言った。


「すぐに柔らかいベッドで寝かせてやる。それまではここで我慢してくれ……お前とクロノを運ぶ前に。アタシは奴をぶっ倒さなきゃならないんでな!」


 立ち上がり、睨みつける。そうしたところでエミルが大した反応を見せるとは思っていなかったし、実際彼はコウヤ渾身の殺気をぶつけられてもそよ風でも浴びているかのように涼しげな相好を崩していなかったが。しかし関係ない。エミルがどう受け取ろうが受け取るまいが、とにかく抑えてはおけないのだ。この全身を沸騰させるような憤怒を、オウラのファイト中にはまだしも外に漏らすまいと蓋した激しい感情を、もはや抑制する必要もなく。


 だからコウヤはエミルを指差しながら、大股でさっきまでオウラが立っていた位置へ──戦うための立ち位置へと進み出た。


「終わったばかりだがすぐに準備に入りな、九蓮華エミル。アタシとドミネファイトしてもらう」


「勿論そのつもりだとも。君で最後だね」


「ああ、アタシで終わりにさせてやる。あんたのその暴力的なファイトをな」


 アキラの仇を討つ、だけでなく。『準覚醒者』を自称するエミルとのファイトは、それが真実か否かに関わらず何か普通でないことは確かだ。それがオウラとクロノに通常のファイトではあり得ないほどのダメージを与え、昏睡させている。ならばそうさせたこの男を倒さない限りは二人は目覚めないのではないか。根拠があっての発想ではなかったが、けれどコウヤはそう直感したし、それが間違っているともまったく思わなかった。


 二人を救うためにもこの男はここで絶対に倒さねばならない。そしてそれは二人だけでなく、これから先にエミルの毒牙にかかるであろう不特定多数。まだ見ぬ未来の『犠牲者』を救うことも意味するはずだ。そう確信したコウヤは怒りだけでなく、それと同量の熱意を持つ使命感にも駆られていた。


 ただし彼女の感情にはとんと無頓着なエミルも、この点については異論もあるようで。


「君たち凡夫・・はいつもそうだね」


「ああ?」


「自分のことは棚に上げて私ばかりを責める。これまで何人もドミネイターを辞めさせてきたけれど。その度に心折れた本人が、そしてそれと親しい周囲の者がこう言うんだ──『どうしてそんな真似ができるのか』と。『そんなことをして何が楽しいのか』と。恨みがましく、鬱陶しくね」


「言われて当然だろうが」


 アタシだったらもっと口汚く罵るね。そう吐き捨てたコウヤへ、エミルはほとほと呆れ果てたといったような表情で首を横に振った。


「別に、有象無象からの罵倒に傷付くような私ではないが。しかしショックはショックだよ。それに気付いた時は文字通りに衝撃的だった。凡人とはいったいどこまで矜持を持たずにいれば気が済むのだろうと、眩暈すら覚えた。だってそうだろう? 自分だってドミネイションズを使って自分以外の誰かを下しているのに。それを日常のこととしているくせに、私のことは非難する。ドミネイターとは他を殺し我を通す者。ドミネファイトとはそのための手段であり、カードは道具だ。それがわかっていないのならそいつはドミネイターを名乗る資格のない愚図。わかっていながら目を背けているのなら、それもまたドミネイターに相応しくない屑だ。つまりだよコウヤ君。私が排除してきた彼ら彼女らとは即ち、このドミネ界に必要のない者たち。いなくなって初めて利益となってくれる病原体のようなものだったのだ」


 私は間違った行いをしているかい、と。本気でドミネ界隈の洗浄・・。その発展に貢献することをしてきたと信じているエミルの目には一点の曇りもない。独特な色彩を持つ瞳孔がかっ開いてやがる、とコウヤはまるで人の物とは思えないその瞳を真正面から見つめて。


 ペッと唾を吐いた。


「知るかってんだ、てめえの理屈なんざ」


「おや……君もやはり理解してくれないのか」


「理解できねーし、したいとも思わねーよ。誰にも理解されないままここでくたばれ、自分本位の下種野郎」


「ふ。随分と嫌われたものだね……構わないよ。君らに好かれたいとは思わない。革命を成す者はいつの時代も疎まれる。だがそれでいい、それがいい。誰にも理解されないわけじゃあない──相応しき者にだけその資格が与えられるのだ。私にだって理解者はいるのだよ、コウヤ君。私の思い描く理想世界の住人に名乗りを上げてくれる者がね」


「そりゃ酔狂なこって……いや、単純にそいつも狂ってるのか? てめえと一緒でな」


「私からすれば狂っているのは君たちであり、君たちが構成するこのドミネ界そのものなのだが。しかしこれは水掛け論、語るに意義のない堂々巡りだね。まあ認めるべきは認めよう。確かに私の味方は、賛同者・・・は少ない。だからこそアキラ君や妹がこちら側に来てくれればと期待しているし、そのためにも君たちには犠牲になってもらおうと考えたわけだ」


「言ってる意味がわからねえな。味方につけたい相手の友人をこんな目に遭わせる? んなのどう考えたって逆効果にしかならねえだろうが」


「ははは。そこも理解できずとも結構。それがわからないからこその凡夫だ。非凡な才能がどう育つかを知らぬままに、その糧となるがいい。これ以上の誉れは君たちにないのだからね」


「どれだけ……」


「うん?」


「どれだけアタシらを舐め腐れば気が済むんだ、てめえはッ!!」


 コウヤの前にファイトボードが出現。ドン!! とそれを叩き割らんとするような勢いでデッキを置いた彼女は、勇ましく吠える。


「さっさと準備をしな! アタシに負ける準備をだ!」


「ふむ。クロノ君やオウラ君もそうだったが、君たち殺気だけは──ドミネイターとしての闘志だけはピカイチだな。そこだけは上級生相当と言える。惜しむらくはその猛々しい戦意に実が伴っていないところだね。気持ちと自信ばかりが先行し過ぎている……それを悪いこととは言わないが、けれど身の丈を超えればしっぺ返しを食らうのが世の常」


 ボードの上に広げられたカードをまとめ、デッキをシャッフル。それから手札を引き、ライフコアを展開。言われた通りに手早くファイト開始までの手順を済ませたエミルは、五枚の手札で口元を覆ってコウヤを見つめた。ニィッ、とその目が笑みの形に細まる。


「私がきっちりと分相応の扱いをしてあげよう。その程度の実力でアキラ君の親しい者になってしまった厚かましい図々しさの、ツケというものを支払ってもらうよ」


「ツケを払うのはそっちだろうがよ。今日までのさばってきた悪行の代償! 今ここでアタシが取り立てる! 毛の一本すらも残らねえと思えよ、九蓮華エミル!」


「ああ、それができたらいいね──是非ともやってごらんよ紅上コウヤ君」


「「──ドミネファイト!!」」


 先行を取ったのはコウヤの方だった。ライフコアの瞬きを視認した瞬間に彼女は一枚のカードを繰り出していた。


「《ゲットボーイ》を召喚!」


 《ゲットボーイ》

 コスト1 パワー1000


「最速でユニットを呼んだか……それが君のファイトスタイル」


「アタシの出せる最大火力で! てめえを攻めに攻め立てて、息つく暇もなく敗北させてやるぜ!」



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