14.唸れ、デッキ構築! 中
「まず覚えるべきは緑陣営と同系統のタイプとされる、赤陣営との明確な相違点についてっす。現時点でセンパイは赤にどんな印象を持ってるっすか?」
「印象かぁ……そうだな」
アキラにとって赤と言えばコウヤのデッキカラーだ。彼女のファイトをずっと傍で見てきたこともあって、ある意味では自身のデッキカラーである緑よりも見慣れた陣営であると言える。これまで目にしたコウヤの戦い方を思い返しながらアキラは答えた。
「やっぱり一番は、凄く攻めっ気の強い陣営だってイメージかな。緑陣営も同じように言われるけど、赤はそれをもっと突き詰めてるっていうか」
「そうなんす! 緑がガン攻めだとすれば赤は超ガン攻めってとこっすね」
「超ガン攻め」
「緑ならコストコアを増やして攻め勝つ、というドミネイションズの最も基本的な戦略に則った動きができるっすよね。けれど赤はとにかく攻めることで攻め勝つ、力こそパワーな色っす。守備に特化した白陣営とは対極にある攻撃に特化した陣営なんすよ」
「なるほど、白の反対ね」
水と油といった様子のコウヤとオウラは、やはりデッキのタイプにもそれが表れていたんだなとアキラは納得する。赤を好んでやまないコウヤと、白に並々ならぬ拘りを見せるオウラとで気が合わないのはその嗜好からして当然と言えば当然かもしれなかった。
と、そこまで考えて「あれ?」とアキラは首を傾げた。
「でもコウヤの戦い方って、速攻っていうほど速攻じゃなかったような」
「そうっすね。紅上センパイの攻めるテンポは赤らしい速攻っていうよりも、どちらかと言えば緑のそれに近いっす。さっきも言ったように、赤と言っても必ずしもやれるのが速攻だけってわけじゃないんす。『フェアリーズ』ほどアド稼ぎ能力がバカ高い種族は赤陣営にはいないっすけど、一応緑みたいな動きもできなくないっすからね。そうやって、代名詞でもある『ドラゴン』を呼び出すのが速攻に並ぶ赤のもうひとつの王道戦略っす!」
紅上センパイの切り札はドラゴンじゃなくて《フレイムデーモン》っすけどねとロコルが言えば、アキラはそれに「うん……」と微妙な反応を見せた。それから何かを言おうとして、やめて。そして結局そこには何も言及せず、赤の特色について質問を重ねることにしたようだった。
「とにかく、緑陣営以上に攻めるのに向いてるのが赤陣営だってことだね」
「そうっすね。よく言えばブレない、悪く言えば一辺倒なんで、赤の速攻デッキはそういう意味では初心者向きでもあるっす。ファイト中に考えることが少ないっすから」
緑の場合、大型ユニットを早めに呼び出すのがコンセプトと言っても、大型さえ出せれば即座に勝ちというわけでもない。まごまごしていては相手の対処が間に合ってしまうため、大型を出す前になるべく小型ユニットでも攻めてライフを減らしておきたいところだ。しかしそうすると相手に多くの手札を与えてしまうことになるため、戦線崩壊のリスクが上がるという懸念も出てくる。
どのタイミングでどれだけ攻めるか。そういったことを考えながらプレイする必要があるのだが、これが速攻に振り切ったデッキであれば関係なくなる。相手が何を引こうが召喚しようが構わず攻めて攻めて攻める。ドミネファイトの基本に沿った動きの緑よりも思考の余地が少なく、結果として迷いが生まれない。確かに初心者にとってはありがたいことだ、とまさにビギナーであるアキラには深く腑に落ちる話だった。
「だからファイトを覚える時にいいんすよね。緑で基本の動きを覚えた次には赤で攻めを、白で守りを知るっていうのはファイトデビューの鉄板でもあるっす。搦め手の多い黒や青は陣営コンセプト的にどうしても初心者にはお勧めし辛いっす」
「あはは、そうだな。いきなり黒デッキを持たされても厳しいと思う」
破壊、そして蘇生。黒のコンセプトをしっかりと抑えたクロノの『ブラックパペット』デッキを頭に浮かべながらアキラは同意する。あれは意図的にデチューンされているおかげで複雑過ぎず、黒陣営としては初心者向きの良いデッキだったが。けれどそれでも緑より考えることが遥かに多いために、とてもではないがビギナー向けとは言い難かった。あれはきっと、初心者の殻を破り準初心者、あるいは中級者へと移行する際に触れるのがピッタリのデッキだろうとアキラは思う。
「というわけで、ここで確認っす」
「うん?」
「赤が緑みたいな攻め方を可能とするように、緑が赤みたいな攻め方をすることも可能っす。速攻戦略っすね。もちろん、それ以外にもテンポは自由自在。他の色からすれば単純と言われがちな赤や緑でも、デッキ構築の段階で意識すべきことは多いっす。その構築がカチッとはまったデッキは強いっすよ──逆に言えば、構築段階でごちゃついてしまえばどんなにお気に入りのデッキでもそれは弱いっす」
「…………」
「趣味でファイトするだけ。友達と楽しく遊ぶだけなら、それでも全然いいっす。負けても気にせず好きなカードを好きなだけ詰め込んだ好きなデッキを使い続ければいい……でも、センパイはそうじゃないっすよね? DAに入るためには、そしてその先も勝ち抜くためには『強いデッキ』が絶対的にいるっす」
「ああ、そうだ。ただファイトができればいいんじゃない。俺は勝つためのデッキを作らなくちゃならない」
そのためにはどうすればいいのか。強いデッキとはどうやって作ればいいのか──その悩ましい疑問にロコルは「だからこその確認っす」と言った。
「大事なのはコンセプト。センパイはビギナーながらにそこはしっかりしてるっす。『切り札のビーストたちを活躍させたい』、っすよね? そのために他のユニットで場を整え、全力でサポートする。そういうファイト運びが理想ってことで間違いないと」
「うん」
「自分はそれがよくないと思うっす」
「!」
「だって考えてもみてください。緑の弱点は序盤の戦線の弱さにあるっす。最初からガンガンな赤とは違って、小型ユニットを戦闘要員ではなく補助要員として扱う。早めに切り札を呼び出すために必要不可欠な工程ではあるっすけど、そのせいで緑らしいパワフルさには欠けた展開がしばらく続くっす」
「そうか。赤ほどじゃなくてもバトルに強いっていう緑の特色が、そこでは活かされていない」
「で、センパイのデッキはその緑らしい弱点がもっと極端化してるんすよね。ビーストの名を持つカードたちはそんな弱点があってもお釣りがくるくらいの強さを持っているっす。そのおかげで今は勝ててるっすけど、この先それが通用するとは思わないほうがいいっすね」
「……!」
言われてみればその通りだ。ガールやグラバウを活躍させることを意識するあまり、それ以外のユニットは全て添え物。その程度にしか扱えていないのが現状である。黒のカードを混ぜるようになって採用した《太楽ラクーン》や『フェアリーズ』たちだって、結局は場繋ぎのカード。切り札さえ引き当てればどうにかなっているのが友人らとのファイトだが、DAを目指すならこの結果に甘んじてはいられない──何せコウヤやオウラと言った、同じくDA志望のドミネイターに対してはまだ一度もまともに勝利することができていないのだから。
「と言ってもコンセプトを丸々変えろなんてのも酷な話っす。そもそもセンパイはオキニの切り札でどどんと勝つためにデッキを組んでるんすからね。なもんで、自分から提案したいのは──ずばり! 『守りを覚えよう』! ってことっす!」
「守りを……」
「っす! 舞城センパイも言ってたじゃないっすか、守りがなきゃ脆いって。実際センパイは不利な状況から逆転したのにあっさり再逆転されることがザラっすよね。それは攻めに対して守りの意識が低いせいっす。まあ緑陣営を使ってる以上そこはしょうがない一面でもあるんすけど、でもセンパイのデッキはもう緑一色じゃないっすからね」
改善の余地は大いにあると思うっすよ、と言うロコルにアキラははっとする。彼女の言わんとすることが彼にもなんとなく見えてきたのだ。
「それってつまり……緑で攻めて、黒で守る。そういう役割分担をしろってことか?」