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132.待望の瞬間、ドミネイト召喚!

「またアキラが光った……!」


 プレイヤーの発光。カードによる演出(視覚効果)とはなんの関係もない正真正銘の怪現象。その眩さと唐突さに驚かされるミオだが、しかし彼がこれを目にするのは二度目だ。初見時はもっと遠巻きにしていたし、もっと戸惑いが強かった。


 故に今。その現象が何を引き起こすかを理解して、アキラのすぐ後ろという最も近しいポジションで目にすることでミオは以前よりも遥かに冷静に観察できた──いや、どんなに冷静になれていたとてそれが相も変わらずわけのわからない現象であることに違いはないのだが。あの時と変わった認識がミオにあるとすれば、アキラが放つ輝きの力強さが前回以上に鮮明に感じられたのと、それからもうひとつ。


 後ろ姿しか見えないアキラではあるが、彼が持つ存在感・・・。その身から発せられる言うなれば『ドミネイターの格』というものが、引き上がったと。発光が起きる前と後ではそこに明確な違いがあるとミオは感じた。果たしてそれが観察によって得られたものか、あるいはただの肌感覚による直感なのかは聡明なミオの頭脳を以てしても判別はつかなかったが、しかしとにかく。


 アキラはたった今絶好調になった。それだけは確かだった。


「──やっちゃえアキラ! パパを倒したみたいに、『あのユニット』で勝負を決めるんだ!」


 思わずそう叫んでしまったのは純粋にアキラを応援する気持ちがミオにあるからだ。彼が最も尊敬していると言っていいドミネイターである父を打倒してみせたドミネイト召喚という奇跡の如き御業。アキラが再びそれを行なおうとしているのは明らかで、であるならば。それを使うのなら間違っても負けてほしくない。ミオがそう願うのはある種当然のことで、しかし裏を返せばそれは──ドミネイト召喚に至ってもなお負ける可能性があると。九蓮華エミルという対戦相手はそれだけ一筋縄ではいかないドミネイターだと、心のどこかで思っているからこその必死の声援でもある。


 このターンで一気に勝ち切らないとマズい。これもまた直感に導かれたが故のミオの危惧は、アキラにも重々に伝わっている。というよりも彼自身その予感をひしひしと感じているからして。


(OKだミオ。ここで決着をつける……つけられなければ相当にヤバい!)


 エミルは手本を見せると言った。その言葉は自分が負けないと確信していなければ出ないもの。必ずターンが回ってくると『知っていなければ』出てこないものだ。エミルの洞察力は凄まじい。それは現在だけでなく未来までも正確に見通してしまう──アキラが切り札を並べてくるとまるで予知めいて見通したように。此度もまた彼はアキラが何をしようとしているのか、そしてその結果がどうなるかを、物語の先を読んだ読者の如くに承知しているのだろう。


 なんとしてもその余裕を崩さなければ。

 エミルの予測を覆さなければ、アキラに勝ちはない。


「三つのライフコア! そしてクイックチェックのドローを頼りにしているならエミル先輩! 俺はあんたを運命力を踏み越えて、乗り越えるだけだ!」


「なるほど。相手の運を自らの運で捻じ伏せる。引けたはずの逆転のカードを、引かせない。それも『覚醒者』が行うに相応しい御業のひとつだ……そうやって勝利した成功体験が君にそう言わせているんだろうが、しかしアキラ君。私を相手にもそれと同じことができると、君は本当に信じられているのかな?」


「──俺が俺の勝利を信じなくてどうするっていうんだ?」


「良い答えだ。呼びたまえよ、君の真の切り札を」


 天井知らずに高まるアキラの気迫に、されどエミルは決して怯まず臆さず。むしろその身に宿す不吉な気配を一層に募らせ円熟させていく。それに対してアキラが放つ輝きが一際の猛りを見せ、と。ミオやアンミツも含めこの場にいる全員に聞こえた大きな鼓動が契機となって──そして空が割れた。


「《マザービースト・メーテル》、《バーンビースト・レギテウ》! 俺の場の二体のビーストユニットを取り除き墓地へ! ドミネイト召喚! 世界を隔てる壁を越えて現れろ、異次元の超獣──《エデンビースト・アルセリア》!」


 《エデンビースト・アルセリア》

 Dコスト パワー3000 【重撃】 【疾駆】


 罅割れた空を腕力で叩き割るようにして姿を現わした、巨躯の獣少女。荒々しさを感じさせる風体とは正反対の静謐な佇まいで宙に浮く彼女は、誰の目にもただのユニットとは一線を画す存在であることが明らかだった。それほどまでに気高い力を有しているのだと知り、エミルは自分を見下ろすそのユニットに笑みを向けた。


「ああ、一段と。やはり君が呼び出したドミネユニットは一段と美しい。これこそが若葉アキラの力の結集! 現時点での、ではあるがね──いやしかし思いの外に。期待以上だよアキラ君」


 実を言うと少しばかり怖かったのだとエミルは打ち明ける。何せ彼自身、己以外のプレイヤーが行うドミネイト召喚を直に目にするのはこれが初めてであり、無論のこと自分が呼び出していないドミネユニットを拝むのも初めて。それの何がエミルにとって恐怖であったかと言えば……つまりは『落胆しないか』どうか。期待が行き過ぎて実物を貧相に感じてしまわないかと、そのことが怖かったのだ。


 ハードルを上げて良いことはない。たとえどれだけドミネイト召喚が特別なものであったとしても、「自分が行うドミネイト召喚」と「まだ見ぬ誰かが行うドミネイト召喚」が同列のものとは限らない。特別の中の特別。己がそうであると一片の疑いすらなくそう信じている……否、知っているエミルは、ただの特別程度で自分が満足できるはずもないことに気付いてもいた。


 よって戦々恐々。楽しみ半分、怖さも半分。アキラというDA第二の準覚醒者を知り、いても立ってもいられず浮足立つ心境のままにかけたこの奇襲・・は己が欲望に忠実に突き動かされた行為ではあっても、しかしエミル自身まったく気の進まないものでもあった──のだが。


 この時彼の恐怖は綺麗さっぱりと吹き飛んだ。若葉アキラは間違いなく大器である。彼の闘志、彼が生み出したユニットをその目で確かめてエミルはそう素直に信じられた。自分ではなく他人を信じる! それがいったいいつ振りなのか彼にはわからなかった。それくらいに昔のことか、はたまたか。いずれにしろエミルからすれば「特別の事態」であるのは間違いなく、であるならば。


「私をこうも駆り立てた責任は是非とも取ってもらいたい──ああ、勿論。君の更なる成長と錬磨に私もまた責任を持とうとも」


「勝手に納得して勝手に満足されちゃ困るなエミル先輩。あんたを腹いっぱいにさせるのは今からだ! アルセリアの効果を適用! このユニットは召喚のために取り除かれた二体以上のビースト、そのパワーの合計値によって得る能力が変わる!」


 合計が5000を超えていれば相手ユニットを一体破壊する起動型効果を。7000を超えていればパワー+7000を。9000を超えていれば二回攻撃と相手カードの効果を受け付けない耐性を。今回アキラが捧げたのはメーテールとレギテウ、二体のパワー合計値はちょうど9000。よってアルセリアは全ての効果が適用されフルパワーの状態へと覚醒する。


「シン・アルセリア! こいつは一ターンに四つのライフコアを相手から奪う!」


「ほう……!」


「行くぞ先輩! アルセリアで一度目のダイレクトアタックだ!」


 エミルの場には守護者どころかユニット自体が不在である。よって攻撃を防ぐことなどできるはずもなく、アルセリアの【重撃】能力によってライフコアが二個同時に砕け散る。エミルのライフは残り一という敗北の瀬戸際となった──それでも彼の笑みが消えないことに、この時アキラとアルセリアは共に眉をひそめた。



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