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13.唸れ、デッキ構築! 上

「デッキ構築をするっす!」


「おー!」


 学校のない休日、アキラの自室にて向かい合っている二人は天井に向かって拳を突き上げた。彼らが直座りしている床、その間には大量のドミネイションズカードが並べられている。その中から一枚を手に取ってロコルは言った。


「黒のカードをデッキに組み込んでいたのには見てて驚いたっすよ。あれは舞城センパイも完全に予想外だったはずっす」


「意表は突けたと思う。まあ、《重圧》とアイラのコンボは不発だったんだけど」


「そこは惜しかったっすね。舞城センパイの鉄壁が鉄壁過ぎたっす。とはいえ、元々黒陣営は白陣営に不利なんすけどね」


「そうなんだ?」


「っす。黒が得意としている破壊効果を、白はあの手この手で封じてくるっすから」


「ああ、なるほど。そういう相性もあるのか」


 《悲喜籠りのアイラ》の破壊効果も、《熾天星オル》が守護者ユニットに与える効果破壊耐性によって無効化されたのだった。つまり白陣営にはオルのように、黒の強味を無視できるカードが多くあるということだろう。


「舞城さんを相手には、隠し味の黒は逆効果だったってことか……」


「その分、センパイがメインにしてる緑は純粋にパワーで白の守護者を蹴散らせるっすから相性的にはとんとんって感じっすね。黒緑の混色と白一色は総合的に互角だと思うっす。けど、黒と緑の割合は半々ってわけじゃないっすよね?」


 二十枚ハーフ二十枚ハーフ。四十枚で構成されるデッキの内部割合において、陣営同士を混ぜる場合は通常きっちり半分ずつにするのがベターだ。そうでないとコストコアに送られるカードに偏りが出やすくなり、手札とコストコアの色が揃わない所謂『コスト事故』というものが起こりやすくなる。これは高コストのカードばかりを序盤に引いてしまう『手札事故』と並び、ドミネイターから酷く恐れられている現象のひとつだ。


「クロノも使わない色でも知識は持っとけって言ってたし、ロコルも別デッキを組んでみるのも悪くないんじゃないかってアドバイスをくれただろ? それで、だったらいっそのこと黒と組み合わせて使ってみようと思ったんだ。だけど俺がメインに使いたいのは緑陣営だから、あくまで黒陣営は差し色程度……枚数的には十二枚に抑えた」


 それ以上だと緑の強味である連携が活きにくくなり、それ以下だと単なる事故の要因にしかならない。一人回し(※デッキの試運転を仮想敵相手に行うシャドーボクシングのようなもの)を繰り返して導き出した個人的な最適解がそれだった。勿論、理論的にはもっと別の答えもあるのだろうが、少なくとも今の自分に合った割合はこれだとアキラとしては自信を持って言える。それにロコルも頷いた。


「いいと思うっす。ハーフハーフはあくまで定説でしかないっすから、それが本当に正しいかどうかは人や組むデッキによって変わってくるっす。『タッチ』って言葉もあるくらいっすから一方の色を最小限度の投入に抑えるのは何も間違いではないっすよ」


「タッチ?」


「センパイのデッキの黒みたいに、たくさんは入れない陣営のことっす。『黒タッチの緑デッキ』って言い方になるっすね」


「へー。……うーん」


 感心しつつ、ではこのデッキを改良するにはどうすればいいかと悩む。


 ドミネイションズ・アカデミアを目指すにはまだまだ強くなる必要があるとアキラは考えている。そのためにはファイトの腕前を磨くのは無論のこと、デッキの内容ももっと洗練させていかねばならない。そのアドバイスを求めれば、ロコルも「うむむ」と思案して腕を組んだ。


「思えばセンパイのデッキ、コストカーブはめちゃくちゃなんすよね」


「コストカーブって?」


「デッキ内の低コスト、中コスト、高コストカードそれぞれの割合のことっす。普通は、こんな感じで……」


 説明しながら、横に広げていたノートにペンを走らせて綺麗な曲線を描くロコル。その下に棒グラフをつけて、アキラへと見せる。


「低コストを多く、高コストになるにつれ少なく。こういうなだらかなカーブを描くように枚数を減らしていくのが、手札事故を起こしにくい構成の定石っす」


「ほうほう。その例で言うと俺のデッキは、確かに綺麗ではないな」


「基本、3コスト以下の小型ユニットやスペルだらけ。残るはグラバウみたいな大型ユニットだけっすからね。曲線というより崖がふたつ向かい合ってるみたいな形になってるっす」


「それだとやっぱり良くないのか?」


 不安になって訊ねたアキラに「うんにゃ、そんなことないっす」とロコルは《恵みの妖精ティティ》のカードを手に取った。


「センパイのデッキ、というよりも緑の強味はコストブースト……序盤からコストコアをぼんぼん増やしていって、相手が中型ユニットを出してくる頃には大型を叩きつけて勝負を決めるっていうのが持ち味っすからね。極論、こういう『フェアリーズ』に代表されるような手札とコストコアを増やす小型ユニットと、あとは切り札用の大型ユニットだけでもコンセプトとしては完成してるっす。そういうデッキなら、コストカーブの真ん中あたりがごっそり抜けてたとしてもファイトには全然問題ないんすよ」


「そっか、それも緑の特色のひとつなのか。……そういえば、同じバトル偏重でも赤陣営にはコストコアを増やすためのカードって緑ほど多くない印象だ」


 何度も見てきたコウヤのファイトを思い返しながらアキラがそう言えば、まさにその通りだとロコルは頷く。


「赤陣営の得意は速攻っすからね。緑以上に攻めの意識が高いのが赤っていう色っす。コストコアを増やすよりもとにかくテンポアドバンテージを大事にして、攻めに向いたユニットを大量に並べて短気決着を目指す……もちろんそうじゃないデッキタイプもあるっすけど、速攻がしたいならやっぱり赤が一番っす」


「なるほど。……ちなみに『テンポアドバンテージ』っていうのは?」


 聞き覚えのない単語だが、ライフアドバンテージやボードアドバンテージの概念については教えられているためになんとなくの想像ならつくアキラだったが、念のためにと確かめてみれば。


「テンポっていうのはターンごとにそのデッキに見合った動きをすることっす。赤なら攻めるためのユニットを召喚する、黒ならそのユニットを破壊する、みたいな。一ターン何もしなければその分、使えたはずのコストコアを無駄にしたってことになるっすからね」


「そういうことか。じゃあ、攻めが大事なのは俺のデッキも一緒だし、1コストで召喚できるユニットをもっと増やすべきかな?」


 同じ種類、つまり同名のカードはデッキに四枚まで入れられる。強力過ぎて国際ドミネルール機関(通称IDRアイドル)が定めるレギュレーションによって枚数制限がなされているカードもあるが、そういったカードは強いだけに希少価値が高く、元よりそう何枚も揃えられるものではない。アキラが切り札としている《ビースト・ガール》や《キングビースト・グラバウ》もデッキには一枚ずつしか入っておらず、これは単純に二枚目を所持していないからだった。


 アキラのデッキの切り込み隊長的なポジションにいる《ベイルウルフ》は四枚フル投入されているものの、他にはコスト1のユニットを入れていなので、ファイトによっては初期手札にウルフがおらず何もできないこともままある。先行の一ターン目にテンポアドを損なうリスクを低くすべくコスト1のユニットを他にも加えるべきなのではないか──という悩みに、ロコルは「それはどうっすかね」と懐疑的に返した。


「五ターン以内には勝負を終わらせる、っていう赤の速攻くらい割り切るなら1コストユニットを充実させるのも全然アリだと思うっす。そういうデッキは一ターン目に何もできないのは文字通り死活問題っすからね。だけどセンパイのデッキは、同じ攻めタイプでも攻め方が違うじゃないっすか。先行で動くことも大事っすけど、そのためだけに1コストばかり厚く積むのはかえってデッキを弱くさせると思うっす」


 当然だが、低コストのユニットは高コストのユニットよりも弱い。最軽量の1コストユニットはその最たる例であり、彼らの大半は特殊な能力を持たないバニラカードである。先行一ターン目においてはその軽さという魅力を最大限に発揮してくれるが、しかしそれは裏を返せば、ターンが進みコストコアが充実してくるほどにカード単体の価値が落ちていくということでもある。


「センパイはまず、もっとちゃんと緑デッキのセオリーを理解すべきっす。セオリーを完璧に身につけることで初めて応用ができるっすからね」


 そのために不詳このロコルが解説させてもらうっす、とどこからか伊達メガネを取り出してすちゃっと装着した彼女へ、授業を受ける生徒の如く居住まいを正して傾聴せんとするアキラだった。



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