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125.エミル脅威のタクティクス

「《エンプティダンプティ》の自爆もまた効果破壊の一種。《滅殺ドルルーサ》の召喚条件を満たせるってわけか……」


 クロノが以前に見せた《ボンナバ》とドルルーサのコンボと同様のことをエミルもやったのだ。ただし本当にただ自爆しただけの《ボンナバ》とは違い、《エンプティダンプティ》はアキラのライフコアとユニットをひとつずつ奪い去っていった──その上で、後行二ターン目に呼び出されるには強力に過ぎるパワー5000のドルルーサを置き土産に残していった。この事態に焦りを覚えたアキラの頬を冷や汗が一滴伝ったが、しかし。


 エミルのターンはまだ終わりではない。


「《真影のスタビラー》を召喚」


 《真影のスタビラー》

 コスト4 パワー3000 【守護】


「青陣営のユニット……!」


 エンプティもドルルーサも陣営は共に黒。よってエミルのデッキカラーは黒なのだろうと当たりを付けていたアキラの予想は崩れた。それに対して彼は微笑みで応じて。


「どちらかと言えばこのデッキの主軸は青だよ。まあ、攻めに関しては黒を頼ることに間違いはないけれどね。ともかくスタビラーの登場時効果を発動しよう」


 種族『アクアメイツ』に共通した水で出来た肉体を持つスタビラーが、その一部を飲ませるようにドルルーサの口内へと放り込んだ。それをごくん、と太い喉を鳴らして嚥下したドルルーサは途端にびくびくと震え始めた──苦しんでいる、のではなく活力が漲っているのだと召喚酔いを振り切って化け物が動き出したことにアキラはスタビラーの効果を知る。


「青以外のユニット二体までに【好戦】を与える。それがスタビラーの能力だ。一ターン限定の付与ではあるが、そこの子猫を潰すにはこれで充分。行けドルルーサ、《ワイルドボンキャット》へアタックだ」


 エミルが命令を下し終えるよりも早くドルルーサは獲物へ食らいついていた。明らかに血を欲してやまないその衝動めいた攻撃に、僅かパワー1000しかない小さな山猫が抗えるはずもない。スタビラーののせいかクロノ戦よりも狂暴性を増しているドルルーサの体内へと消えて《ワイルドボンキャット》は破壊された。


「ッ、」


「さて。ひとまず君の場を全滅させたわけだけど……でもこのくらいでへこたれるアキラ君じゃあないだろう? なんと言っても君は私と同じ、そして私以外での唯一の『兆し』を持つDA生なのだから。ふふ、私はこれでターンエンドだ」


 君の力を余すところなく見せてくれ、と。目でそう訴えかけてくるエミルの眼力は強い。険しいわけでも鋭いわけでもない、大きくて穏やかな瞳。だというのにそこに宿っている力が果てしない──『欲望』が果てしない。ドミネイターが誰しも持つファイトに向ける闘志や殺気とはまた別種のプレッシャー。今までに味わったことのないそれにアキラは思わず言葉に詰まった。


 押されている。とその様を見てミオはアキラの形勢不利を悟る。それはフィールドの状況だけでなく心理的な面がなお大きい。傍から見ても明らかなほどアキラの闘志はエミルに届いていない──完全に上回れ、飲まれている。エミルのファイトの実力は勿論、彼が持つ独特な雰囲気、異様な気配というものにアキラは我知らず臆してしまっているのだ。


 ただしそれをエミルのズル・・などとは称せない。臆する方が悪いのだ。見た目にしろ言動にしろ、それで相手のプレイを縛るのもファイトの駆け引きの一環。盤外戦術だろうと戦術は戦術である。特にミオが好むコントロールタイプのデッキの使い手はカードだけでなく言葉も重要な武器とするもの。相手に与える情報の取捨や説明の仕方。それによって思考やプレイングに誘導をかけるのは何もミオに限らずドミネイターであれば──自覚の有無は問わず──多少なりともファイトの度にやっていることだ。


 だからこそマズいのだ。エミルのデッキカラーは青と黒の混合だと判明した。これは五陣営の中でも最も除去に長けた、コントロールに適した組み合わせ。その特色は既に彼らの場の差によく表れている──速攻寄りに攻めることを意識しながらもあっさりとユニットが全滅した時点でアキラの選択は裏目に出ていると言って過言ではなく、このままではずるずると不利が大きくなっていき、終盤にはただ蹂躙されるだけ。そういった屈辱的な敗北を迎える可能性が高い。


 無論それはエミルが青黒というテクニカルなデッキを完璧に操れるなら、という前提があっての予想だが……よもやそこに疑う余地はあるまい。とミオはまだファイトが始まって数ターンのこの時点でエミルの力量が『そんな次元』にないことを確信していた。


(まだ序盤とはいえ流れは完全に向こうが握った。ここで何か手を打てないとかなりマズいよ、アキラ)


 集中を乱さぬよう声はかけず、けれど胸中では熱心に応援するミオ。彼の見つめる先でアキラはデッキからカードを引いた。


「俺のターン、《恵みの妖精ティティ》を召喚して登場時効果を発動! 二枚ドローして、内一枚をコストコアへ変換。残りの2コストで二体目の《幻妖の月狐》を召喚! 効果発動、デッキから一枚ドローして一枚捨てる。これで俺はターンを終える!」


「ほう……」


「え、アキラ……!?」


 コストコアブーストと連続のドローによる手札入れ替え。それだけでターンを終えたアキラに対してエミルとミオが取った反応は共に『驚き』であった。興味深い、と言わんばかりのエミルのそれに対してミオの方ははっきりと狼狽が顔に出ていたが、そこはアキラを対戦相手と見据えているか応援すべき友人と見ているかの違い。二人のリアクションはその根底にある疑問まで含めて概ね一致している──果たしてアキラはこのターンが重要な局面だと理解しきれているのか?


「私のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー……ふふふ。それでは手応えによって確かめてみるとしよう。スタビラーはダイレクトアタック可能な守護者ユニット。よってまずはスタビラーで君へ直接攻撃する」


 水の肉体で軽やかに跳ねて接近したスタビラー。アキラの場に【守護】を持つユニットはいないため彼は悠々と敵の本陣・・へと辿り着き、腕を振るって攻撃。一見重量など感じさせない不安定な水の拳で、しかし確かにライフコアを一個叩き割ってみせた。


「ぐ……クイックチェックで一枚ドロー!」


 ──頼む! 祈りと共に引かれたそのカードを確かめて、アキラはすぐにそれをファイトボードへと置いた。


「引いたのはクイックユニット《闇重騎士デスキャバリー》! 当然そのまま召喚する!」


 《闇重騎士デスキャバリー》

 コスト5 パワー4000 QC 【守護】 【復讐】


 以前にもドルルーサへ対抗せんと駆け付けてくれた黒の守護者ユニット。その頼もしき後ろ姿にアキラは安堵する──仮にエミルが場にいる二体で直接攻撃を仕掛けてくるなら、最低でも一枚はクイックカードを引き当てられるだろう。そういった単なる願望とも期待値を見越した理論とも取れる計算を行なってターンを渡したアキラは、思った通りにカウンターのカードを掴めたことにホッと一息をつき──。


「《滅殺ドルルーサ》でダイレクトアタック」


「!? デ、デスキャバリーでガードする!」


 まったく迷いなく。【復讐】持ちの守護者という誰もが嫌な顔をする面倒なクイックユニットの登場にもほとんどリアクションを見せずドルルーサへ攻撃を命じたエミル。それにアキラは慌ててデスキャバリーをぶつけ、黒と黒のユニットは互いを殺し合って消滅した──戦闘が終わり、静まったフィールド越しにアキラとエミルの視線が交わる。


「……!」


 その色味、そこに宿る奇妙なまでの迫力に一切の変化が見られないことで、アキラは改めて九蓮華エミルの異質さに表情を強張らせた。

 


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