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124.ファイト開始! アキラとエミル

 互いにライフコアを展開。手札が五枚になるよう引き、これで準備は整った。


「「ドミネファイト!」」


 先行を取ったアキラがチャージだけでターンを終え、手番はすぐにエミルへ移る。初ターンからディスチャージ権を使用した彼は即座に一体のユニットを繰り出した。


「《エンプティダンプティ》を召喚。ターンエンドだ」


 《エンプティダンプティ》

 コスト2 パワー2000


 エミルの場をころころと転がる卵から手足が生えたような奇妙な生き物。アキラは未知のユニットの能力を警戒するが、現状では登場時に発揮されるものではないということくらいしかわからない。警戒するにも過度に恐れていては逆効果。これもまたファイトの真理のひとつだと学んでいるだけに、アキラは一旦卵男に対する用心を置いて自身のプレイに集中する。


「俺のターン、スタンド&チャージ! ドロー! ディスチャージを宣言、溜まった3コストで《ワイルドボンキャット》と《幻妖の月狐》を召喚!」


 《ワイルドボンキャット》

 コスト1 パワー1000


 《幻妖の月狐》

 コスト2 パワー2000


 アキラのファイトの序盤を支えるいつもの面子。先行二ターン目にしてこの二体を召喚できたとなれば出だしは上々と言っていい、とミオはアキラの調子が悪くないことに安堵する。振り幅。それによって戦う度にブレの生じるアキラは、乗っている時はとことん乗るが乗れない時はとことん乗れない。ファイト毎に強さに著しい差が生じるのだ。3コスト使えても召喚できるユニットが手札にいない、なんていう事態も──いわゆる手札事故というやつだ──彼には割とザラに起こるため、今回もそうなりはしないかとそこもミオは心配していたのだ。


(だけどそれは杞憂ってものだったかもしれないな)


 強さに差が生じる、と言っても。しかし「大切なファイト」においてアキラが乗れていなかった試しがない。ここぞという場面で彼の強さは必ず発揮されてきた。自分とのファイトでもそうだし、自分の父とのファイトでもそうった。


 前評判から言えば絶対に勝てるはずもないその勝負で、なのにアキラの爆発力はその絶対を覆してみせた……その事実を思えば意味深長な様子で上級生に誘われ始まったこの突発的ファイト。それに臨むアキラのが下に振れるはずもなかった──これならば少なくとも手も足も出ずにズタボロにされる、なんてことはなさそうだ。そう安心するミオではあったが、けれどもその安心は新たな不安の呼び水でもあった。


(負けたくない、負けちゃいけないと感じるファイトでこそアキラは強くなる。ということはつまり、いま実力を十全に出せているのなら。アキラが九蓮華エミルとの勝負をそれだけ重大なものだと直感的に捉えているってことになる……何がなんでも『負けてはいけない』ファイトだと)


 それは何故か。DAの外で行われる、成績にもなんの関係もないのドミネファイト。ただそれだけのはずなのに、しかし、アキラもエミルもとてもただの遊びに興じるような雰囲気ではない。そこにこそミオは良くないものを想像してしまってやまないのだが、そんな彼の予感とは関係なしにファイトは進む。


「月狐の登場時効果発動、一枚ドローして一枚捨てる。これで俺はターンエンドだ!」


「ふむ、緑が主体のビートダウン。それも速攻寄りに攻める選択をしたんだね。だけど受けの仕込みも欠かさない、と。なかなかテクニカルなプレイングじゃないか」


「!?」


 体を硬直させるアキラに、エミルはくすりと可笑しそうにする。


「何を驚くことがある? 君が召喚した二体はどちらも緑のユニット。だけどスタートフェイズのチャージでコストコアになったのが黒陣営のスペル《ダークパニッシュ》であることを私は見逃していない。黒も使う、とはいえ軽量ユニットの種類からして緑が君のデッキの本命であることは確かだろう」


「……!」


「《幻妖の月狐》の効果によって捨てられたのは《暗夜蝶》。墓地で効果を発動させる緑には珍しい守護者ユニットだ。加えて君は《ワイルドボンキャット》の『自身をコストコアへ換える』効果を発動させずにユニットとして運用している。守りを固めつつも速攻で挑もうとしているのは明白だ──まさか私がこれくらいのこともわからない愚者に見えていたのかな?」


 だとすれば少しショックだよ、と。本気とも冗談とも取れぬ口調で目を伏せるエミルに、アキラはただただ戦慄するばかりだ。


 息をするようにこちらの情報を見抜く! アキラが使うカードの知識を当然のように有しているのはまだしも、ほんの一瞬。エミルからは視認が難しいはずのチャージされるカードや手札から捨てられるカード、その陣営どころかカード名すら識別していること。更にはそれらの前提によってアキラが選んだファイトのスタイルすら見抜いてみせた。──仮に彼がアキラのデッキや戦い方を事前に知っていたなら、まだ理解の範疇なのだ。そして一応は一・二年生合同トーナメントの優勝者であるアキラは多少なりとも学内において知られた名となっており、なので先んじて情報収集に当たられていたとしてもなんらおかしくはないのだが。


 しかしエミルは違う。彼は情報収集なんて一切していない……真っ新な状態で自分と戦っている。アキラにはその確信があった。根拠らしい根拠はないが、まず間違いなく彼はまったくのゼロからこちらの戦法を看破したのだと。その程度の行為は九蓮華エミルにとってできて当たり前のことでしかないと伝わってきた──だとすればやはりとんでもない強敵。観察力は泉親子以上か。


 一瞬たりとも油断できない。そう身構えるアキラの視線の先でエミルがカードをドローした。


「私のターン。二度目のディスチャージを行なって、まずはバトルといこう。《エンプティダンプティ》でダイレクトアタック」


「くっ……!」


 勢いよく転がってきた卵男の体当たりによってアキラのライフコアがひとつ砕け散った。クイックチェックでカードを一枚ドローするが、アキラはそれを手札に加えるだけに終わる。早速ライフを奪われてしまった──先制を取られたのは素直に惜しいが、しかし殴り合いになるならアキラとしては望むところだった。元より今回のファイトでじっくり腰を落ち着けた戦い方をするつもりなどないのだから……と、そこで異変を察知する。


 アタックを終えてもう取れる行動もないはずの卵男の殻に包まれた肉体が、瞬く間に白から赤へ。変色しながら膨張し、今にも破裂しそうになっているではないか。


「これは……!?」


「《エンプティダンプティ》の中身は空っぽ。風船のようにガスが詰まっているんだ──アタック終了時に効果を発動。このユニットは自爆し、それに巻き込んで相手ユニット一体を道連れにできる。破壊対象は《幻妖の月狐》としておこう」


「なっ……うッ?!」


 エミルの説明にアキラが反応する間もなく卵男がパァン! と本当に風船が破裂したかのようなけたたましい音を立てて爆散。その近くにいた──正確には卵男の方から近づいたのだが──月狐はその破裂音と衝撃にやられて倒れてしまう。攻撃後の自爆。それはダイレクトアタックか、自分よりパワーの低いユニットへアタックして戦闘に勝利した際にしか発動できない限定的な効果。活用の難しい、しかし決まれば相手の意表を突けること間違いなしの、有用というよりもどちらかと言えば『面白い』タイプの能力だと言える。


 ただしエミルはそんな面白い能力を万全に活かしつくす。


「私の場のユニットが効果で破壊されたことで、手札から効果を発動」


「!」


 聞き覚えのある発動条件と場所。それにアキラが瞠目すると同時、そのユニットはエミルの手元より解き放たれた。


「《滅殺ドルルーサ》をコストゼロで召喚」


 《滅殺ドルルーサ》

 コスト6 パワー5000


 ぎゃぅおん、と不吉かつ暴力的な響きの鳴き声を発するのは目を持たない巨大なワームのような化け物。その黒々とした長大な肉体がボロ布を思わせるヒレめいた手足を用いて激しくのたうった。



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