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109.最終ターン!? 削り切れライフコア!

 機械天使が身に纏う神々しき炎もなんのと、むしろそれごと食らい尽くさんとする勢いで飛びかかるグラバウ。それを阻む影が機械天使の脇より高速で飛び出してきた。


「守護者ユニットであるハレルヤでガード!」


 筋斗雲を思わせる足場の雲に運ばれてグラバウの目の前へ躍り出たハレルヤ。そのパワーは4000と、自身の効果でパワー10000の大台に届かせているグラバウには遠く及ばない。まったく対抗できずに巨獣の牙で散るハレルヤだったが──だがそれでいいのだ。彼が死ぬことには意義がある。


(こちらのユニット数が減ったことでグラバウのパワーは1000ダウンする! これで……!)


 泉が何を目論んでいるのか。それはアキラにも伝わっているだろうが、しかし彼はグラバウへ継戦命令を下すに一切の躊躇いを見せなかった。


「『全てのユニットへアタック可能』の効果を持つグラバウはガードされてもその牙を収めない! もう一度エノクリエルへアタックだ!」


「しかしエノクリエルにもパワーアップ効果がある!」


 《キングビースト・グラバウ》

 パワー7000→10000→9000


 《焔光の天徒エノクリエル》

 パワー7000→9000


 相手の場のユニットが増減するたびに自身のパワーを変動させるグラバウは、目まぐるしくステータスが変わるユニット。されど泉は第二の効果の追加効果によってバトル時に限りパワーアップを果たすエノクリエルの能力を活かし、両者のパワーが一致する一瞬を逃さなかった。


「今度こそ天使を噛み砕け、グラバウ!」


「タダではやられるな、エノクリエル!」


 主人の命令に従い突風の如き速度で巨獣が飛びかかり、こちらも迎撃命令に忠実に従った機械天使がその恐るべき速さにしかと反応。瞬きの間に作り上げた白炎の剣でけだものの胴体を切り裂いた──代償に、頭部を噛み潰されながらも。


 爆散する機械天使と燃え上がり斃れる巨獣。相打ち。パワーが互角である以上それ以外には結末などあろうはずもないが、共にエースを失いつつもアキラと泉の被害は決して対等などではなく。


「これであんたの場にはホランシャ一体だけ、だな」


「……!」


 《祈りの先兵ホランシャ》

 コスト4 パワー5000 MC 【好戦】


 ミキシングカードの例に漏れず強力な効果を有している、とはいえエース級とは呼べない中型ユニットが一体。それも先のターンでアタックしているために疲労レスト状態でもある。対するアキラは獣王グラバウこそいなくなったものの合計で五体ものユニットがフィールドを埋め尽くしており、戦線の戦力差は歴然。火を見るよりも明らかとはこのことだろう──だが、それがどうかしたのかと泉は笑う。


「ボクのデッキはそれぞれ一枚ずつしか入っていないミキシングたちを最大限に有効活用できるよう組まれている。再びエノクリエルを失ったというのなら三度みたび繰り出せばいいまでのこと。丁度君がグラバウで同じことをしているように、何度だってね」


「だろうな」


「──だろうな?」


「わかっているさ。またエノクリエルを倒しところであんたにとってはそう痛手じゃないって、わかってた。だってあんたの余裕の源はフィールドに築いた戦線の厚さじゃあなく、そのライフコアの数にあるんだからな」


 未だ泉のライフは五つも残っている。その内の四つはファイト中に回復させたもので、つまり本来なら彼はライフアウトの瀬戸際まで追い詰められていたことになる──あくまでブレイクの数だけで言うならそういう計算になるのだ。


 しかしながらにまだファイト序盤並みのライフコア数であるからには、そして圧倒的な破壊能力とそれに応じた再生能力を持つミキシングスペル《抹殺と再生の倫道》を先んじて手札に回収しているからには。今一度築き上げられたビーストの陣営を前にしても泉が余裕をなくさないのも当然である。何故ならいくら攻め立てられようと彼は次のターン、スペル一枚で劣勢の全てを帳消しにしてしまえるのだから。


「先の展開は読めているわけか。道理だろうな、君がどれだけを警戒しているかはボクにもよく伝わってくる」


 言いながら三枚の手札を掲げる泉。その内の一枚が発する目に見えない圧力がアキラのプレイイングへの大きな制限となっているのは泉からしても明らか。だからこその問いがあった。


「ここまでくれば互いの思考、目指すものも筒抜けだ。ボクが次のターンで君のユニットを全滅させつつライフコアを回復させることを企んでいるのが明け透けなように。それ故に君が、ボクに次のターンを渡さないよう。『このターンで決着を付けようとしている』ことも明け透けだ──しかし足りない。ボクをライフアウトさせるにはその軍団では足りていないぞ」


 アキラの切り札揃い踏みのビースト軍団。なるほど圧巻の見栄えではあるが、さりとて召喚されたターンにユニットがアタックできないのは絶対のルール。メーテールを呼び出したディモアも、メーテールに呼び出されたイノセントも、そして戦線の産みの親メーテール自身も。泉へのダイレクトアタックは叶わない……それができるのは『召喚酔い』のルールから解放される【疾駆】の能力を持つユニットだけなのだ。


「レギテウとガール。ボクのライフコアを削れるのはその二体だけ。レギテウは確かターン中に破壊された自軍ユニットの数だけアタック権を増やすのだったか……だとしてもグラバウの死によって増えた攻撃回数はたった一回。それを加味しても三回しかダイレクトアタックできないわけだ」


 三度の直接攻撃に襲われたとしても泉の残りライフは二。まだ死なない、死には二歩遠い。


 ライフアウトなど『あり得ない』。対ミオの際に絶体絶命を打ち破ったビースト専用の補助スペル《ビースト・オブ・レガシー》。仮にあれが唱えられたとしても、この状況なら問題ではない。たとえどのユニットに墓地のグラバウの能力が付与されようとも五つのライフコアを削り切るには至らない──そしてそもそもアキラの手札はメーテールの能力を用いるために使い切っており、既にゼロ枚。つまるところ警戒する必要すらもないのである。


 現在公開されている情報の中にアキラの逆転の一手になり得るものは皆無。──それが不気味でもあった。アキラは何を思ってこのターン中での勝利を描いているのか。それがただの妄想やたわ言の類いでないことを彼の眼差しが教えてくるだけに、泉はぞわぞわと。あるいはわくわくとした感情で胸の内を掻き回されているところだった。


「足りない二撃・・を! どうやって見繕うんだ、若葉アキラ!」


「レギテウ! 連続ダイレクトアタックだ!」


 攻撃権を増やしている巨狼による、目にも留まらぬ速さでの突進。それによってライフコアを砕かれた泉は、眼前で動きを止めているレギテウの赤い瞳に若干の恐怖を覚えつつもドロー。


「クイックチェック──発動はなし。手札に加える」


 そう宣言した途端にふっと目の前から姿を消した巨狼。アキラのフィールドに舞い戻った彼はしかし離脱際にしっかりと命令を遂行していたらしく、泉のライフコアは三つにまで減っていた。


「クイックチェック──発動はなし。手札に加える」


「続けてガールでアタック! ビーストスラッシュ!」


 レギテウと入れ替わりに、彼とは質の違う素早さであっという間に敵へ迫った獣の少女が奔放に爪を振るう。その鋭い一撃にライフコアが霧散し、きらきらと爪痕の残光を空中に示した──そして訪れた三度目のクイックチェックにて、泉は。


(……! 《火龍砲弾》!)


 自身が引いたそれに大きく目を見開いた。



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