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107.力の鼓動。アキラを導く運命!

 馬鹿な──という感想もまた、彼を相手に抱くのが何度目になるか泉にはわからなかった。


 ディモアに関してはまだ理解できるのだ。お誂え向きにアキラのフィールドにはディモアの蘇生効果のトリガーとなる《不惑の月鼠》もいることだし、墓地にはグラバウがいる。月鼠を破壊しつつグラバウを蘇生させれば、その高い戦闘能力によってとりあえずこちらの戦線を崩すことができる。グラバウが持つ【好戦】と連続攻撃、そしてパワーアップ効果は守護者ユニットに守られている上にスタンド状態にあるエノクリエルですらも倒せるのだから──その場合両ユニットの共倒れは必至となるが、しかし現状の打破として悪くない手だろう。


 だが問題なのはアキラが勝利を目指していること。均衡を五分に持っていくのではなく、あくまでも勝つつもりでいる……それもディモアともう一枚の手札にあるカード、《緑樹の氾濫》によってそれをなすと彼は言った。だからわからないのだ。そのカードはとてもではないが詰めの一手として数えられるものではないことを、知識と経験においてアキラに勝っている泉は知っているから。


「緑陣営スペル《緑樹の氾濫》……それは墓地のユニットを七体デッキに戻してシャッフルした後、新たにカードを三枚ドローすることができる特殊なドロースペル。デッキ内に必要な要員が枯渇した際にリソースを回復する用途でも使えるが、しかしなんと言っても着目すべきは三枚も手札を増やせるという圧巻のドロー力。総じて、アド回復能力に長ける緑という陣営の極みのようなカードだと言えるだろう」


 ただし。とつい癖でもう鼻の上にはないメガネを指先で押そうとして手を滑らせつつ、泉は続けた。


「デッキに戻すユニットは必ず緑陣営の、同一種族のみに限られる。その制限の分必要コストは5と効果に比すれば決して重くはないが、いわゆる『取り回しに難のある』カードであることも間違いない……といった具合に、《緑樹の氾濫》が授業で取り上げられたならオレは講釈するだろうな」


「俺よりもずっとわかりやすく説明してくれてありがとう。あんたが全部言ってくれたから改めて付け加えることもない。こいつがどうしても引きたかったもう一枚のキーカードさ」


 《緑樹の氾濫》はデッキ構築の時点で泉とのファイトで必ず苦戦を強いられると確信したアキラが投入した、まさしくリソース回復のためのカード。ファイトの当初に泉はアキラのデッキに『強化こそされているが際立った変化なし』と判断し、そしてそれはデッキコンセプトという観点からすれば正しくもあったが、それでも大きな変化はあったのだ。何故ならアキラは感じている。デッキと真にひとつとなりつつある今、さっきまでは感じられなかった鼓動・・。その高まりを確かに受け取っている──だがそれを知るのはアキラのみ。そうとは気付けぬ泉はまるで狐にでも化かされているかのような面持ちでいる。


「やはり理屈に合わんな、貴様の物言いは。つまりは三枚のドローを当てにして逆転するつもりでいる、ということなのか?」


 またしても運頼みか。と、そこに関してはもはや指摘するのも馬鹿らしいくらいなのでスルーするとして。けれどドローのために5コストも費やしたのではコストコアは五つとなり、宣言通りに続けてディモアも召喚するとなればたったのひとつしか残らない。手札が増えたところで1コスト分しか使用できないのではやれることなど何もない──いや。


(そうか、若葉アキラの有する爆発力。それをここで発揮せんと自らを追い込んでいるのが、今の貴様なのか)


 ほんの数コスト。どう考えてもトドメを刺すには足りていない状況からでも目まぐるしく動き、まさに爆発的な勢いで以って状況をひっくり返すのがアキラ定番の勝ち方。彼が為そうとしているのはそういうことなのだと泉にはようやく当たりがついた……だが、だとしてもわからないことは多い。


 前述したようにそのためには元となる火薬・・起爆剤・・・が必要不可欠。爆発するための条件が整っていなければならないのだ。現在のアキラの盤面は小型ユニット一体。ここからドローしつつ条件を満たすとなればやはり、本当の鍵となるのはディモアでどのユニットを墓地から呼び戻すかという点。


「──行くぞ! まずは《緑樹の氾濫》を発動!」


「!」


 泉の思考がこれからアキラが何をするのか。その答えの片鱗を掴みかけた時にはもう、種明かしが始まっていた。


(──構わん! 貴様がこれよりどんなプレイをしようとも! やれるものならアッと言わせてみせろ、若葉アキラ……!)


 アキラの墓地ゾーンから光が溢れる。そこから七枚のカードが飛び出したかと思えば空中で急激に方向転換し、そのままの勢いでデッキへと戻っていく。


「ガール、レギテウ、グラバウを含む種族『アニマルズ』のユニット七体をデッキに戻し! その後俺は三枚カードを引く──ドローだ!」


 一挙に三枚のドローを果たしたアキラは、合計で四枚になった手札から迷いなく元々あったそのカードを引き抜いてファイトボードへと置いた。


「《呼戻師のディモア》! 召喚!」


 《呼戻師のディモア》

 コスト4 パワー2000


 フードを被った小柄な人物。ネクロマンサーを思わせる彼(?)が放つオーラは不気味かつ冷涼である。それを身に受けて月鼠はぶるりと背筋を震わせたが、しかし彼も覚悟はできていた。


「ディモアの登場時効果発動! 自軍ユニット一体を破壊することで墓地から黒以外のユニット一体を蘇生させる──俺が選ぶのは《マザービースト・メーテール》だ!」


「やはりそうなのか、貴様!」


 《緑樹の氾濫》でビーストカードをまとめてデッキに戻しつつも、その中にメーテールが含まれていなかったことでおおよその察しもついていたが。察した通りにどこまでも堂々と、意気軒昂に再度の大博打へ臨まんとするアキラに泉は呆れと感嘆を同時に表情へと表した。


「メーテール再誕! と同時に、破壊された《不惑の月鼠》の効果も発動する! 処理の順番は俺の好きに決められる。よってここは月鼠の処理からだ!」


 破壊されて墓地ゾーンへいったはずの月鼠がひょこっと顔を出し、そそくさとコストコアゾーンへと移動。そこにある一枚のカードと入れ替わって自身がコストコアへと収まり、代わりに押し出されたその一枚はアキラの手札に加わった。


「コストコアと手札の入れ替え……!」


 《晴天大公ハレルヤ》で同じことをした泉だ。ハレルヤと違って月鼠は破壊されなければ効果が使えず、入れ替え枚数でも劣っているが、しかしハレルヤとはまた別の利点がある。アキラは今それを最大限に活かしたところだった。


(実質的に手札を増やしたようなもの。それもちゃっかりとレスト状態のコストコアと入れ替えることでこのターンに使えるコストを増やしながら……上手いやり方だ)


 如何にも自分や、自分が育てたミオが行いそうな無駄のないプレイングである。それは紛れもなく自分たち親子からアキラが技術を吸収しているが故のものだと気付かされる──成長している。今この瞬間にも、止めどない早さで! そしてそれ以上の脅威がこの噛み合い方。まるで決まった結末へ向かうように流れが収束していっている。


 そう思えるだけの何かがアキラのプレイを支えているのが泉にも伝わってきた。


「あんたのことだ。言われなくたってわかっているだろうけど、月鼠を頼ったのはコストコアの回復よりも手札を増やすのが目的だった。俺の手札は四枚……これで準備は整った」


「……!」


「さあ二度目の押し合い・・・・だ! メーテールの登場時効果を発動、俺は手札を全て捨てて! その枚数分デッキをめくり、それが『アニマルズ』ユニットであればフィールドに呼び出せる!」


 そうしてアキラがめくった一枚目は──。



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