103.再臨、白き炎の機械天使!
「グラバウ!」
アキラの呼びかけも虚しく、猛る龍のように暴れ狂う火炎に全身をくるまれた巨獣は叫び声すら上げられずに倒れ伏した。グラバウを以てしても耐え切れない熱量の業火。それを発射させた泉はにやりと笑った。
「《閃光火龍砲弾》は6コストの白赤ミキシングスペル。唱えればパワー7000以下の相手ユニット一体を破壊することができる……そして察しも付いているだろうが! ミキシングであるからにはこいつの効果はそれだけじゃあない!」
「!」
「火龍の如き砲撃と共にこのカードは──相手の場を眩く照らす! 貴様のユニット全てをレスト状態へ!」
「なんだって、っぐ!?」
言うが早いか、泉の手にあるカードが強烈な光を放ち、アキラのフィールドを白く染め上げた。火龍の猛りを超えた光量にアキラは目を開けていられず、やがて光が収まってようやく自身の場を確かめることができたとき……アタックしたことで元よりレスト済みである《ビースト・ガール》以外の四体。《マザービースト・メーテール》を始めとする残りのユニット全ても疲労状態となり無防備に陥っていた。
「総崩れだ。ククク、貴様の戦線はもはや崩壊していると言っていい。これでは大博打に勝った運の良さも形無しだろう……台無しにしてしまって済まないと謝罪してやりたいくらいだよ」
「……!」
確かにこのタイミングでクイックカードを、それもよりにもよってミキシングの強力なスペルを引かれたのは痛い。《閃光火龍砲弾》。赤陣営の《火龍砲弾》よりも処理できるユニットの範囲が広がっており、その上で全体レストという敵ユニットの足止めとしては最適な効果まで伴っている。仮にメーテールの効果で呼び出したユニットにもっと【疾駆】持ちがいたとしてもダイレクトアタックはここで止められていたことになる──やはりミキシングは攻防どちらの面で用いても優れているカードだ。まさにその威力を十全に食らってしまったアキラとしては素直にそう認めざるを得ない。
それをこの局面で掴んでみせた、泉モトハルの運命力についても同様に。
(奴のデッキにもクイックカードは入っている。少ないことには少ないんだろうけどゼロではない──そしてミキシングのクイックが思いの外使いにくくない。そこも予想外だったな……)
大して高コストでもないし効果も汎用的。手打ちするには流石に重さを感じなくもないが、それはクイックカード全般に共通した特徴。《閃光火龍砲弾》が殊更に取り回しづらいというわけではなく、反対にクイックのタイミングで唱えられれば場面を選ばず確実になんらかの仕事はしてくれる。そういった利点についてはむしろそこらのクイックカードよりもパフォーマンスに優れている(※これはクイックユニットやクイックスペルが必ずしも相手への妨害効果を持っているとは限らないための評価である)と言えた。
(問題なのは確実に仕事をする《閃光火龍砲弾》が『最高に』活きる場面で飛び出てきたことだな……グラバウをやられ、アタックしていないユニットまでレストさせられたこの現状。博打で掴んだ運を泉の運で相殺された形──だけど。グラバウ以外は無事なんだ。戦線が崩壊したとはまだ言い難い! ここで気落ちなんてしたらせっかく高まっている運がどこかに逃げていってしまう、それだけは駄目だ)
「俺はターンエンドだ!」
(──などと考えているのが丸見えだぞ、若葉アキラ! 貴様の理論で言えば運命力とは押し引きするもので、流れとは常にたゆたっているものなのだろう? ならば攻勢にケチがついた時点で既に流れはオレの手にあると何故認めないのか! クック──わかっているとも、それは怖いからだ。逆転の一手として築いた陣営が、これより本当に崩壊する。その様を目の当たりとしたくないために目を背けているに過ぎん)
「オレのターン。スタンド&チャージ、そしてドロー!」
新たに引いたカード。それを一瞥だけして手札に加えた泉は、そこから別のカードを引き抜いた。彼の動作にアキラは背筋を強張らせる。淀みもなければ迷いもない素早い選択。それはこのターンでどう動くか、泉の中でプランがとうに固まっていたことを意味しており。翻って彼が繰り出すカードがなんであるかについてもまた、確かめる前からアキラには確信が先に来た。
「まだ握っていたのか──ミキシングカード!」
「ご明察だな! 4コストで白赤混合スペル《従補復帰》を発動! その効果によりオレは墓地からユニットカードを一枚手札へ戻し、更にそれが赤陣営か白陣営であればそのまま無コストで召喚できる! オレが回収するのは──《焔光の天徒エノクリエル》!」
「!」
「当然そのまま召喚する! 再び現れろ、エノクリエル!」
《焔光の天徒エノクリエル》
コスト6 パワー7000 MC 【守護】 【重撃】
またしてもフィールドに降臨した白い炎を纏う機械天使。圧倒的なまでに力強いその存在感にアキラは表情を歪める──ここでこいつは、まずい。
「忘れてはいないだろうな? エノクリエルが持つ能力を」
「っ……そりゃあ嫌ってほどに覚えているさ」
「そうかそうか。それだけ強烈に印象に残ったということだな──喜べ、もう一度見せてやるぞ。まずはエノクリエル第一の効果を発動! 相手の場のレストしているユニット一体を破壊する。対象は《ジャックガゼル》!」
泉の宣言に合わせて放たれた白い炎が矢のように飛んでガゼルを貫いた──かに見えたが、しかしガゼルは五体無事である。
「《ジャックガゼル》の効果! 一ターンに一度だけ破壊を免れることができる!」
「知っているとも! 続けてエノクリエル第二の効果を発動! 手札から5コスト以下の赤または白のユニット一体を無コストで召喚できる! オレが呼び出すのは……ククク、これも予想できているな!?」
「まさか、続けて!?」
「そう、そのまさかだとも! またしても白赤のミキシング! 《祈りの先兵ホランシャ》を召喚だ!」
《祈りの先兵ホランシャ》
コスト4 パワー5000 MC 【好戦】
鳥のくちばしを思わせる奇妙な仮面を被り、宗教的な民族衣装に身を包んだ女性が手に持った錫杖をしゃりんと鳴らしながらフィールドに降り立った──「この瞬間!」と泉はエノクリエルの更なる効果を発動させる。
「エノクリエルは第二の効果で呼び出したユニットの陣営によって異なる追加効果を得る。そう説明したな。先ほどは白ユニットを召喚したことで白の追加効果を得たわけだが……さて。今回呼び出したホランシャはミキシングユニットであり、白と赤の両方に属している。この場合はどうなるか、わかるかね?」
「……!」
教職に就く者らしく、まるで講義の一場面のように問いかける泉。それに対しすぐに答えに行き着いたアキラもまた指された生徒らしく応じた。
「ミキシングは陣営も種族も持っている分だけ参照される。ということは、白赤のミキシングユニットを呼び出したエノクリエルは──同時に両方の追加効果を得る!?」
「ご名答! まずは白の追加効果を適用! これによってエノクリエルはレストしないままにアタックすることが可能となった──よって召喚酔いも関係なし。《ジャックガゼル》へのアタックを命じる!」
「くっ……!」
ガゼルの破壊耐性はもう使ってしまっている。パワーで勝るエノクリエルの炎剣から彼が逃れる術はない。頼れるガゼルの喪失を覚悟したアキラに、更なる追い打ちがかかる。
「ここで更に! 赤の追加効果も適用だ!」




