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102.鍔ぜり合う運命力!

 メーテールの深く優しい鳴き声が響く。その咆哮によってアキラのデッキの上から、彼が捨てた手札の枚数分。即ち四枚のカードが浮かび上がる。


「引けるわけがないっ、そう都合よく……! 貴様の運命力は今陰りを見せている!」


 泉のそれは確信に近いものだったが、しかしそう言葉にする彼の表情にはどこか苦痛のようなものも見える。万が一。その可能性が拭えないでいるせいか、あるいは。ここで大博打に打って出たアキラの強気に自分が飲まれかけてしまっていると……僅かなりとも怯んでしまっていると、心のどこかで認めているせいか。


 そんなまさかと己を鼓舞するための誤魔化しのような威勢を発した泉の「常識的な物言い」に対して──果たしてアキラは力強く笑みと反論を返した。


「運命の押し合いはその一瞬一瞬で趨勢も変わる。さっきがいまいちだったからって今度もそうなるとは限らないだろ──カードをめくるぞ!」


 宙に浮かんだカードたちがくるりと反転し、表を見せる。それが種族『アニマルズ』のユニットであればフィールドに呼び出され、異なっていればデッキの下へ帰っていく。もしも一枚も『アニマルズ』が引けなければアキラはなんの意味もなく手札を大量に捨てただけに終わってしまう。すると彼は泉の戦線にメーテールだけで挑まねばならず、言うまでもなくそこに勝ち目はない。失敗すればファイトの勝敗も決まる、そう言っても過言ではない限界ギリギリの瀬戸際に自ら踏み込んだアキラの出した、結果は。


 彼の持つ爆発力。大きな「振り幅」が最大限に発揮されたものとなった。


「引いたカードは──全て『アニマルズ』!」


「!??」


「一斉召喚だ! 現れろ、俺のユニットたち!」


 《マザービースト・メーテール》

 コスト9 パワー4000


 《キングビースト・グラバウ》

 コスト7 パワー7000 【好戦】


 《ビースト・ガール》

 コスト4 パワー4000 【疾駆】


 《ジャックガゼル》

 コスト4 パワー4000 【好戦】


 《不惑の月鼠》

 コスト3 パワー2000


「馬鹿な……?!」


 一瞬。まさしく瞬く間に形勢された軍勢に泉は目を剥くしかなかった。


 アキラのデッキは種族混合の構築である。主体が切り札であるビーストユニットが属する『アニマルズ』であるのは間違いなくとも、他にも《恵みの妖精ティティ》を始めとする『フェアリーズ』や、差し色の黒陣営である《闇重騎士デスキャバリー》の『ダークナイト』等々、決して少なくない数の異種族も採用されている。スペルカードやエリアカードの存在も含めて四枚のチェックにおいて『アニマルズ』以外のカードを引く確率はそれなりにあった。否、それなり以上・・にあったのだ。だというのにアキラは一枚たりとも外れを引かなかった──四枚の全てを当たりとしてみせた。しかも。


「《小袋モモンガ》で戻した内の一体はグラバウだったのか──だとしても! それをここで引き当てるだと!? しかも四枚中二枚がビーストなどあり得ん、どんな確率だそれは……! あまりに馬鹿げている!」


「俺も上出来が過ぎると思っているよ。グラバウもガールも、そしてジャックガゼルも一枚しか採用していないカードたち。だから『引き当てた』なんて偉そうなことは言えないな……『来てくれた』んだ、俺のピンチにこいつらが」


「……!」


 デッキとの、カードとの信頼。絆が繋いだ奇跡なのだと──そう言いたいのか。泉はギシリと歯を鳴らす。当てつけのようなアキラのセリフが、されど心からの言葉であると彼にはその優れた洞察力でわかってしまうために。


 余計に苛立たしく、余計に腹立たしく。


「運命力目一杯! 駆け付けてくれたこいつらのためにも、俺はあんたに勝つ! さあ行くぞ、まずは《キングビースト・グラバウ》の効果──相手ユニットの数だけ自身のパワーを上げる! あんたのユニットは三体、よって3000のパワーアップだ!」


 《キングビースト・グラバウ》

 パワー7000→10000


「パワー10000……!」


「そして知っての通りグラバウには【好戦】と相手ユニット全てにアタックできる能力がある。殲滅戦に長けたグラバウならアダルシアの【守護】もシヴォルリーの効果破壊耐性も関係ない。ミキシングだろうとなんだろうと、こいつは全ての障害をぶち破っていく!」


 やれ、グラバウ! アキラの血気が込められた指示にグラバウは短く吠え、その巨体で敵陣へと突撃。すると一直線にシヴォルリーを目指す彼を阻まんとして傍らにいた機械天使が進路上に割り込む。己が役目を無思考で果たすまさしく機械的、作業的なその動作に、グラバウもまたなんの感情も籠らないただただ冷徹な殺意の一振りで応じた。


「グランドスラッシュ!」


 巨爪一撃。切られ踏み潰された機械天使は爆散。その音が周囲に響く頃にはグラバウは本来の獲物であるシヴォルリーへと肉迫していた。ギラリと口元から白い牙を覗かせる巨獣に赤い大蜥蜴もまた全身の武装を解き放って応戦。素早く付けた照準に従っての一斉掃射によってグラバウの肉体の遍くを粉砕せんとした──が、なんとグラバウは空気を震撼させるほどの大咆哮で撃ち出された弾の全てをまとめて迎撃。自身に命中するよりも早く粉砕してみせた。予想外の結果に大蜥蜴が驚く、間すらなく彼は首を落とされた。


 最大の敵を仕留めたグラバウはアキラのフィールドへ帰還する前にもののついでとばかりにガンドンを踏み潰し、泉の戦線を完全崩壊させた。


「くっ、こんなことがあっていいのか──」


「次は《ビースト・ガール》の出番だ! 泉モトハルへダイレクトアタック!」


「ぐぉっ!?」


 泉が悠々と自陣へ去っていくグラバウの後ろ姿を忌々しく眺めれば、それと入れ違うように一個の影が飛来。グラバウより遥かに小柄、しかしグラバウよりも機敏な所作で敵陣へ侵入を果たしたのは、虎を思わせる体毛とその合間から覗くしなやかな褐色の体躯が特徴的な獣人の少女。【疾駆】を持つことで召喚ターンに即相手プレイヤーへのダイレクトアタックが可能な彼女はその能力を活かし、なんの遠慮もなく泉のライフコアを豪快に砕いてみせた。


「クソったれめが……! クイックチェックだ!」


 カードを引く泉だが、自身のデッキにクイックカードを『あまり』採用していないことからそれを引けるとは彼自身まったく期待していなかった──だが博打に大当たりを引いたアキラに対する怒り故か、それとも彼の言う一瞬一瞬の押し合いにこの一時は泉が勝ったか。手にしたカードは想定以上にであった。


「ククク……!」


「!」


「来たぞ、ミキシングのクイックスペル! 《閃光火龍砲弾》を無コストで唱える!」


「《閃光火龍砲弾》!?」


 赤のクイックスペル《火粒砲弾》は、相手の場のパワー3000以下のユニット一体を破壊するという典型的な火力スペル。小学生の頃のコウヤのデッキで高い採用率を誇っていたカードだけあって赤陣営を扱わないアキラにとっても馴染み深く、また広く知られたクイックスペルの一枚だ。同様の登場時効果を持つ《鉄影のガンドン》が──彼はクイックユニットでこそないものの──《火粒砲弾》内臓ユニットと称されたりすることからもその有名具合がわかるだろう。


 そして《火粒砲弾》の進化系が《火龍砲弾》。同じくクイックスペルであり、3コストでパワー3000以下の破壊を可能とする《火粒砲弾》に対し5コストでパワー6000以下を破壊するという、まさに元の効果が強力化したようなカードである。


 小回りと、より高い火力。どちらを優先するかで採用されるデッキも異なり、単純な上位互換でこそないがこのふたつのスペルが上下の関係にあることは間違いなく──しかしてアキラが知っているのはここまで。白赤の混色ミキシングである《閃光火龍砲弾》は明らかに《火龍砲弾》の更なる上位カード。だが初めてお目にかかるからには当然、アキラにはその効果がまったくわからない。


 と言っても名称からそれが火力スペルであることは予想に容易く、故に彼がマズいと直感した瞬間にはもう……グラバウは龍を思わせる激しい業火の直撃を受けているところだった。



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