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101.再臨、母なる獣

「おやおや若葉アキラ。恐れずユニットを展開させた度胸は褒めてやりたいくらいのものだが、しかし《抹殺と再生の倫道》を使うまでもなく! 全滅という結果は同じだったな」


「………、」


 再びのライフコアの大量再生。それはどうにか避けられたものの、けれどその代わり泉の場にはユニットが並んでいる──宣言通りに戦線が構築されている。


 《絶倒煉機シヴォルリー》

 コスト7 パワー7000 MC 【好戦】


 《身命の天徒アダルシア》

 コスト4 パワー5000 MC 【守護】


 《鉄影のガンドン》

 コスト3 パワー3000


 数は三体とそれほど多くないが、対するアキラのユニットがたった今一体もいなくなったことを思えばそれだけの数でも脅威であった──しかも三体の内の二体はミキシングカードであり、それに見合った強力さを有してもいる。


「一応言っておくがシヴォルリーには連続攻撃の能力だけでなく『破壊耐性』もある。貴様のカード効果では破壊されないぞ」


「自己スタンドに加えて破壊耐性まで……赤ユニットとは思えない隙のなさだ」


「当然。こいつは赤陣営であると同時に白陣営でもあるのだからな」


 泉の言葉にアキラはなるほどと深く納得する──連続攻撃は赤らしい攻めっ気に強い効果だが、そこに破壊耐性まで加わるのは白らしい守りの堅さの表れに違いない。シヴォルリーはまさしく混色ミキシングの特色が出ていると言っていいユニットである。


「だけどあんたが限界までアタックすることを選んだからシヴォルリーはレストしてしまっている。効果破壊への耐性はあっても戦闘破壊なら話は別だ──今ならシヴォルリーは無防備!」


「シヴォルリーは、な。横に控えるアダルシアが目に入らないかね? こいつは守護者ユニットだ。まずはこの壁を越えない限りシヴォルリーへ手出しはできないぞ」


「必要とあらば越えてみせるさ」


 などと会話しつつも。その裏でアキラが真に狙っているのは破壊ではなく、依然としてデッキに採用している《大自然の掟》や《暴食ベヒモス》が持つ『墓地送り』によるシヴォルリーの処理であった。


(アダルシアは強力な守護者だが、登場時効果を使い終わった今はただそれだけのユニットでしかない。対してシヴォルリーは毎ターン三回もアタックしてくる面倒なユニットだ──生かしてはおけない!)


 最優先で処理すべきは間違いなくシヴォルリー。破壊耐性をすり抜けられるカードさえ引ければ、と。アキラがそう考えることは当然泉もわかっている。その上で彼は悠然と笑みを作る。


(ああ、貴様のデッキに《大自然の掟》や《暴食ベヒモス》が入っていることはオレもトーナメントで把握済み。今使っているそのデッキからもおそらく抜かれていないであろうとたったいま貴様の目で確信したよ──ならば引き当ててみたまえよ。オレはそれに拍手でもって応えてやろうとも)


 やるならやればいいのだ。決して軽くはないコストを費やしてようやくシヴォルリー一体を処理したところで、そのターン中にアキラが他にできることなど限られている。戦線の再構築すらままならずエンドするようならもうどうしようもない。何せ泉の手札にはまだミキシングが眠っており、それを展開していくだけでアキラは対策が間に合わずに死んでいくのだから。


(次のターンで若葉アキラの使用可能コストコアは九つとなる。だが《大自然の掟》も《暴食ベヒモス》も共にコストは6、仮に引き当てたところでそれを使えば残りのコストコアは三つ! それでは貴様も如何ともし難かろう)


 条件さえ整えっていればアキラは少ないコストコアからでも怒涛の展開と攻めを見せる、爆発力を持つドミネイターである。それはクロノやミオとファイトしている彼を見ていた泉とてよくよく承知しているが、されどだからこそ。まったく条件が整っていない現状ならばその恐るべき爆発力もなんら恐ろしくない。そういった余裕が泉にはあった。


「《福魔猫》が破壊されたことで貴様はデッキからドローできる。引くといい、若葉アキラ。それでシヴォルリーを片付ける算段が立つといいがね……ククク」


 挑発混じりの泉の催促。それには言葉を返さず、アキラは静かにデッキの上からカードを引いた。どんなカードが手札に加わったのか。アキラの目付きや顔付きから少しでも情報を読み取ろうとした──半ばドミネイターの癖として──泉だったが、しかし静かな所作以上に彼の面持ちは凪いでおり、これでは何も窺い知ることができない。


(チ……)


 思いのほか早く再全滅の衝撃から立ち直っているらしいと知って泉は内心で舌打ちを漏らす。落ち着いて言葉を紡いでいる彼だが、しかし感情は今もなお煮え滾っている。ミオの覇道を阻止せんとするアキラへの激しい怒りはちっとも収まっていないのだ──それが消えるとすれば、アキラが惨めったらしく敗北する時。その心がぽっきりと折れた時だろう。


 かつての泉自身のように。


「──オレはターンエンドだ」


「俺のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー」


 さっきまでとは打って変わって二人は声を張り上げない。ファイトの進行は冷静そのものだ。が、しかし。激し合っていた先ほど以上の重たい緊張感が場を包んでいることに、観戦しているムラクモもチハルも気付いていた。それは無論のこと緊張を生み出している当人らも同様であり。


「正念場だな、泉モトハル」


「貴様にとってはそうだろうな」


「いいや──ファイトも終盤に入ろうとしている。互いにライフコアはまだまだ残っているけれど、コストコアもだ。ここから先はミスのひとつが致命傷になり得るぜ」


「ふん。オレがミスをするとでも?」


「しない、と言い切れるのなら。それがあんたの強さ。そして弱さでもある」


「……!?」


 強さと弱さ。それはコインの表裏のようにひとつのものであると。そう考えるアキラは、今からやるその行為に己の強さと弱さの両方をぶつけるつもりでいた。


「溜まっている九個のコストコアを全て使って! 《マザービースト・メーテール》を召喚!」


「マザービースト、だと!?」


 ふわふわもこもこ。見るからに触り心地のよさそうな桃色の体毛に身を包んだ巨大な四足獣。マザーの名に相応しく獣の国の大いなる母を思わせる優しげながらに貫禄に満ちたその姿に、ミキシングを従える泉も思わず半歩後退る。


「これもビーストのカード……! 貴様の切り札の一枚ということか、若葉アキラ!」


 いったいどんな効果を持っているのか、と警戒する泉にアキラは──手札を四枚捨て去ることをその答えとした。


「!」


「メーテールの登場時効果を発動。任意の数だけ手札を捨てて、その枚数分デッキの上からカードをめくっていく。そしてその中にある種族『アニマルズ』のユニットを無コストで召喚することができる!」


「なッ……貴様、この局面でそんなギャンブルに頼ろうというのか?!」


 あまりにも豪快な、あまりにも博打めいた効果。メーテールの見た目の印象とは裏腹の盛大に過ぎる能力、そしてそれに堂々飛び込まんとするアキラの判断に泉はこのファイト中において初めて思考力を混乱が超えた──優秀なはずの処理能力が目の前の現実を処理しきれなかった。故の動揺を見せる彼に、そうさせたアキラはどこまでも凪いでいた。


「ギャンブルにだって頼るさ。元から分の悪い、まともに考えれば勝ち目なんてないこの勝負。勝つためならこれくらいのリスクを背負わなくてどうするっていうんだ?」


「貴様……!」


「流石は先生だ、あんたの言うことは正しいよ。全ては『引き当てられる』かどうか。そこにかかっている──さあ、運命力の対決といこう!」



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