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10.真の鉄壁、エンディアの本領

 ディスチャージによりオウラのライフは残り二にまで減っている。一見すればあと一歩でアキラが勝利するこの状況において、しかしたった二のライフを削り切れるものと断言できる生徒は、コウヤやロコルを含め観衆には誰一人としていなかった。それも当然である──舞城オウラのこの凄まじき気迫を目の当たりにしてしまえば!


「これでコストコアは六つ。わたくしはその全てを使い、最強の天使を召喚いたします」


「最強の天使だって!?」


「白の至宝、その目に入れられることを光栄に思いなさい──出でよ、我が絶対の守護者! 《天星のアルファ》降臨!」


 《天星のアルファ》 

 コスト6 パワー6000 【守護】


「──!」


 まるで巨塔のように大きく白く、そして威圧的な存在がフィールドに舞い降りた。三対六枚の白い翼がなければ天使とはとても判別できないような異様と威容。顔らしき箇所には女性の寝顔を思わせる仮面のような物が張り付いており、ともすれば不気味にすら感じられる容貌のアルファだが、されどその身より放たれる光だけは清浄であり恐ろしいまでに神々しくあった。


 ごくりとアキラは喉を鳴らす。


「これが、最強の天使」


「そう、最も信頼厚きわたくしのエース! その力を今ご覧に入れましょう──アルファの登場時効果を発動! 手札より自コスト未満の『エンディア』を二体まで呼び出すことができる。出でよ、《熾天星オル》! そして《智天星エル》!」


 新たな天使と、更に先程ようやく倒したエルの再登場。あっという間に異形の天使が再び三体並んだことで周りの生徒たちがどよめいた。


「なんてことっすか、合計で9コストも踏み倒したっす!」

「《天星のアルファ》。流石は天使軍団の親玉って具合の効果をしてやがるぜ……しかも呼び出された配下共がこれまた厄介だ」

「っすね。《智天星エル》には【守護】ユニットの強化能力が、そして《熾天星オル》には──」


「オルの効果適用! このユニットが場にいる限り、自軍の白のユニットは全て【守護】を得る!」


「エルと同じ常在型の効果か!」


「その通り。そしてエルとオルは互いを強化し合う関係にある! オルの効果で守護者となったことで、エルは自身もまたパワーアップの対象にできる。それにより!」


 《智天星エル》 

 パワー3000→5000 【守護】


 《熾天星オル》 

 パワー4000→6000 【守護】


 《天星のアルファ》 

 パワー6000→8000 【守護】


「全員が守護者で、しかもこのパワーの高さ……!」


「これぞわたくしの真の牙城、何人も寄せ付けぬ鉄壁を超えた鉄壁ですわ!」


 ──あなたには決して越えられない。

 そう言って、オウラはターンエンドした。


「くっ……俺のターン! スタンド&チャージ、そしてドロー……えっ!?」


 いつも通りにスタートフェイズを行なったアキラだが、とある異変に気付きその手を止める。ユニットたちがスタンドしていないのだ。何か手順を誤ったかと慌てるが、コストコアはスタンドしているしドローもできている。ゲーム進行に問題があったわけではない。では、この現象はいったい……。


「──まさか!?」


「そのまさかですわ。《天星のアルファ》のもうひとつの効果。このユニットが場にいる限り、白以外のユニットはターン開始時に起動スタンドできない!」


「なん、だって……?」


 スタンドできない。それは即ち、なんの行動も取れないということだ。アタックしたユニットはその後沈黙し続け、仮にアキラの場に【守護】を持つユニットがいたとしても一度ガードすれば二度とは敵の攻撃を防げなくなる。白陣営のユニットであればその制約から逃れられるようだが、アキラのデッキに白のカードなど一枚も入っていない。


「理解できまして? 最上位天使であるアルファは場に存在するだけであなたを支配する。あなたのエースカードである《ビースト・ガール》を含めその三体はもはや役立たず! 新たにユニットを呼び出したとしてもエルとオルがアルファを守る……もう一度言わせてもらいますわ。若葉アキラ、あなたにわたくしの鉄壁は越えられない!」


「っ、攻撃が通らなくたって……! 要はアルファをなんとかすればガールたちも復活するんだろ! だったら!」


 一考したアキラが手札から繰り出したのは、一枚のスペルカード。


「《重圧》を唱える!」


「《重圧》──!? それは黒のカード」


 何故そんなものがアキラのデッキに、と驚くオウラだったが。


「俺のデッキが緑一色だなんて言った覚えはないぞ。前までは確かにそうだったけど、日々改良を重ねて今のデッキがある!」


「黒緑の混色デッキというわけ……なるほど。先ほど《太楽ラクーン》で行っていたのは手札操作というよりもコストコアの操作でしたのね」


 ドミネイションズの基本ルールとして、カードをプレイするためにはコストコアが必須であり、また使うカードと同色のコストコアがないことにはたとえ数だけ足りていても召喚や発動は叶わない。緑のカードを使うには緑のカードが変換されたコストコアが必要。ひとつでも同色があれば残りは他色のコストコアでも構わないのだが、しかしながら変換チャージとはスタートフェイズにデッキの一番上のカードが自動的にコストコアとなるもの。つまりはプレイヤーに選択権がなく、どのカードがコストコアとなるかは完全に運次第である。


 だからこそデッキは一色に固めるのがベターであるとされるのだ。陣営を混ぜれば混ぜるほどチャージによって目当ての色がコストコアになる確率は下がっていく。今回のアキラの例で言えば、黒のカードが手札に集まっているのにコストコアには緑しかなく、何もできない。そうなる可能性だって大いにあったのだ。それを避けるためにデッキ内をどういった配分にしてバランスを取るかはドミネイターのセンスが問われるところであり、プレイングとはまた別にその者の実力が表れる大切な要素でもある。


(ユニットの効果を活かしての黒のコストコアの確保。そしてここぞという場面まで黒のカードを持っていることをわたくしに悟らせないそのプレイング。デッキ構築の内実に関してはともかく、細々とした工夫の仕方は確かにビギナーのそれではない……紅上コウヤが目をかけるだけのことはあるようですわね)


 だんだんと上方修正される若葉アキラというドミネイターへの評価。思ったよりは随分とやる。素直にそう認めるオウラではあったが、とはいえ。それでもこの程度ではとてもとても、自分と同じく栄光のドミネイションズ・アカデミアを目指すに足る人材だとは認めてやれない。


「《重圧》は敵ユニット一体をレストさせる。俺が選ぶのは当然《天星のアルファ》だ!」


 ずぅん、とまるでそこの重力だけが急激に増したかのように見えない圧力がかかり、最上位天使もその姿勢を低くすることを避けられなかった。エースカードのそんな姿にオウラは不満気にする。


「わたくしのしもべを勝手に跪かせるとはまた罪深いことを……それで、どうするのかしら? ただ跪かせて満足というわけではないのでしょう?」


「勿論! 俺は続けてこのユニットを召喚する。来い、《悲喜籠りのアイラ》!」


 《悲喜籠りのアイラ》

 コスト3 パワー1000


 ガウンのスカートを靡かせてフィールドに現れた令嬢。揃いも揃って巨体を誇る天使たちを前にするとその矮躯はいっそうに小さく見えたが、己が場違いであると知ってか知らずかちょこんと佇む彼女には特に緊張の色など見られなかった。それはきっと、この後の自身の役割をよく理解しているが故の落ち着きなのだろう。


「アイラの特殊効果を発動。自分を破壊し、その道連れとして相手の場のレストしているユニットを一体破壊する! 頼む、アイラ!」


 任せて、とでも言うようにこくりと頷いた令嬢がそっと瞼を下ろせば、途端にその全身がぼろぼろと崩れていく。そして崩れた箇所から漏れ出た黒いモヤが一直線にアルファへと伸びていった。最上位天使にも怯むことなく憑りつき殺そうとしたアイラの思念だったが──パンッ、と何かに阻まれるようにしてモヤは打ち払われてしまった。


「なっ、相思相殺が効かない……!?」


「うふふふ! 残念至極ね。種明かしをすれば、これはオルの効果によるもの」


「オルの効果だって?」


「《熾天星オル》は白ユニットに【守護】だけでなく、『効果によって破壊されない』という耐性も与えますのよ。言ったでしょう、アルファを筆頭としたこの布陣こそが真の鉄壁であると! 破壊効果ひとつで容易く崩れるものではございませんわ」


「……!」


「わたくしとあなたの力の差。よくよくご理解いただけたようですし……そろそろこのファイトの終焉フィナーレへと参りましょうか。無論それは、あなたの敗北による幕引きですけれど」



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