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 空が、澄み切って虹が出ている。




 風が、柔らかく包んでくれる。








 鐘が祝福するかの様に奏て、式に参列した人たちからは温かな言葉が飛び交う。晴れ渡った今日。大きな大きな都市の教会で結婚式の最中であろう一組の新郎新婦。


 新郎は深い海の底を模した軍服風の礼服を着、黒曜石の様な前髪をかき上げ後ろに流れる様に纏め、瞳は多少つり目な碧色を滲ませたとても男らしい美形。

 新婦は真っ白なベールを頭から被っており素顔は窺えないが長い長い流れる様緩やかにウェーブを描いている黄金の髪、理想の体型をしながら純白のウエディングドレスの胸元には大粒のレッドダイヤモンドが光り輝く。



 ベールに包まれた先の唇は・・・・・








「汝、アベル・イクシリルは愛を誓うか?」


「・・・・・誓います」




「汝、シンシア・レーベンは愛を誓うか?」


「・・・・・」





 新婦の返事が無い。



 参列者達が騒つく。教皇はもう一度、新婦の返事を聞こうとすると彼女が今度はハッキリと大きな声で応えた。







「いいえ。わたくしはこの男に、愛を誓いません」







 リーンゴーンッ… リーンゴーンッ…















 新郎控え室

「クソッ!・・・・・あの女、何を考えてるっ」


 首元まで止めていたボタンを引き千切る様に乱暴に外し、ドカリと用意されていた豪華な椅子に座り長い脚を組みながらワックスで固めた髪型を掻き乱す。


「アベル・・・これからどうなるの?」


「大丈夫だ、レナ。何があっても俺は君だけを一生愛してる」


「うん・・・」


 レナと呼ばれた少女を抱き寄せ強引に唇を奪う。

 彼女も満更でもなさそうにアベルと呼ばれた新郎を抱き抱え、そのまま長めのソファに倒れ込み。




 新婦控え室

「シンシア!これは一体どういう事なんだっ」


「見たまんまですわ、お兄さま」



 黄金の髪に優男が喰ってかかる。


 理由は先程行われた新郎新婦の誓い。神の御前の前で普通は愛を誓うのだが優男の目の前にいる女性は愛を誓いませんと宣言してしまった。

 新婦はぽすりと用意された豪華な椅子に座り頭に被せられていたベールを脱ぐ。


 ふわりっーーーと、黄金の長い髪が舞いその表情はとっても楽しそうにしていた。陶磁器みたいに美しい肌、パッチリと大きく溢れそうな紫色をした瞳に、庇護欲をそそりながら。



「シンシア、この結婚の意味を分かってるのかっ」


「えぇ。えぇ勿論ですともっ、イクシリル公爵家とレーベン侯爵家の家同士為ですわよね?」


 レーベン侯爵領には魔法には欠かせないある鉱石が沢山取れる。【魔導石】と呼ばれ、これを中心に財が潤っているのだ。それに対してイクシリル公爵領は先代が事業に失敗し負債を抱え家門が無くなるところを我がレーベン家が負債を一括返済させる代わりに、公爵家に居る未だに独身の嫡男を自身の娘を嫁がせる様に要求。


 レーベン侯爵家はイクシリル公爵家が先先々代に嫁がれた王女の血筋並びに、イクシリル家の社交界・政財界での口利きが出来るだろうと目論んでの事。


 対してイクシリル公爵家は今まさに財政難。

 援助があるのは願ったり叶ったりで今直ぐにでも喉から手が出るほど、それに加えレーベン侯爵家の娘であるシンシアは絶世の美少女・魔力もピカイチ・憧れる淑女No.1。それにレーベン侯爵家も隣国の皇子の血筋を脈々と受け継いでいる。

 利害が一致した両者は直ぐさま婚約を結ぼうとイクシリル公爵家で嫡男であるアベルと次女のシンシアの顔合わせをしたのだが。



「覚えてますわよねお兄さま?あの時、あの場所であの男が何と言ったか。忘れた訳ではございませんでしょ」





 イクシリル公爵家の貴賓室

 その場にはイクシリル家のご夫妻並びに嫡男であるアベル。

 反対側にレーベン家の当主である父親と次期当主である兄、シンシアが向かい合っている場でのこと。




「言っとくが俺はお前を愛する事は無い」



 ピシリッーーーと、場の空気が一転して凍る。

 噂があるのは知っていた。ゴシップ新聞に『イクシリル公爵の嫡男、平民の女性とワンナイトラブ?』『公爵家のアベルと仲慎ましくお忍びデートする女性とは』等々。色んなゴシップ新聞に掲載されていたり社交界では噂が飛び交っていた。


(あの男があの女と一緒なのは知ってるわ・・・だって)



 シンシアは一度、死んでいるからだ。






 この場面を体験しており苦渋を味わってきたのだから。


 死ぬ前はイクシリル夫妻がなんとかアベルを説得して婚約に持って来れたのだが彼が提案してきた言葉はこの場にいた全員が固まる。



 一つ、この結婚は政略結婚である。



 一つ、妻となる者と閨は後継者をつくる事のみ。



 一つ、愛するレナとの逢瀬に口を出さない。



 他にも色々とあったがこれから妻になるであろうシンシアを侮辱に値する内容だった。前回と内容が変わらないなと冷めた目で彼らの騒ぐ姿を見ながら紅茶を飲み込む。






 ああ・・・・・あの頃の自分をぶん殴ってやりたい位に。



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