【短編】権力闘争に負けて流刑にされちゃいましたが、漂流物を拾い集めてたら人魚姫を助けてしまい筏の上に王国が完成しちゃいました!
俺はヨシュア。
つい三日程前までは、とある王国の若き伯爵として、食事も衣服も全てが何不自由ない生活と順風満帆な将来を約束されていたハズ……なのだが。
今の俺は一人、海の上に揺られていた。
しかも海に浮かび、俺が海に沈むのを防いでくれている乗り物とは立派な帆を持った船などではなく。
丸太を繋いで作られた、イカダであった。
その理由とは────
『ヨシュア・ハーティリー伯爵に申し渡す。国庫横領、要人の誘拐に国家転覆を企てた罪により、流刑とする!』
三日前に突然身柄を拘束された俺に下された判決がこれだ。
ちなみに、どの罪状にも俺は全く身に覚えがない。罪状の全てが冤罪というか、貴族らがここぞとばかりに自分らの犯した罪をなすりつけてきただけなのだが。
まあ……父が生前に周囲の貴族どもを散々敵に回してきたそのツケが、父の死によって二十歳の若さで家督を継いだ俺に巡ってきたということらしい。
ここまで酷い罪を重ねれば本来なら死刑は免れないのだが、どうやら連中も冤罪で生命を直接奪うまでの勇気は持ち合わせていなかったようで。
イカダが壊れて海の藻屑と消えるか、流される途中で水や食糧が尽きて干涸びてくれるのを願っているのだろう。
「いや、能力がなかったら死んでたなぁ、俺」
幸いにも、俺には一つ「能力」があった。
それは、僅かな材料が揃っていればそこから物質を創造するというものだった。
しかも、である。完成品を作り出すための時間は掛からずに、一瞬で出来上がるという至れり尽くせりというのだから、笑いが止まらない。
流木から木の器を作り。
海水から真水を作り。
使い終わった木の器でイカダを広げ。
流れてきたボロ切れと木で帆を建てる。
貴族として生きてきた時には、こんな能力など駆使しなくても良かったので、誰にも知られることはなかったのだが。
そう思いながら俺は、同じく海に流れていた流木から創造した釣り竿を使って魚を釣っている最中だ。
釣った魚を創造すれば、火も起こしてないのに勝手に焼き魚やスープなんかが完成する。
まったく便利な能力だ。
「創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、創造、おまけにもいっちょ創造っ……」
気がつけば。
流刑の時に渡された飲み水の入った木の樽と僅かな食糧を元手に木材や金属、食糧などを大量に創造することに成功し。
今や俺の乗ったイカダの上には雨風をしのげる立派な家が建てられ、イカダそのものも最初の面影がないくらいに拡大していた。
「これ……もっと早く『能力』に気付いてたら、馬鹿な貴族連中も何とか出来たんじゃないか?」
下手したら、金や銀を用意出来たらこの能力でいくらでも貨幣を創造出来たかもしれない、などと考えながら釣りをしていると。
「おっ、何かかかったぞ」
海に垂らしていた釣り針が引っ張られる感触がしたので、俺は竿を引っ張り上げようとしたのだが。
「……お、重っ⁉︎」
普通に魚を釣った時とは違い、竿が折れそうな程にしなる。
このままじゃ竿が折れる、とは思ったが。
それ以上に怖いのは俺が海に引きずりこまれることだ。
能力はあっても俺自身は普通の人間だ。こんな大物とマトモに競り合ったら海に引きずり込まれるのは間違いない。
最悪、竿は折れてもまだ創造で作り直せばよいが、俺という人間はやり直しがきかないのだ。
「う……うおおおおおおおおおおおおおおお!」
雄叫びを上げて釣り竿を精一杯引き上げる。
このまま竿を捨てるのもアリかと思ったが、それでも一度釣り上げた獲物を諦めることが出来なかったのは。
俺もまた、欲深い貴族だったということか。
だが、俺の思惑とは見当は外れ。
海から盛大に水飛沫を上げて、糸に繋がる「何か」がイカダの上に打ち上げられる。
「お、おいっ……コイツは人間、いや……この娘は、人魚?」
それは、腰から下が魚のそれで。
上半身は人間の、それも極上の美女であった。
海水で濡れた髪は蒼く、肌は透き通るような白さで、貴族令嬢にもここまでの美貌の持ち主など見たこともない、それ程の美しい人魚であった。
「……う……ううん……」
どうやらその人魚姫は気を失っていたようで、うめき声をあげながら目を覚ます様子を見せる。
海には人魚が住んでいて。
海の底には人魚の国があると噂されていたが。
俺は人魚を見たのは初めてだったりする。
目を覚ましたのなら、俺が知っている噂について是非とも聞いてみたいものだが。
「あ、あれ?……こ、ここは、海の中じゃない?」
「ここは俺が乗るイカダの上だ、人魚」
「え? あ、あなた、に、にに人間っっ!」
おっと、目を覚ました途端に尻尾をビタンビタンと動かして海へと戻ろうとする人魚の女だったが。
何故か周囲をキョロキョロとして、一向に海に戻ろうとする気配は見られなかった。
「どうした? 逃げるんじゃないのか?」
「え……えっと、一応、助けてくれてありがとう……礼を言わせて貰うわ」
「助けた? い、いや……俺は食糧を確保したくて釣りをしてたらお前が釣れただけなんだが──」
人魚の女とこんな会話を二、三交わしていたところに、突然イカダの周囲を取り囲むように水飛沫を上げて現れたのは男の人魚だった。
それもどうやら合計で五体ほど。
「う、美しくない……」
何故に女の場合は腰から上が人間の女性、下が魚とキレイに分かれているのに。男の場合は全身に鱗が生えて人間と魚が混じった感じになるのは不思議なのだが。
その美しくない男の人魚らは、手に持った槍をこちらへと突きつけてくると。
「ニンゲン、ソノオンナヲコチラヘワタセ」
「…………」
人魚側の事情は俺には一切わからないものの。
知らずに巻き込まれた挙げ句に槍先を突きつけられ、一方的な言い分をまくし立てる男人魚の態度に俺はいたく腹が立ってきたが。
流刑された罪人である俺は全くの丸腰であり。抵抗しようにも武器を持った相手に挑むのは勇敢ではなく蛮勇というものだ。
──何か、何か武器になるようなものがあれば。
ふと、流れで俺が庇うことになりそうな女人魚を観察してみると。
綺麗な金属で出来た首飾りをしていたではないか。
だから何だ、と言うなかれ。
俺の創造の能力さえあれば、こんな首飾り程度の金属からでも、立派な武器を作り出すことが可能性なハズだ。
「なあ、あんた。アイツらから助けて欲しいか?」
「え、え……ええ。出来ることなら、両親の仇を討つまで私は生きていたいの」
「なら交渉は成立だ。ちょっとこの首飾りを貰うぞ」
「え? ちょ、ちょっと!」
助けて欲しい、という希望を飲むのだから。
そちらも相応の代償を支払って貰わないとな。
まさにギブアンドテイク、というやつだ。
「────創造!」
俺は女人魚の首に掛けられていた首飾りへと触れると、能力を発動する。
すると、俺の想定通りに首飾りは一本のまばゆい輝きを放つ剣へと形状を変えていく。
「よーし、よしよし、これで武器は手に入ったぞ! いいかお前らっ! この剣で斬られたくなかったら大人しくこの女人魚を諦めて海に帰りなっ!」
俺は男人魚の槍先を払おうと、完成したまばゆい光を放つ剣を軽く振るっただけなのだったが。
剣が槍先に触れた途端に、槍先がキレイに切断されてイカダの上に転がり落ちる。
「イ……イイキニナルナヨ、ニンゲンッ!」
それが戦線布告になったのだろう。
槍の先を切られた男人魚だけでなく、周囲の男人魚が槍を構えて臨戦体勢を取るが。
「──マテッッ、オマエタチ!」
ただ一人、少し後ろに下がっていた男人魚が全員に攻撃を止めるよう号令をかけたのだ。
すると、攻撃を止めた男人魚が動揺する他の男人魚を尻目に、俺の前へと進んでくると。
意外にも、うやうやしく頭を下げてきたのだ。
「な、お、おい! ど……どういうつもりだっ?」
俺は困惑するしかなかった。
釣り上げたと思った女人魚から助けを請われ。
男人魚たちに槍を突きつけられたかと思えば。
今、こうして頭を下げられているのだから。
「どうなってるんだ一体、説明してく──」
何故、男人魚が頭を下げているのか。その理由を庇っていた女人魚に聞こうとするが。
その女人魚もまた、頭を下げているのだ。
「ソレハ……オリハルコンノセイケン」
「あなた様が持つその剣は、我々人魚族を統べる者にしか持てないとされているオリハルコンの聖剣なのです」
「オリハルコンの、剣だって?」
オリハルコンとはその硬度、希少さと光り輝く美しさから、王国中でも拳大ほどしかない位の貴重で高価な金属であり。
俺も実際に見たのは初めてだったりする。
そんな希少な金属の剣を、今俺は握っていたりするのだと聞かされ。
「な、なあ人魚のキミ? も、もしかして……キミの首飾りは、オリハルコン製だったのかな?」
「え、ええ……母の形見として代々私の家に引き継がれていたモノでしたが……」
あ、納得。
「母はいつも言っていました、いずれこの首飾りが私を聖剣を持つ勇者の元へと導くだろう、と……ああ! 母の言葉は本当だったのですね!」
「ワレラモ、ユウシャニヤリヲムケルワケニハイカヌ……コウサンダ」
『ユウシャサマ! ワレラモハイカニ!』
────こうして。
オリハルコンの聖剣(と、人魚たちは呼んでいたので)を持った俺の元へと十人、二十人と大勢の人魚が集まってくると。
イカダで生活していた俺は、人魚たちの国から数々の物資を運び入れてくれたおかげで。創造を駆使して、伯爵だった頃よりも何不自由ない暮らしとなっていたのだ。
「さすがです、勇者ヨシュア様」
俺の隣には、あの日魚と間違えて釣り上げた女人魚のカーシャがいた。
どうやら本当に人魚族の姫だったカーシャを俺が隣に置いたことで、オリハルコンの聖剣(くどいようだが偽物)と合わせて人魚族の勇者となってしまったのだ。
俺を冤罪で流刑にした王国にはきっちりと復讐するために、王国以外の周囲の国と交流を持って希少な金属や物資を売っていき。
王国が使う商船は人魚たちに襲撃させてやった。
「まあ、こんな立場ってのも悪くはないかもな」
イカダで出来た俺の王国。
ここから、俺の人生は新しく始まるんだ。
突発的にこの話を書きたくなった理由というのが。
某YouTubeでの某イカダ漂流ゲームを視聴したからに他なりません。
あれ、かなりの時間泥棒です(笑)