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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
最終章 因縁断ち編
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最終話 勇者 と 女の子

 勝利の代償は予想以上に大きかった。怪物の討伐に湧き立つ最中、それを達成した一行は大わらわで施療院へ搬送され、手を尽くした救命治療を受けることになる。


 とくにアロンソの損傷はひどいものだった。全身の骨が砕け、筋肉が寸断され、一昼夜おさまることのない高熱にさいなまれ、栓を抜いた湯船のような勢いで臓器と頭の中が衰弱していく。


 危篤状態を脱した後、医師からよく生き残れたものだと驚かれた。


 その後も院内の一室に押しこめられ、何日も静養に専念させられる。


 面会謝絶が解けるや、仲間たちが見舞いに来てくれた。


 神童の後輩がいつもの調子でからかってくる。目元がやけに腫れていたので、それを指摘し逆におちょくってやった。


 錬金術師の先輩が入院中の退屈しのぎに、と言って学術書を手渡してくる。療養中の身には正直、難解すぎる内容であったが、彼女のひたむきさに応えるべく、かならず読んで感想を話し合おうと約束した。


 幼馴染に断りなく抱きしめられる。心の離れていた時間を取り戻すように。あまりに長く触れ合っていたものだから体温が移り、のぼせてしまった。


 無理矢理、引きはがされた幼馴染が後輩と口論を始める。先輩がそれを止めようとアタフタしていた。


 アロンソは守りぬいた陽だまりに手をかざす。これからも続いていくのが夢のようで胸が躍った。体の重さなど気にせず小躍りしたくなる。

 みんなで何ができるだろう? どんな想いを持ち合えるだろうか?


 野犬のように威嚇し合いはじめた幼馴染と後輩をたしなめる。


 すると、ふたりからどちらの肩を持つのかと詰め寄られたので、好きでもない・・・・・・男のことで争うなと素直な思いを口にした。


 なぜか先輩をふくむ全員からヘンな目で睨まれ、困惑してしまう。自分などが異性に好意を持たれるはずはないのに。


 そのうち仲間たちにため息をつかれてしまった。


 アロンソが退院した頃には市内の復興も終わっていた。


 教官たちから規律違反の件などで尋問という名の叱責を受ける。


 その甲斐もあってパーティの設立を正式に許された。条件だったメンバーの頭数をそろえることができたし、なにより【十二魔侯】の一角を降すという百数十年ぶりの快挙を成し遂げられては首を縦に振らざるをえまい。


 そしてようやく――

「ご無沙汰しております、師匠」


 もろもろの報告のため、彼女・・のもとを訪れた。


 出会いがしら彼女が硬直してしまう。目をゴシゴシとこするや、ハッとさせられるような、とびきりの笑顔を見せてくれた。


 アロンソは春華のほころびを堪能し、かつてない充足感に包まれる。

 そもそもどうして幼き日のアロンソが冒険ゴッコのとりこになったのか。


(――「んー、でもさ。あのおとぎ話、なんかオチがシャクゼンとしないっつーか」――)


 昔、読み聞かされた伝承の結末に納得がいかなかったからだ。

 みんなのために戦ったというのに、ひとりきりになってしまった。世界を救った果ての報酬があれでは報われない。


 そんな彼女・・を救えるほど強くなりたかった。手を差し伸べ、ひとりではないことを示したかった。


 彼女がこんな場所に囚われている経緯など不明な点はあるけれど、これだけは言える。


「俺は憧憬あなたに会えてよかった……っ!」


          ★ ★ ★


 昔々 あるところに 勇者が うまれました。 

 勇者は とってもやさしい 心をもち ゆうかんで 強いひとでした。


 みんなが 勇者を たよりに しました。


 勇者は たちまち みんなを 笑顔にしていきました。


 勇者の いるところには みんなが 集まり いつも にぎやかでした。


 みんなの輪を にらみつけるものが ひとりいました。わるいわるい魔王です。

 魔王が 勇者に嫉妬し さまざまなイヤがらせで 勇者を こまらせました。


 けれども 勇者は まけません。

 どんなに 傷付こうとも 魔王の 企みをくじき ついには 魔王を やっつけます。


 魔王が さいごに 魔のタネを バラまきました。

 悪のハナを ふたたび 芽吹かせるための イジワルです。


 けれども 勇者は まけません。

 みんなが いなくなってしまっても なんにもない荒野で 神々に いのりを ささげ みずからを 聖なるタネ へと変えたのです。


 たましいだけに なってしまった勇者ですが 無数のタネが 世界中に ひろがっていくのを みとどけてニッコリわらいました。


 きっと勇者は いまも みんなを 応援してくれているのでしょう。

 もうどこでもない 場所から。


 おしまいおしまい


          ★ ★ ★


 まだどこでもない 場所に ひとりぼっちの 女の子が いました。

 さびしくてもヘッチャラです。女の子は とっても強いのです。


 ある日 女の子は ひとりでは なくなりました。

 やせっぽっちの 男の子が 迷いこんできたからです。


 しらない場所 帰りかたも わかりません。男の子が 落ちこんでしまいました。


 女の子は みかねて 男の子を 助けてあげました。


 はげまされ 教えをうけ 男の子が ドンドン強くなっていきます。

 そして 成長した 男の子が お家に 帰ってしまいました。 


 女の子は またひとりきり。

 悲しくなんかありません。女の子は ひとではなく ひと振りの 剣なのです。


 しばらくすると 男の子が またやってきました。女の子に 戦いかたを 教えてほしいと 懇願します。


 女の子は しかたなく 男の子を 指導してあげました。なぜか わるい気は しません。


 それからも ふたりは いっしょに 鍛錬に はげみました。

 男の子が ときどき やってきては お家に 帰っていきます。 


 そのたび 女の子は こまってしまいました。男の子 の笑顔を みていると へいきのままでは いられなくなるからです。


 ついに 女の子は 男の子のことが こわくなり 突き放してしまいました。


 もうくるな と脅され 男の子が くるしそうに お家に 帰っていきます。


 ガラスのはへんが 女の子の胸に つきささりました。

 みずからの からだをイジメるように 稽古をしても じゃまなケモノを 退治しても 痛みは きえてくれません。

 女の子は ひとしれず なきました。


 やがて なみだが 枯れはてたころ 男の子が こりずにやってきました。


 女の子は 男の子を いためつけました。自分を キラいになってくれと 心のなかで絶叫しながら。


 しかし どんなに 傷付こうとも 男の子が 逃げだすことは ありません。


 とうとう 女の子は 根負け。男の子を 癒し 強くだきしめます。


 こうして ふたりは おともだちに なりました。

 ときにはケンカもするけれど すぐに 仲直り。

 ふたりの絆は どんな剣でも きれないのです。


 めでたしめでたし

これにて完結!

道化が英雄への道を歩み出すまでの物語――最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

執筆のブランクがあり、書きあげられるか一抹の不安がありましたが、

終わってみれば、今できるすべてを注ぎ込めた自負があります。


どうかお気軽に感想を書き込んでいただければ。

作中の質問などあれば、返答させていただきます!

具体的にここがよかったなどあれば教えてください。

その熱い思いを糧に更なる新作を書き上げます!

逆に気になった点もよければお願いします。

改稿の参考にします!


この物語が片隅にでも貴方の心に残ったのあれば、これに勝る喜びはありません!


それでは、失礼いたします!

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