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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
最終章 因縁断ち編
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第8話 原初の誓い

 アロンソは充溢する力を解き放つ。【剣舞手】へのクラスアップを果たした身体能力、霊力はさきほどまでの比ではない。


 ナベルドリクが闇の槍を繰り出す。


 アロンソはその刺突を先読み、腰を深く落とし滑走スライディングの体勢に移行していた。ナベルドリクの股をくぐり抜けざま【神器ウノマル】を水平に振るい、足の腱を切り裂いた。


 ナベルドリクの長身が傾ぐ。


 間髪入れず、アロンソは振り返りながら上空に跳躍する。背を向けたままのナベルドリクへとウノマルを振りおろす。


「運の型、中伝――【連峰弾閃れんぽうだんせん】!」


 飛んでは伏せ、切り上げざまに飛ぶ――激しく上下する体さばきを駆使し、こちらに向き直ったナベルドリクの攻撃を避け、その身に斬痕を刻みつけた。


(――「よいか弟子よ。タチは押すのではなく、引いて切る……お主の生きる時代にタチという武器の痕跡は残されておらんようだし、参考になるかはあずかり知らぬことだがの」――)


 アロンソはホクシンの教えを忠実に実践していく。

 【神器】の特性として重心の位置、重さ、刀身の長さがこれ以上なく手に馴染む。腕の延長のようにすら感じた。


「小癪! いつまでも好きにやらせはせん!」


 ナベルドリクが闇の楯を具現化、形状の丸みを活かしてウノマルを巧みに弾いパリィした。


 アロンソは腕を跳ねあげられた勢いのまま飛びすさる。


「まだまだ! こんなものじゃないよ!」


 ドルシネアが空隙に飛び込んでナベルドリクへ突撃槍を突き出した。


 ナベルドリクがドルシネアの突きをもパリィしてのける。


「ハッ、こんなもの・・・・・が、か?」


 その嘲りへ応えるようにドルシネアが突撃槍を引き戻し、姿勢を半身に入れ替スイッチした。今度は大盾を肩の位置で構え、強烈な突進シールドバッシュを見舞う。


 ナベルドリクがそれを受け止め――きれずにのけぞった。


「いきましょう、サンチャさん。合わせてください!」

「ウェーイ! ド派手にブチかまそーぜ!」


 大楯に視界をふさがれている内、遠間からイザベルとサンチャがナベルドリクへ砲撃と音波を放った。


 左右の挟み撃ちになすすべなく、ナベルドリクの身体が盛大に四散する。


「なるほど。さきほどとは別物ではないか……はかない定命の身でありながら――だからこそ、短期間で劇的に化けてみせる」


 ナベルドリクの肉片が一ヶ所で融合し、粘土のように形を成していく。急速再生しながら、しみじみと呟いた。


 躊躇や逡巡の消えた今、アロンソたちの連携は真価を発揮していた。


「く、くくクハハアアアァァァ――ッ! いいぞキサマら! じつに素晴らしい! 殺され・・・甲斐がある!」


 それが功を奏してか、ナベルドリクが爆発的な哄笑を上げる。


「黒魔励起――【壊力濫身】!」


 新たな魔術を発動させた。基本的に魔族は黒魔術による身体強化や硬化、回復を不得手とする。

 なぜならば、あくまで天然自然の延長として機能する法術と違い、本来の性質をゆがめた形で疑似的な法術として発動するからだ。


 たとえると、キズを癒そうとれば腫瘍や異形が肉体に発現してしまう。


 よって身体強化の黒魔術は己が身すら破壊しながらのものとなる。

 しかしナベルドリクにその心配は無用。壊れた端から再生するのだから。


「こ、コイツ! あんだけ大暴れしといて! 今まで自分に強化バフかけてなかったワケ!?」

「信じがたいが、そのようだ――みんな、気を引き締めてくれ!」


 アロンソたちはナベルドリクの本気を引き出したにすぎない。


「どうか! どうか、こいねがう! 一瞬で終わってくれるなよ? このたかぶりを持て余してしまうからなァ――ッ!」


 突撃を敢行するナベルドリクは極小の嵐に等しかった。立ち塞がるすべてを薙ぎ払っていく。

 厄介なのは肉体の損壊に頓着しないところだ。切り裂かれようが貫かれようが砕かれようが撃たれようが、苦しそうなそぶりも見せず反撃してくる。


 それでもアロンソたちは瓦解していない。振り回されながらも誰ひとり斃れることなく、喰らいつけている――ッ!


「かつてオレは侵しがたく尊いありようを垣間見た」


 なにかが琴線に触れたのか、ナベルドリクが唐突に語り出した。


その女・・・は大剣を担いだ古強者だった。オレと戦い、確実に死に近づいていきながらも、かくと笑っていたよ。守るべき者たちを背に庇い」


 それは不死身の正体はじまりであり、


「致命傷を受けた女が振り返りながら『さよなら』と口にした。じつに満足げな亡骸を見たときオレは明確に変わった」


 根源に刻まれた衝動ちかいであった。


「それまでのオレは幼稚で愚かな殺戮欲求とがむしゃらな死への忌避感に突き動かされていた――そう、死はすべての終わりだ。死ねば、それまでのすべてが水泡に帰す。なにより自分自身の生存に注力すべき……だのに、あの女はなぜ死の間際に安堵していたのか? オレから逃げ延びた者たちに希望を託すことができたのか?」


 ナベルドリクが熱をこめた眼差しをアロンソたちに注ぐ。


「オレは是が非でもその理由を実感したいと思った。それこそ生存本能など振り切ってしまうほどに」


 もはや中央広場に原型は残っていない――どころか地形すら変化していた。


「戦った。戦って戦って……いまだ無様にも生き残っている。死に場所はここではないと叫び続けてきた! まだ死ねない! まだオレの胸には愛も勇気も芽生えていないのだからと!

 いたずらに生を貪り、無意味に死を振りまいてきた! だれより死を望んでいるくせに、生に執着している……ひどい矛盾だろう? 笑ってくれ」


 アロンソはそれを受け、血反吐を吐き捨てる。死にたがりの不死など始末に負えない。言語を解するほどの自我と知能を獲得しようが、その思考はどこまでも魔的だ。決して相容れない。


「いっそ哀れだが……お前の願いは叶わない。なにも手に入れられないままここで朽ち果てろ――ッ!」

「見事! キサマの胸に宿る愛と勇気、しかと拝ませてもらったぞ! そんなキサマと死闘を演じた果て! オレはついに望みへ届くやもしれん!」

「だから、その方法自体をはき違えているんだよッ!」


 ナベルドリクが欲しているモノは、だれかと手を取り合い、おだやかに育むもの。戦いなどという無残の所業から生じるモノでは断じてない!

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