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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
最終章 因縁断ち編
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第4話 対峙

 全身キズだらけになりながらも、アロンソはついにホクシンの眼前に到着した。すでに斬撃の嵐がやんでいる。


「たのむから……拙者の心に踏み入るな……」


 ホクシンが懇願するようにアロンソを見上げた。


「拙者はお主とは違う! これ以上、恥をかかせてくれるな!」


 アロンソは有無を言わせずホクシンを抱きしめた。サンチャとイザベルに与えてもらった暖気をそのまま届けるべく。


「貴方の過去になにがあったのかは存じません。その上であえて知った風な口をきかせていただきます――貴方は暴力装置なんかじゃありません。そもそも、本当の人でなしは自分のことを人でなしとは思わないでしょう」


 テオルスなどがいい例だ。あの男は最後まで自分が正しいと思ったまま逝った。後ろめたさなどカケラも抱いていなかったろう。

 それはそれで仕方ない。人間にはどうしようもない部分があり、救えないこともある。


 だからといって、好ましいと感じる人まで否定するべきではない。むしろ無情さの中で、ひときわ輝いている。

 そういう部分を大事にしたい。そういう人を尊重していきたいのだ。


「だれがなんと言おうと、貴方は俺の尊敬する師匠です。たとえご自身にだって否定させません!」


 アロンソはひと息に言い終え、ホクシンの反応を待つ。


「ああ……そうか」


 ホクシンがアロンソの胸板に顔を預けながらポツリと呟いた。


「拙者にもできた・・・のだな……だれかと育むことが……拙者なぞのことを大切に想うてくれる者が……」


 ホクシンに抱きしめ返され、アロンソはみずからの勝利・・を確信する――直後、全身に心地よい波動が浸透していくのを感じた。


「すまぬ! ほんにすまんのぅ……っ! 痛かったであろう?」


 無数の裂傷がまたたく間に影も形もなく埋められていく。ホクシンが無詠唱の回復術で癒してくれたのだろう。

 剣技のみならず、これほどの術までも行使できるとは。彼女の正体がそう・・であるならば当然か。伝え聞く・・・・通り、万能の天才だ。


「は、ははは……やっぱり師匠はすごいな」

「そんなことはない! 拙者は臆病な卑怯者だっ! 怖かった、お主に忌避されることが! みじめだった、お主を信じてやれない拙者自身の性根の浅ましさが!」


 アロンソは黙ってホクシンの涙を受け止めた。


          ★ ★ ★


 ホクシンが落ち着いてきたのを見計らい、アロンソはこの世界に足を運んだ経緯――学術都市の現状について打ち明けた。なにか手はないかと尋ねる。


「上級魔族、それも不死を実現するたぐいの【宿業】持ちか……」


 ホクシンがなやましげに言った。


「現状、お主がそやつを滅ぼすことは非常に困難だろう――が、万にひとつの勝利をつかむ方法くらいならばあるぞ」

「本当ですか!?」


 アロンソは食い気味に聞き返した。


「因果の行方を読んで攻撃をかわすこと。因果を断ち切って攻撃をそらすこと。それらは【天眼】を用いた『守り』。それ単体で致命打を与えることはできぬ――そこで今から【天眼】の『攻め』を授けよう」


          ★ ★ ★


 これまで以上に、修行に打ちこんでいる内、制限時間が迫ってしまう。


 ホクシン曰く、アロンソがふたつの世界を行き来できているのは、アロンソと故郷の世界を繋ぐ因果の糸が繋がっているからであり、この世界に長居すると縁が切断されて帰れなくなってしまうのだという。


 アロンソはホクシンに別れの挨拶を告げる。


「行って参ります、師匠!」

「うむ! 勝ってこい! また(・・)、その辛気臭いツラを見せよ! 負けたら承知せぬからな!」


 声援を背に元いた世界へ帰還した。間違えようはずもない濃密な魔力をたどって発信源――市内の中央広場に躍り出る。


 すっかり荒廃した空間の中心。サンチャとイザベル、ドルシネアが奮戦している。みな一様にズタボロのありさまだった。


「ロニーパイセン! ……もう、待たせすぎだしっ!」

「お帰りなさい! ちゃんと役目は果たしておきましたよ!」


 仲間たちがこちらを振り向き、歓喜するように叫んだ。サンチャなどは涙ぐんでいる。


「ロニー……どうして……」


 ドルシネアが不可解そうに呟いた。どんな表情をしているかは兜に隔てられて判然としない。


 彼女らの正面、打倒すべき怨敵ナベルドリクがちょうどドルシネアの突撃をはねのけたところだった。


 長く分厚く伸びて尖った鼻筋と顎。落ち窪んだ眼窩に収まる両の瞳は白く濁っており、なにも映しだすことなく、茫洋とした虚無がわだかまっている。

 ツヤのない乾ききった獣毛に覆われる、その犬の頭部は剥製を思わせた。

 まぶたの上から生えた一対の巻き角が天を衝くようにそそり立っている。


 首から下は二腕二足で、人間のそれに近い。鎖帷子を身に纏い、毛皮の外套を羽織った姿は海賊・蛮族を連想させた。


 身に纏う鬼気の凄まじさたるや。間近にしただけで、暗黒の太陽のごとく焼かれる錯覚を抱いた。


「キサマ、あの時の小僧だな。見違えたものだ。戦士の顔をしている」


 ナベルドリクが手を止め、アロンソに向き直った。


「……俺なんかのことを覚えていたのか」

「かつてオレは言ったな。あの男の想いを無下にするな、と……どうだ、こうしてオレと干戈をまじえる覚悟のほどは?」


 アロンソは法術剣を抜き放つ。


「貴様なんかに指摘されるまでもない! だからここまで来た!」

「意気やよし。キサマの刃、見事オレの命運に届かせてみせろ!」

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