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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
最終章 因縁断ち編
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第2話 双方の戦い ※主人公以外の視点のエピソードも挿入されております

 アロンソは膝に手を当て、一気に腰を浮かせる。


「ふたりとも、よく聞いてほしい。俺はこの危難に立ち向かいたい」


 遠くの騒乱をよそに、アロンソの声は室内によく通った。


「あの魔族を討伐――できるかはさすがに分からないが、とにかく自分にできることをやりたい。市民の避難誘導なり前線に立つ者たちの補佐なり……一緒に来てくれるか?」

「ぐ、グモンだし! ひとりで行かせるワケねージャン! ……ぶっちゃけ、ケツまくりたくてしかたねーけど!」

「もちろんです。あの時・・・から私の命運は貴方たちと共にある……そう決めました」


 ふたりが間髪入れず答えを返してくれた。まっすぐアロンソの目を見返す姿のなんと清らかなことか。


 アロンソは瞑目し、みずからの幸運を噛み締める。いい仲間を持った。

 彼女らにもらった勇気を胸に。今ならばもう一度師匠ホクシンと対峙できるだろう。


「心強い! そうとなれば善は急げだ……すまないが、ふたりは先に向かっておいてほしい。俺は寄り道をしていく。必ず、すぐに駆けつけるから!」


 ホクシン曰く、あの世界はこの世界の時の流れと切り離されているらしい。つまりあの世界ですごした分の時間がこの世界に持ち越されることはない。


 そんなアロンソの事情を知らないイザベルが反駁する。


「……どういうことでしょう? なにか大事な御用でしたら私たちも――」

「ベルっちパイセン、いこ」


 サンチャがイザベルの手を引いて走り出した。


「で、ですが――」

「いいからいいから」


 去り際、いたずらっぽく片目をつぶる。


「待ってっから! なるはやで頼むし!」


 ふたりの姿が角に消えるのを見届け、アロンソもまた駆ける。目的地は保管庫、そこにおさめられた転移の魔術祭具。


          ★ ★ ★


 ――ナベルドリクは学術都市の外壁を一撃で消し飛ばし、市内に堂々と足を踏み入れた。多重にこめられた硬化の法術など薄紙にもなりはしない。

 逃げ惑う雑輩ざっぱいになど目もくれず、襲いかかってくる気骨のある者だけを相手していく。


 しかし――

「なんと惰弱な。手慰みにもならん」


 どいつもこいつも腕のひと振りで絶命していく。


 仲間の死を目の当たりにして、わずかばかりの虚勢も消え失せたのか、女子供のようにへたり込む戦士が続出する。


 結果として、その進撃を阻む者がいなくなった。つまらん、と鼻を鳴らす。


「ナベルドリク!」


 横合いから敵意に満ちた声を飛ばされ、ナベルドリクは喜々と足を止めた。


 金色の長髪をなびかせる女丈夫がすっくと屹立し、射殺さんばかりナベルドリクを睥睨する。


「あたしのこと、覚えてる?」


 ナベルドリクは女丈夫を凝視するや、ニタリと口端を吊り上げる。


「キサマは……あの時の小娘か。よく覚えている。あの男・・・は強かった。あれほど追い詰められた経験は片手で数えられるほどしかない。あの男ならばあるいは・・・・と期待した――が、オレは今もこうして無様に生き長らえている」


 女丈夫が下唇を噛み、今にも噛みつかんばかり前のめりになった。


「キサマがオレの望みを叶えてくれるのか?」

「あなたの事情なんて興味ない。ただ、死んで。無意味に。無価値に。

 ここであなたを終わらせる――それだけが、あたしがロシナンテさんにできる唯一の贖罪だから!」


 女丈夫が心地よい殺気を放ちながら【神器】を具現化する。板金鎧に身を固め、大盾を構え、突撃槍をふりかざした。


「よい気当たりだ――さあ死力を尽くし、かかってくるがいい!」


 ナベルドリクは両腕を広げ、女騎士の突撃を待ち受けた――。


          ★ ★ ★


「性懲りも無く、という言葉がお主ほど似合う者もおらんの? 忠告はしておったよなあ?」


 再会したホクシンの反応は苛烈きわまるものだった。御佩みはかせる得物タチを抜き放ち、アロンソへと突きつける。


「わずかばかりの月日を共にしたとて、手心を加えることなぞない。なぜなら拙者は度し難いまでに人でなし(・・・・)なのだから」


 上級魔族すら霞むほどの威圧感。アロンソは息もまともに出来なくなる。


 はなはだ思い違いをしていた。尋常ならざる剣士であることは承知していたが、ホクシンから強者の気配を感じたことはなかった。

 だからこそ時に気安く接することができた。


 しかしコレ・・はそんな生易しい存在モノではない。

 あまりに巨大すぎて気付けなかっただけだ。山中にいるものが、その山の全景を把握できないのと同じ。

 終焉を体現するかのごとく天地を震撼せしめる威容。立ち向かうと思うことすらおこがましい。大山鳴動すればネズミなど怯えることしかできない。


 それでも――

「ご指導ご鞭撻、たまわります」


 アロンソは意を決し、交差させるよう法術剣の切っ先をホクシンに向ける。


 ホクシンが爛々と目を輝かせる。


「よかろうさ、死出の手向けをくれてやる。不肖の弟子に引導を渡してやるのも師の責務か」


 自嘲するように片頬を吊り上げた。


「いや、そもそも拙者にその資格はなかった。できぬことに手を伸ばしたツケを払わねばならないというだけの話、か」

視点がコロコロ切り替わります。

読みにくかったら申し訳ない。

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