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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
第3章 錬装重兵の受難編
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第7話 約束

 身を清めた一行は繁華区画内をブラブラ散策していた。


「――お、このブランド。新作入荷してんジャン」


 ときおり目についた店に立ち寄る。


 サンチャが喜色満面で服飾品を物色していく。


「この店、質がいいわりに値段がお手ごろだから重宝してんだよねー」


 ふと、ニシシといたずらげな笑みを浮かべた。


「ベルっちパイセン! ちっと来て! どーせだからウチがコーディネートしてあげるし!」


 手招きされたイザベルが戸惑いを声に表す。


「で、ですが……私にオシャレは似合いませんし、持ち合わせが――」

「ダイジョブダイジョブ! ロニーパイセンボンボンがぜんぶ出してくれるってさ!」

「簡単に言ってくれるな……実家うちは放任主義だが、甘くはない。自由に使える金銭は限られて――」

 アロンソはイザベルを一瞥すると、ひとつ頷く。

「――おりますが、先輩であれば構いません。どうかサンチャの口車に乗せられてあげてくださいませんか?」


 イザベルが身を縮こませる。


「お、マジで!? じゃウチはコレとソレを――」

「お前はダメだ」


 アロンソは流し目を向けてくるサンチャをバッサリ切り捨てた。


「ブーブーそんなんエコひいきじゃんか! ――ま、いいや。ほらベルっちパイセン!」


 サンチャがイザベルを店の奥にグイグイ引っ張っていき、衝立の用意された試着ブースで人形のように着せ替えはじめる。


 アロンソが手持ち無沙汰に待ちぼうけることしばし。


「――うし! これでキマりっしょ!」


 サンチャたちが戻ってきた。


外国クレスウェルで流行ってるファッションらしいよー。我ながら自分のセンスが怖いわー」


 無理矢理アロンソの前に押し出されたイザベルが肩身を狭くしている。


「あうぅ……お見苦しいものを。申し訳ありません……」


 謙遜が嫌味に感じるほど美麗なドレス姿だった。コルセットなど不要な胴体の下からスカートがひだをゆったり伸ばしていた。頭髪をおさえるボンネット、刺繍の施されたレースの手袋、編み上げブーツ。

 全体的に落ち着いた色調だが、首元に巻かれた派手なスカーフがほどよいアクセントになっている。隠しきれない隠しきれない高貴さがにじんでいた。


「いいえ、とてもよく似合ってらっしゃいますよ」


 アロンソは感嘆の吐息をついた。


          ★ ★ ★


 一行は束の間のひとときを存分に楽しんだ。急き立てられるように。


 それも終わりを迎えつつある。


「いまだ、すこしソワソワしますが……とっても楽しかったです!」


 カフェテリアの一角、イザベルがティーカップを傾けていた。ドレスを身に纏って熱に浮かされたように喋る。


「はじめての体験ばかりで目に映るすべてが色鮮やかでした!」


 対面に座るアロンソは相好を崩す。


「ご迷惑でなかったのであれば、なによりです」

「ありがとうございました! この思い出は生涯忘れません!」


 こんなもの一度といわずいくらでも、と口に出しかけてこらえる。


「……先輩、もしよければまた・・俺たちにも手伝わせていただけないでしょうか?」

 代わりにそんな提案を切り出した。

「お、イイじゃんイイじゃん! ウチらにはまだまだジッセキが必要だし、足手まといになんないのはショーメーできたっしょ?」


 サンチャが隣の席のイザベルに肩を回した。


 期待の眼差しが注がれる先、イザベルが逡巡のそぶりを見せる。


「お気持ちはありがたいのですが……お望みの実績を築くことができるか保証できませんし、いつまでも・・・・・という訳にもいきません。おふたりを巻き込む訳には――」

「構いません、とりあえずやってみなければ始まりませんから」


 アロンソは平然を装って返した。もとより実績など口実に過ぎない。


「そーそー。ウチらってばジンボーないからさー。ベルっちパイセンしか頼れるヒトいないんよ」


 イザベルがいったん目を伏せる。


「……わかり、ました。もう一度だけ・・お願いできますか?」


 目を開けると同時、首を縦に振ってくれた。


 アロンソは心中で安堵する。これでイザベルとの縁が切れずに済んだと。たとえ先延ばしにすぎないとしても――。

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