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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
第3章 錬装重兵の受難編
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第1話 イザベル

「そんじゃ行くよ?」

「ああ、いつでもどうぞ」


 人気のない校舎裏の空き地にサンチャとアロンソの声が大きく響いた。


 サンチャが【神器】を具現化し、激しい激情を音色に乗せていく。


 アロンソは自分に向けて放たれる赤い糸を観察し、破砕音波の軌道を読みきって避けていく。


 サンチャが目を丸くする。


「マヂで見抜かれてんジャン!? 攻撃の気配も行方も隠せるのが音波法術の利点だってのに! ズルすぎだし!」


 くやしげに音波を差し向け続ける。当初は小規模低火力だったが、次第にエスカレートしていき大規模高火力に引き上げていった。


 勢い任せに校舎の壁を粉砕されてはたまらない。アロンソは殺人音波とすれ違いざま、それとサンチャを繋ぐ赤い糸――術者と発動した法術のパスを断ち切る。


 そもそも法術が発動しなかったという結果になり、殺人音波が霧散した。


 アロンソは声を荒げる。


「バカ! 殺す気か!」

「だって! パイセンがヒョイヒョイ躱すから! しかもイマのナニ!? モンドームヨーでかき消されたんだけど!? 法術師ウチらの天敵ジャン!」


 サンチャが唇を尖らせる。


「それがパイセンの力……テンゲン、だっけ?」


 サンチャを仲間に加えてから数日が経過した。アロンソはサンチャとともに早朝の鍛錬をこなし連携を磨くよう努めるのが日課になりつつあった。


 その最中、サンチャに問われた。急激に成長できた理由について。

 そこでアロンソは【天眼】について打ち明けた。肝心な部分――あの世界のことやホクシンとの出会いに関して伏せたまま。


 サンチャが聞いたこともない力の実在をいぶかしがり、実演してみせろと宣ったので、こうして法術のマトになっていたという次第である。


「因果そのものを見る。こうして目の当たりにしても信じらんねーし。うさんクサいつーか……新興宗教の教祖サマが謳いモンクにしてそうじゃね?」

「…………」


 サンチャの身もフタもない感想にアロンソは閉口した。


「【天職】の真価がそういうモンだとして……いったいナニがあったらジブンにそんな力があるって気付けるワケ?

 ケンブジュツとかいうヘンな剣技だってそうじゃん。武術だろうと法術だろうと、ひとつの流派を確立するなんてカンタンなことじゃねーし。達人がさ、なっげージカン、シコーサクゴしてようやくってモンっしょ?

 そりゃソレっぽいマネゴトならデキるかもだけど、パイセンの技にはリゴーってヤツがちゃんとある。短期間で誰からも教わらず身につけた? ――そんなワケねーし」


 いつも直截な物言いをするクセ妙にするどい。アロンソはサンチャから目をそらした。


 サンチャがずいずい顔をつきつけてくる。


「ナニ隠してんの? ホラ、とっとと吐きなって!」

「と、とにかく……俺たちの連携の課題は見つかった! 今後はそれを補うよう詰めていくぞ!」

「……ま、いいや。いずれゼッテー白状させっけど……あとはアレ? パーティ設立のジョーケンを満たすにゃ、あとひとり必要なんだっけ? どうせ誘うなら盾役タンクのできるヤツがいいよね」


 サンチャが提起したように、パーティに欠けているのは敵の攻撃を受けて足止めするタンクだ。

 前衛とはいえ、アロンソは攻勢に特化している。このさき強敵とぶつかったとき後衛サンチャを守り切れない。防護の担い手が必要だった。


「ウチは水属性法術の扱いがヘタだからさ。手足の切断とかは直せない。本職の癒し手ヒーラーも欲しいトコだよね」

「そうだな……ま、お目当ての人物をスカウトする目途の立たない現状、皮算用でしかないが」


 ふたりは鍛錬を切り上げ、校舎の表へと向かう。上空を飛び渡る白鳥シスネの群れが甲高い多重奏を披露していた。


「……うん?」


 ふと、アロンソは校門に人影を捉えた。


 制服の上からケープを羽織っている。いたるところに複数の革帯を巻きつけており、そこに小物袋がいくつも括りつけられていた。


 背負った、身の丈を超えるサイズの背嚢がパンパンに膨らんでいる。


 白い無地の仮面をかぶっていた。その表面に王冠をかぶって羽を生やした、とぐろ巻くヘビ――錬金術師の紋章シンボルマークが描かれている。


 素顔はうかがいしれないものの、ほっそりとした体躯は、なまめかしい曲線を描く均整のとれた体形――見惚れるような造形美を誇っている。


 アロンソは彼女・・のことを知っていた。


「イザベル先輩……?」


 訓練校の三年生。錬金術師系の【天職】の持ち主であり、テオルス教官の直弟子だ。


 生徒たちは例外なく寄宿舎で寝泊りしており、朝帰りのようなマネをする機会はあまりない。とはいえ、それは一、二年生の話だ。三年ともなれば、任務で本格的な戦場に駆り出されることもある。

 イザベルも夜討ち朝駆けを終えた直後なのだろうか。それにしては周囲にパーティメンバーの姿が見受けられない。


「あのヒト、パイセンの知り合い?」

「ああ、すこし縁が合ってな」

「……さりげパイセンと関わりがあるヤツってさ、オンナしかいなくね? 真面目なフリしてムッツリスケコマシかっての!」

「ヘンなキャラ付けするな!」


 アロンソとサンチャがじゃれ合っているうち異変が訪れる。イザベルが覚束ない足取りで校庭を進んでいく――が、途中でフラリと倒れ込んでしまった。


「先輩!」


 アロンソはあわててイザベルに駆け寄った。イザベルを丁寧に抱え起こす。


 サンチャがアロンソにジト目を向ける。


「女子をためらいなく介抱するとか……やっぱスケコマシじゃんか」

「こ、これは非常事態の緊急措置だ! 仕方ないだろ!」


 イザベルを間近から観察する。全身が旅塵にまみれているところを見るに、やはり市外に出ていたようだ。それだけではない。すり傷、切り傷、ヤケド――負傷だらけだった。

 アロンソは意を決してイザベルを抱き上げる。


「はやく施療院に――」

「だ、ダメ……ですっ」


 両腕におさまったイザベルがか細い声を出した。


「だれかに私を……診せ・・ないで……」

「で、ですが!」


 たどたどしい口調で言葉を紡いでいく。


「あ、ロンソくん……お手数で、すが……寄宿舎……私の部屋に……」


 それきりイザベルがアロンソに身を預けて気絶してしまった。

第3章スタート!

新ヒロイン登場――とは言っても、第1章の第6話で一瞬だけ登場しておりますが!

ブクマとポイントよろしくお願いいたします!

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