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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
第2章 堕ちた神童編
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第5話 決闘

 赤焼けた陽が山向こうに片足を突っ込んだ頃合い。訓練校の校庭は常ならぬ喧噪に包まれていた。


 観客たちの目線の先、アロンソとサンチャは訓練場の中央でドルシネアと対峙していた。


「安心して。あたしは【中級天職】への昇華クラスアップを封じて戦わせてもらうから。大怪我をさせてしまっては申し訳ないしね」

「そんならウチも【演奏術師】の力は使わないし!」

「ふふ、あたし相手に手加減するなんて……サンチャさん、ナマイキだね」


 相も変わらず煽り合う女性陣。アロンソは冷や汗をかく思いだった。腹部もキリキリ痛む。


「立ち合いは俺がやる」


 教官のスティードがにらみ合う者たちの間に挟まって注意事項を通達する。


「いいか。実戦形式だが、とうぜん殺し合いじゃねえ。深手を負わせるような攻撃も禁じる。ヤバそうになったら俺の判断で止めるぜ――双方、【神器】を構えな!」


 ドルシネアが手元にランスを生み出し、ひと振りする。つむじ風を巻き起こして前方に矛先を向けた。


 サンチャが型の【神器】を虚空より呼び出し、ペン回しの要領で一回転させる。全身に霊力をみなぎらせた。


 アロンソはショートソードを抜き放つ。


 スティードが決闘の当事者たちから距離をとって開始の号令を出す。


 直後、ランスからアロンソの脇腹にかけて赤い糸の橋が架かった。長大な槍身で薙ぎ払うつもりだろう。穂先以外に刃が存在しないため致命傷にはならないという判断か。


 ならばとアロンソはドルシネアに歩み寄る。


「言葉では伝わらない……だから剣で示させてもらう」

「うん、来て。ぜんぶ受け止めてあげるから」


 ドルシネアが不動のままランスを腰だめに引きつけていた。


 アロンソは歩行の途中で『縮地』に切り替え、横に回り込まんとする。


「……っ!?」


 ドルシネアが息を呑んだ。アロンソの姿を見失ったからだろう。


 緩急と高低の落差ゆえだ。人は目の構造上、一定の高さに視点を置いておくと、捉えている対象がなんらかの事情で急激に高さを下げた場合、消えたような錯覚に陥る。

 『縮地』は低高度を保つ疾駆。かく乱にうってつけと言える。脇腹に絡みついたいんがが解けて消えるのも確認した。


 アロンソはドルシネアの数メートル手前まで迫る。


 しかしドルシネアもさる者。動揺を即座に抑えこみ、地を刈るようにランスを振るった。


 それもこちらの想定通り・・・・だが。アロンソは足に霊力を集中させて飛び上がる。

 低姿勢を意識させてから上空に身を逃がせば第二の幻惑の完成だ。


 うなりを上げて足元を通過する槍身に総毛立ちながら、アロンソは剣を振り上げた。


 ランスは長大なぶん取り回しが悪い。すでに肉薄しており、迎撃しようにも間合いが足りない。


 アロンソは刃を返して剣の腹をドルシネアに向け、落下の勢いそのままに叩きつけんとする。


「運の型、初伝――【しだれ――」

「驚いた。正直、半信半疑だったけど……ホントに強くなったんだね」


 しかし振り下ろす最中、糸が腕に巻きついてきたのを知覚した。まずいと焦るも、空中で姿勢を変えることはできない。


 ドルシネアがアロンソを見上げながらランスを手放した・・・・。半身になって剣をかわしつつ素手でアロンソの腕を掴む。そして奇術のような手際でアロンソの身体をクルリと反転させ背中から地面に投げつけた。


「ごぅ、はっ――!」


 アロンソは背面から正面へと突き抜ける衝撃を喰らい、カエルが潰れるようなうめきを漏らした。


「狙いはよかったよ? たしかにランスは使い勝手が悪いよね。槍身ばかり長くて柄が短いから。ほかの槍と違って棒術みたいに旋回させて石突で敵を打つなんて芸当は不可能。突いては引き戻すしかできない。今みたいに初手を回避されて距離を詰められたら一貫の終わり。

 だからこそ徒手空拳の武術も練習したんだ。【神器】の具現化を解除しないかぎり、その加護がなくなることもないし」


 ドルシネアが地面に転がったランスをいったん消し、あらためて手の内に発生させる。処刑人のごとく天に掲げた。


「さあ、ロニー。あたしと一緒にを受けようね?」


 アロンソは痛みにのたうちながら断罪の一撃を待ち受ける、

「――あのさ、ウチのこと忘れてね?」

 より速く、横合いから雷撃がさざ波のようにほとばしった。


 ドルシネアが打ち下ろしを中断し、大きく飛び退る。


 法術を放った張本人サンチャの杖が雷気を帯びてパチパチ鳴いた。


「ふーん、今まで何をしてたのかと思ったらコソコソ詠唱してたんだ?」

「それが法術師の戦いかただっつーの! ――パイセン、立って!」


 サンチャが詠唱なしで法術を発動させ、アロンソに癒しの力を注ぎ込む。


 アロンソは全身が熱を帯びるのを感じた。おかげで痛みが和らいでいく。


「ひとりで突っ走んなよ!」

「すまない」


 苦言を呈するサンチャに詫びて身を起こした。ドルシネアとは自分の力で向き合うべきという思いが先行してしまった。その結果、返り討ちにあった挙げ句、助けられては本末転倒だろう。


「猛省する。俺が前に出るから法術で支援してほしい。事前に連携を磨けていないから、その場その場の判断になるが……頼めるか?」

「任せなよ。即興アドリブは得意だし!」


 ドルシネアが興味深そうにサンチャを観察している。


「無詠唱? ……いや、すでに詠唱を終えた法術の発動を一時停止させての貯蓄ストックかな。さすが一年きっての才媛と呼ばれるだけのことはあるね」

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