第4話 女の戦い
ズカズカと歩み寄ってくる。目の下にクマが色濃く浮き出ていた。そのくせ爛々と輝いている。
アロンソはおもわず腰を浮かせて身を引いた。サンチャの手を取って背後に庇うことも忘れない。
「っ!」
なにが気に食わないのか、ドルシネアがその麗貌をゆがめる。
「授業をサボってカワイイ後輩と逢引?」
「い、いやそれは……感心できる行動じゃないことは理解して――」
「まあ、それは後回しでいいか……聞いたよ? ロニー、パーティの設立を教官たちに申請しているらしいね?」
ドルシネアの言及した内容こそ、アロンソの企む詭弁に近い解決策だった。いずこかのパーティに加入できないのであれば、自分で作ればいい。
しかし、これにも障壁が立ちはだかっている。
二、三年は言わずもがな。一年生もすでに既存のパーティ単位での戦いに慣れている。欠員が出るということはせっかく磨いた連携を練り直さねばならないということ。
メンバーの多くが殉職でもしないかぎり、あぶれた人材など見つからない。
かくいう事情から、教官たちは「最低ふたりはメンバーを用意すること」を条件にアロンソの申請を許可した。どうせ無理だとタカをくくっているのだろう。
「……俺なんかのことをよく把握してるな?」
「あたしはあなたのことなら何でも知ってるし、あなたはあたしのよく知るあなたのままでいなくちゃダメなの」
ドルシネアが有無を言わさぬ口調でアロンソに詰め寄る。
アロンソは気圧されるまま後退し、ついには壁際まで押しやられた。
逃がさぬとばかり、ドルシネアが壁に勢いよく手をつく。
「ロニー、今から申請を撤回しに行こう?」
「ネーア、俺は――」
「大丈夫、付き添ってあげるから……あたしの言ってること分かるよね?」
「――まったくイミ分かんねーし!」
蚊帳の外に置かれていたサンチャが気炎を上げた。
「パーティの設立申請とか初耳だし! なんならウチも反対だけど! いきなり出しゃばってきてナニサマのつもりだっての!」
ドルシネアを視線で切りつける。
応じてドルシネアがわずらわしげにサンチャを睥睨する。
「……サンチャさん、だっけ? 悪いけど、すこし黙っててくれない? いま幼馴染同士の大事な相談を――」
「はあ? ナニが相談だよ! 一方的に言うコト聞かせよーとしてただけジャン! ウチのパイセン、イジメるとか許さねーから!」
「……『ウチ』の? あなたにあたしのロニーのなにが分かるっていうの?」
「いろいろ知ってるっつーの! カタブツなことも! お節介なことも! 幼馴染だからなんだよ! いま現在、ウチのほうがパイセンと仲いいんで!」
「ふふ、あはは……笑えない冗談だね?」
アロンソは交錯する視線の間に飛び散る火花を幻視する。むろん【天眼】とは無関係に。
ドルシネアがため息ひとつ肩をすくめる。
「これじゃあラチがあかない。生徒同士で揉め、かつ収拾がつかない……こんなときは校則に従おうよ。決闘を申し込ませてもらうね?」
「え!? いやあの――」
「ジョートーじゃん! 受けて立つし!」
「俺はべつに――」
「あたしが勝ったらロニーはパーティの設立を諦める。あなたたちが勝てば、あたしはもう口出ししない……そういう条件でいいかな?」
「勝手に巻きこ――」
「あとで吠え面かいても知んねーから!」
「あまり大口を叩かないほうがいいよ? 負けた時みじめになるから」
「――聞けよ、俺の話!」
こちらの思惑を無視して勝手に話が進んでいく。それに歯止めをかけるべく、アロンソは大声を張り上げた。サンチャを隅に引っ張っていく。
「いやいやいやいや、お前いったい何を言い出した? バカなのか? ああそうだ、バカだったな!」
「でもさ、パイセン! 決闘でもしないとアイツを黙らせらんなくね?」
「……それは、そうだが」
アロンソは言いよどんで口ごもった。ドルシネアが頑固なのは幼い頃から知っている。認めてもらうには通過儀礼が必要だ。今回こそ逃げてはならない。
「分かった。俺は腹をくくる……けど、お前はいいのか? 話の流れ的に加勢することになっていたが……」
「ダイジョブダイジョブ! 人間相手なら戦えるし!」
「……そうか、分かった。すまないが、俺に力を貸してくれ」
「アイツ、だいじなトコでジャマしやがって……ブッ飛ばしてやっから!」
「話はまとまった?」
アロンソはドルシネアの呼びかけに応じて振り返る。
「ああ、決闘を受けよう」