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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
第2章 堕ちた神童編
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第1話 サンチャ

 早朝の吹き下ろしはひどく冷たく心身を刺す。

 アロンソは型の練習で汗を流していた。しだいに寒さが気にならないほど全身が火照っていく。


「すぅ……! はぁ……っ!」


 大きく息を吸い込み新調したショートソードを正眼に構え、鋭く呼気を吐き出して剣舞を演ずる。


 クルクル回って立ち位置を左右にズラしながら剣を水平に振るう。転倒しながら足を前方にうならせる。


 『剣舞術』は目が命。横に回転しようが、地に伏せようとも、可能な限り視界の端に敵の姿を捉えられるよう頭の向きと首の角度に注意を払う。


 土肌の地面を叩く軽快な靴音が校舎裏に響いた。


 一連の日課を済ませ、タオルで汗をぬぐう。あの騒動から数日。施療院送りとなったアロンソだったが、今では調子を取り戻している。


 【天眼】の行使に慣れ、『剣舞術』の習熟もそこそこ見れるレベルにはなってきた。しかし――

「俺ひとりでは限界があるな」


 もともと【申し子】は単独で戦うものではない。戦闘部隊パーティのメンバーそれぞれに役割がある。前衛が魔族どもを抑えこんでいる内に、後衛が準備を整えて遠距離攻撃を放つ、または前衛を癒して強化を施す。


 アロンソには一対の目と腕と足しかないのだ。どうしても手数が足りず攻撃手段も少ない。望ましいのは、前衛をこなすアロンソを補佐し、手数で攻めることのできる後衛の人材。


 そのためにはパーティに加入する必要がある。それにはふたつの壁がある。


 ひとつはアロンソ自身の問題。今ならば主戦力とまではいかずとも足手纏いにはならない。しかし能力の性質上、消耗が激しく、こまめな回復と休憩が必要になってくる。ほかのメンバーをそれに付き合わせるのは忍びない。


 もうひとつは訓練校側の事情。アロンソに死んでほしくない上層部にパーティへの編入を渋られていた。

 こちらについては詭弁に近い解決策・・・を思いつき実行しているものの、なかなか上手くは行かない。


「いずれにせよ、俺自身の練度を上げていく必要がある」


 一刻も早く、デメリットを克服ないし薄くしていかねば。やるべき課題は山積している。それが嬉しかった。


「――どうだサンチャ・・・・病気・・は治ったか?」


 充足感で足を弾ませ踏み出そうとした時だった。聞き覚えのある名を口にする耳慣れない声が物陰の先から聞こえてきた。


「……アンタらにはもう・・カンケーないし」

「ハッ、その様子じゃまだみたいだな? 元メンバーがそのザマなんて、こっちは情けなくて仕方ねえよ」

「で? だから? アンタら、わざわざそんなコト言うためにウチを呼び止めたの? よっぽどヒマなんだ?」

「あ? 心配してやってんのにその言い草はなんだよ!」

「はあ? 頼んでないっつーの」

「いい加減にしろよ、お前!」

「やめなってこんなヤツに絡むの!」


 角を曲がった先。校舎の側面、その外壁近くでサンチャと複数の男女が向かい合っている。漏れてきた会話の内容から険悪な雰囲気であることは察せられた。


 アロンソの闖入に気付き、対峙する両陣の視線が集中する。


「……邪魔をしたかな?」

「ね、もう行こっ!」


 女子生徒のひとりが他の連中の背を押して退散していく。


「チッ、お前のせいで……欠陥品がっ」


 去り際、男子のひとりがサンチャを一瞥して毒づいた。


 取り残されたアロンソとサンチャの間に気まずい空気が漂う。


「おー、パイセンじゃん。なんか変なトコ見られちったなー」


 サンチャがとりつくろうように笑顔を作った。


「こんな朝っぱらからナニしてたん?」

「鍛錬をすこし、な……それより今のはお前の?」

「そ。ウチのパーティメンバー。元、だけど」


 とある・・・事情のせいで戦えなくなったサンチャはアロンソと似たような境遇になっている。そのせいでパーティメンバーと遺恨の残るケンカ別れをしたことは想像に難くない。


「めずらしく早起きして登校したってのにサイアクだし!」


 サンチャが不快げに鼻を鳴らす。


「今さらウットーしいヤツらだよねー。ほっとけっての」


 その横顔がどこかさびしそうに見えた。


「あー、もう! こんなテンションじゃやる気なんか出ないって! どっかで癒しを補給してバイブスをアゲてかねーと……ね、パイセン。授業なんかフケてさ、ウチとデートしない?」


 サンチャが身をくねらせて煽情的なポーズをとった。


「分かった」


 アロンソは自然と頷いていた。色香に惑わされたわけではなく、今のサンチャをなんだか放っておけなかったから。


 自分から誘っておきながらサンチャが面食らう。


「え、マジ!? クソ真面目なパイセンが!? サボんの!?」

「俺だってたまには息抜きをしたい時もあるさ」

「ふ、フーン……そっか」

「皆勤記録をフイにするんだ。遊ぶ場所は任せるが、楽しませてくれよ?」

「そういうのってオトコのほうが決めるモンじゃね? ……まあ、いいけど。ウチに任せろし! 市内の激アツスポットはだいたい網羅してっから!」


 サンチャがアロンソの腕を引いて歩き出す。握る手の力がヤケに強かった。

第2章、開幕!

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