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天眼のソードダンサー  作者: 大中英夫
第1章 開眼編
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第13話 得たもの

 アロンソは職人街の片隅に座りこんで高揚を鎮めていた。その耳に複数の足音が届く。


 救援に駆けつけた部隊が現場を確認するや騒ぎ出した。


「う、そだろオイ!?」

「これを全部落ちこぼれアイツがやったのか!?」


 燃え尽きて崩れた工房からくすぶる白煙。ところどころに刻まれた暴威の跡。そして倒れ伏した魔族ども。


 一様に驚愕する生徒たちの様子を見て、アロンソは胸がすく思いを味わう。


 信じられないと口々に呟く者らの間を割って、ドルシネアがアロンソに近寄ってくる。


「これはロニーが? ……そう。理由はわからないけど、強くなったんだね。おめでとう」


 アロンソは対峙するドルシネアにこれまで・・・・の諸々、わだかまりを解消しようと――

「そんなにスゴいならなんで! あの時・・・ロシナンテさんを助けてあげられなかったの!?」


 口を開くより速く、ドルシネアの面罵がアロンソの胸を痛烈に刺した。


嘘つき・・・!」


 涙をこぼしながら走り去るドルシネアの背になんの言葉をかけることもできなかった。反論もできない。言い訳のしようもないほど事実でしかなかったから。


「…………っ」


 なにを浮かれていたのかと、アロンソはみずからを心中でののしる。


 『剣舞術』は敵の攻撃を受け止めることを前提としない。防御は薄紙、攻撃特化のピーキーな剣術だ。


 アロンソの保有霊力は他の二年生に比べて未だ劣る。下級魔族を相手取るには少ない量をやりくりしなければならない。

 斬撃を放つ際は、踏みこみの足や腰、胸、背中、手首といった要所要所を重点的に霊力を注いで強化するなどの工夫が不可欠。それゆえ他の部位の強化はおろそかになる。戦闘中、動きの負荷に全身が悲鳴を上げていた。


 加えて魔族の攻撃を何発か受けてしまったこともあり、アロンソはボロボロだ。


 息も上がってしまっている。体力を浪費したのは動きに無駄が多いからだろう。軽妙に受け流し霞のごとくかわし鋭く翻弄する――師匠ホクシンの域にはほど遠い。


 空いた生徒たちの輪から、今度は不良後輩サンチャがやってくる。


「え? なんなん? ロニーパイセンとドルシネアパイセンって仲良かったよね? いやそもそも、ドルシネアパイセンがキレてるトコなんて初めて見た……」


 一連の会話を目撃していたらしく、気まずそうにしていた。


「ま、まあいいや。それよりマジびっくりしたって! パイセンにナニがあったん!?」


 サンチャの問いかけはこの場の全員を代弁しているようだった。ほかの生徒たちもいぶかしげな視線をアロンソに注いている。


「なんか見た目まで変わっちゃってるし。あんだけヤバかった目の下のクマがとれてんジャン!」

「……運よく俺の救世主に出会えたんだ」

「はあ? イミわかんないし!」


 アロンソの不明瞭な答えを聞いてサンチャが目くじらを立てた。


 ホクシンとあの場所のことをバカ正直に伝えたとしても信じてもらえないだろうし、はぐらかすのが正解だ。なによりあの思い出は自分の中だけに秘めておきたい。


「ところでさ、コイツら・・・・がパイセンに言いたいことがあるんだって――ホラ、いい加減、観念しな! ここまで来てグズんなっつーの!」


 サンチャが背後に控えるふたつの影を強引に押し出した。


 躍り出てきたのはいつかのふたり――おさげ髪の少女とそばかす少女だ。


 アロンソは不意の再会に目を丸くする。


 ふたりが所在なく目を伏せていた。たがいに目を見合わせて頷き合うと、

「「――ごめんなさい!」」

 意を決したようにアロンソへと頭を下げた。


「た、助けていただいたのにヒドい仕打ちを……私、怖くって! なにがなんだか分からなくて!」

「あの後この子から詳しい事情を聞いたんスけど……先輩のこと誤解してたっス!」


 じわりとアロンソの胸に染み入るものがある。自分のやったことには確かな意味があった。その実感がまとわりついた泥を払拭してくれる。


「……いや、気にしないでくれ。君たちが無事で本当によかったよ」


 ふたりが何度も礼を述べながら去っていく。


 未練はある。反省もしなければならない。それでも今は成長を誇ろうと素直に思えた。無理だと諦めて嘆くのではなく、まだ伸びしろチャンスがあると前向きに捉えていきたい。

 アロンソは足に力をこめて立ち上がる――途中でフラリと姿勢を崩した。どうやら限界を迎えていたらしい。


 【天眼】の弊害――頭をさいなむ高熱でまともに思考もおぼつかなかった。


「ちょパイセン!?」

「……すまない、あとは頼む」


 サンチャの腕に抱かれ、アロンソはゆっくりとまぶたを閉じた。

第1章、完!

ブクマとポイント、よろしくお願いいたします!

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