シャルルと弟たち
さて、俺は寝室に戻ってきたのだが。うぅ~、どうしようこの状況。
俺の婚約者で哀れな生贄の野ウサギ、―――じゃなかった。ハスキは食べかけの菓子を放り出し、思いっきり俺に、―――平伏していた。
それは、何だ?俺が帰るまでに完食できなかったからか?
ここはその~、彼女を十分にいたわってだな。
「ふんっ、俺の命令を最後まで完遂できぬとは。貴様はクズか」
いやいや、違―――うっっ!!!イザナ!それはいたわってるのか!?いたわっている時にはその言葉を吐くのが自然なのか!?俺ぇっ!!
「も、っしわ、け」
か細い彼女の声が響く。
やべぇ。本気で泣かしたらどうしよ、俺。そうだっ!こういう時はプレゼントで機嫌をとろう!ちょうど買ってきたところだった。それとナユタに手配した服も受け取ったし。
「では、早速脱げ」
き、着替えてくれって言おうとしたんだが。ついでに着替えに俺が買って髪飾りを添えて。
「ひっ」
ふ、震えてる―――っ!!!でもそこがふるふるしているウサギみたいで逆に庇護欲をそそるんだけども―――。
う、うぅ~。ここは、そのー。まずは着替えてもらわなきゃ、な?
「俺が戻るまでに着替えておけ」
そう言って彼女の前に服と髪飾りを置き、俺は颯爽と部屋を後にした。
―――えっと。あぁやっぱり失敗続きぃっ!!そうだ!彼女に着替えさせている間に孤児院でもらってきた“彼女たち”のことを何とかせねば!
俺はナユタが用意した彼女たちの部屋のドアを開け放った。
俺に堂々と歯向かってきた威勢のいい美少女。彼女の名は“シャルル”だ。
シャルルは城下の孤児院で育つが、お忍びで城下に出ていた第5王子の俺の弟に出会う。そして孤児院でひどい扱いを受けていた彼女とその弟たちを王都から逃がすために協力するんだっけ。
そしてその後、暴君となった俺に立ち向かおうと決心しながらも、瀕死の重傷を負った第5王子と再会し看病した彼女は第5王子の思いを聞き、彼女の弟たちを隠れ家に残して共に旅立つのだ。
そう言う筋書だった。―――が、彼女もいずれ俺にあだなす存在となる。だからこそ今のうちに抱き込む!!
さて、一般的な女官のお仕着せエプロンワンピースに着替えた彼女は、淡い金色の見事なストレートヘアーに吊り目がちで意思の強そうな金色の瞳をしている。耳は半魔の特徴が表れており、とんがっているのが特徴だ。頭には青いヘアバンドをを巻いており、淡い金色の髪とのコントラストが絶妙だ。
俺の宮で過ごす以上は身ぎれいにしてもらわねばならない。それをしっかりとわかっていたらしいナユタに湯殿に連れて行ってもらったらしい。彼女の弟くんたちも同様だ。さらにナユタはしっかりと彼らの服も用意してくれた。うむ。我ながら、良くできた従者を持った。
さて、シャルルとその弟たちだが。体に現われた半魔の特徴からも分かるように、血はつながっていない。義理の姉弟なのだ。
まずは10歳くらいの少年・ハル。彼は宰相を攻略するにあたって、非常に重要な意味を持つ子でもあるのだが、今はひとまず置いておこう。
アイスブルーの髪に、くすんだ水色のまんまるい瞳。頭には白く歪んだふたつの角が生えている。この角が彼が半魔であることを示す特徴だ。
そして更に5歳くらいの男の子・ツキ。この子はたれ耳の狼耳しっぽを持つ、獣人系の半魔である。オリーブブラウンの毛並みに金色のまんまるお目目にかわいらしい顔立ち。―――いや、既に存在する時点でかわいすぎるっ!何このかわいいちびっ子~~~っっ!!!
シャルルは俺を睨み、ハルは緊張しながら俺を見つめている中。ツキだけはめっちゃかわいいお目目で俺を見つめてくるんだけどぉ―――っっ!!なにこれ!何でこんなにかわいいの、この子!!―――わふわふは、正義!!(※超イミフな発言)
「準備を終えたようだな。早速お前には働いてもらう。先ほども告げた通り、お前には我が婚約者の侍女をしてもらう。言っておくが、途中で逃げたりしたら弟たちがどうなるかわかっていようなぁっ!?」
弟くんたちのために、しっかり勤勉に働いてねっ☆と言う気持ちを込めた、俺・イザナ流の言葉だ。
「お前の弟どもには俺が魔法印を授けてやる!この城から、―――いや、宮から出られないようにな!」
勝手に外に出て迷子になったら心配だもんな。ここは主人として目をかけておくべきことだろう。
はい、しゅぱっと弟くんたちに魔法印をつける。
「さぁ、俺のために馬車馬のごとく働け!!」
ちょっとばかりキツイ言い回しにはなってしまった。やはり急には治らないよなぁ、イザナ流は。
だが、彼女が最も大切にしている弟くんたちの生活を保障することなどをしっかり彼女に伝えた。だから、だ、大丈夫、だよね?
「弟たちに手を出したら、絶対に許さないからっ!!」
ぎろっ
めちゃくちゃ殺意のこもった目で睨まれた。何処でどう間違えた、俺。