残虐非道な悪逆王子
さて、しっぽがマントから出ないように注意しながら俺は目的の場所へと辿り着いた。場所は城下の孤児院だ。
原作通りならここに“彼女たち”がいるはずだ。
俺は颯爽と孤児院の扉を開けると、中の孤児院の職員や子どもたちがぎょっとして俺を見やる。
「ここに半魔どもがいるそうだな!」
俺がそう言うと職員の男がさあぁっと表情を青ざめさせ、ひとりの少女の髪を掴んで引きずり出した。
「申し訳ありません!貴族の旦那!」
ほう?この俺の高貴さがわかるとは、結構いい目をしているじゃないか。まぁ、着ている服の材質は最高級だからな。
「コイツがまた何かしでかしたんでしょう!罰ならいくらでも加えてやってくださいっ!」
「痛いっ!放してっ!私は何もしてないっ!!」
「黙れ!この半魔がぁっ!!お情けでおいてやってるって言うのに口答えするんじゃねぇっ!」
「くぅっ!」
職員の男によって床に頭を押さえられている淡い金色の髪の少女、いや美少女は恨めし気に男を睨む。彼女は、―――半魔である。その証拠に彼女の耳はとんがっている。
「ふん。罰ならいくらでも、か。俺の好きにしていいのだな?」
「へ、へぇ!もちろんでさぁ、旦那!拷問するでも慰み者にするでも、好きにしてくだせぇ!」
「や、やめて!私は何もっ!」
「うるせぇっ!」
そう言って男は彼女の頬を思いっきり殴る。あぁ、キレイな肌なのに血が滲んでいる。女性の顔は傷つけちゃいけないってコイツは知らんのだろうか?
「では、その女を買ってやろう」
『え?』
俺のその言葉に、男と彼女が呆然としながら俺を見上げる。
「これは金だ」
そう言って金の入った袋を投げてやれば、男は目を輝かせてそれに飛びついた。
「こ、これは俺のものだぁっ!!」
「待て!俺にも寄越せ!」
「私も欲しいっ!お金ぇっ!!」
職員の男と孤児院の年上の子たちがそれに飛びつき、年下の子たちがそれに続く。
ほどなくして“彼女”の側にふたりの男の子がやってくる。ふたりとも、―――間違いない。彼らも“半魔”である。
「ふっ、あの金はお前ら3人分の金だ」
俺がほくそ笑めば、彼女は“弟たち”を抱きしめ俺を忌々し気に睨みつける。
「貴様らは今日からこの俺の、―――下僕だ!!」
「んなぁっ!」
“彼女”は怒りに満ち俺に突っかかろうとするが、時既に遅し。俺は優雅にしっぽを揺らめかせながら、彼女の元に歩み寄り颯爽と城の俺の宮へと転移した。
―――
さて、俺が自分の宮へと帰還すると、ナユタが早速部屋を用意し終えたと言う。そこへ彼女らを連れて行けば。
あれ?これって。
「おまっ、これ牢屋じゃねぇか」
「いつもの下僕用の部屋ですが?」
やべ、そうだったかも?―――そうだったかも、俺ぇっ!!
「この下僕の女は、その哀れな野ウサギ~じゃなかった。―――ハスキの側付きとする!」
「―――っ」
俺の言葉にナユタは多少なりとも驚いているようで。
「使用人用の部屋を用意し、この女には相応しい襤褸でも着せてやるがいい!」
「では、普通の女官のお仕着せを用意いたします。ご一緒の方も同じ部屋に通してよろしいでしょうか」
「あぁ、そうだな。やれ!」
物凄い凶悪な表情でほくそ笑んだ気がするが。ナユタは俺の思っていることを正確に掴んでくれたらしい。―――うん、我ながらいい従者を得たものだ。
「では俺は、部屋に戻る」
「御意」
ナユタが応じた後、鋭い声が響いた。
「あ、あんた何者なの!?そのしっぽ、私たちと同じ半魔でしょ!?」
“彼女”は勇気を振り絞り、俺に言葉を放った。
「ふん。この俺に下僕ごときが勝手に口を開くとは身の程知らずめ。しかしその度胸は買ってやろう!」
あれぇ~?ここは俺の新たな使用人として、優しい言葉をかけてあげようかと思ったのだが?
うん。こ、ここから巻き返そう。まだ、巻き返すことはできるー、はずだ!
行くのだ!イザナ!
「この俺は第4王子・イザナ!今日から貴様らのご主人さまだ!この俺のためせいぜい身を粉にして働け!」
最後に笑顔、笑顔~。
にやっっ!!!
ま、またほくそ笑んでしまったぁ―――っっ!!!
「―――んなっ!あの残虐非道な悪逆王子!!」
あぁ~、そうだよね。その噂は知ってるよね?うん。そもそも初対面以前に俺の噂が最悪だったことを忘れていた。