悪逆王子の婚約者
※ナユタの出自について修正しました※
「イザナさま」
決意を新たにした俺の元に俺の忠臣が現れた。小説でもおなじみ、あとイケメン悪逆王子のイケメン従者ともあって、彼もまたファンがダントツで多い。
「どうした、ナユタ」
俺がそう呼んだのは長身でほっそりとした体格のダークブラウンの髪に赤い瞳の青年だ。彼もまた半魔であり、幼い頃に俺が同じ半魔で同じ目の色だから、そんな簡単な理由で俺が彼を従者にと望んだのである。原作では半魔と言う珍しい売り物として奴隷として売られていたナユタを従者として“買い取った”と言う設定だったが。
彼は外見上は人間となんら変わらないが、しかしながら彼は背中に黒翼が出るのである。―――空を飛べるのであるっ!羨ましい!てかかっけぇ。いや、今は別にそこはいいか。
「そろそろ、婚約者のハスキさまにお会いする時間です」
んなぁっ!?まさか今日がその日だったとはぁっ!!
俺の婚約者・ハスキは国でも有数の名家の出である。しかしながら彼女は、王族に嫁がせるためだけに父親が女に産ませた妾子であった。
美女で有名な姉が第2王子に嫁ぎ、スペア感覚で他の王子の婚約者として推薦された彼女はぶっちゃけ言って実家から期待されていなかった。美人で優秀な姉がハスキに惨めな思いをさせるために王子の婚約者候補に推薦したのである。
当然のことながら姉には引けを取り、そして見た目もたいして派手ではなく、魔法もちょっとしたヒーリング魔法しか使えない彼女。更には既に優秀で美人な姉が嫁いでいることから彼女を娶りたいと言う王子はいなかった。
いや、第1王子は人格者だからもしかしたら。―――と言うのもあったかもしれないが、あれはあれでかつての婚約者を喪った傷を引きずっているために彼女を婚約者として迎えることはなかった。
第3王子は騎士道にしか興味がなく、まだ婚約者は要らないと突っぱねた。いや、あれは性格はいいし、正義感が強いので彼女の場合は姉と比べられながら王子妃を務めることは無理と判断して断ったのだろう。それが彼女のためになると信じて。
第5王子、つまり俺の弟は母親が平民でしかも娼婦であったために立場が低い。そのような兄弟や賓客が集う場にはわざと呼ばれない。
―――そんな中俺が言い放った。
“ちょうどオモチャが欲しいと思っていたところだ。俺がもらってやろう”と。
その宣告をされた時の彼女の顔と言ったら。あぁ、もうちょっと性格を加味して紳士的に行くべきだったか。
因みにそれを聞いた他の兄たちの反応は。
大貴族たちの前で反対はしなかったもののかなり剣呑な眼差しで見られたな。
とにもかくにもまずは婚約者との関係改善!溺愛ルートに乗せてみせる!!
俺は彼女が待っている部屋の扉をバーンと開け放った。
「ふんっ、性懲りもなく俺のオモチャにされに来たようだな!愚かなメスがぁっ!!!」
「―――ひっ」
通された部屋の中で、俯きながら座る少女の肩がビクンと反応した。
そんな俺の婚約者・ハスキはキャラメルブラウンのゆるふわロングヘア―に茶色の瞳を持つかわいらしい少女だ。
姉の美しさとは一線を画しているため、彼女はその性格も相成って見た目を理由に侮られることが多いが、原作ファンからしてみればかなりかわいいのだ。そして庇護欲をめっちゃそそるのだ。
―――しかしながら。
やってしまった。やってしまったぞ、俺。
溺愛ルートに乗せて見せるとか誓いながら、彼女は早速俺に脅えてびっくびくだ。
やべぇ。
しかしながら、これがイザナ。―――つまりは俺なのである。どうにかして、どうにかして前世の俺の知識を元に彼女をっ、彼女を慰めねば!
まずは彼女の目の前の席に腰掛ける。
「貴様」
さ、早速とちったぁ―――っっ!!!
ここは婚約者の名前だろう俺ぇっ!!
「は、はははっ」
何か笑っているような感じになってしまった!普段やらないことをやらねばならないことがこんなにも難しいだなんて!!
しかしどうにかして溺愛ルートに乗せなければ!
溺愛ルート、―――つまりは監禁&束縛かっ!?
※あくまでもイザナの個人的な所見です
確か彼女は実家での扱いもひどいはずだ。―――冷遇。いや、それ以上に彼女を取り巻く環境はひどいはず。
部屋は物置小屋だし、食事も1日2食出ればいい方。宝飾品や礼装は俺と会う時のみでそれ以外は姉や継母に全て根こそぎ奪われて貧相な服を着て使用人のように扱われているはず。
んならばっ!
「ハスキ!!」
くわっ!!
思いっきり彼女の名前を呼んだことで、びっくりして彼女が俺の顔を見上げる。
やばっ。何だか彼女が人生のどん底に突き落とされたような表情で俺を見上げているんだが。
「貴様は今この瞬間からこの俺の宮から出ることを許さん!そして1日中俺の側で下女のごとくこき使ってやろう!!」
―――あれ?
監禁=俺の宮で過ごす
束縛=俺の側で下女のごとくこき使う
―――何か違くない?いや、そもそも溺愛しなくちゃいけないのに、言ってることが真逆な気が。
いやいやいや。しかしながら今この瞬間からハスキを常に俺の手元に置くと言う作戦は成功したのだ!これからゆっくりと溺愛すれば間違いない、―――はずだ!!
俺は彼女の顔を見上げ、にやりとほくそ笑んだ。あれ、ほくそ笑んでいいんだったっけ?
ふと彼女の顔を見やれば。
硬直して、
バタンッッ
彼女は目を開けたまま、―――気絶した。
な、何でこうなったぁ――――――っっ!!?