鬼面
※今回も第3者視点でお送りします※
―――後宮
ことが動いたのはその数日後であった。後宮に入り浸る王の元に宰相が訪れていた。
「宰相、これは何だ」
「みての通りです。陛下。どうか生前退位してください」
後宮では人払いをしてある。元より宰相の威圧のこもった冷たい目に多くの愛妾たちはたちまち逃げてしまうのだ。その上その場に残ったのは宰相ごときは小さな蠅程度だと豪語した第2王子妃だけだった。後宮には未だ第2王子の母である側妃も暮らしているにもかかわらずこの第2王子妃は恥じることもなく毎日のように後宮に入り浸り王に金品をねだっているのである。
その度胸は思いつめた顔をした宰相を前にしても揺るがず、宰相自身も最近は感心するほどである。―――悪い意味で。
「ちょっと、宰相!どういうことよ!」
しかしながら声を荒げたのは王ではなく第2王子妃であった。
「貴様には関係のない話だ。去ね」
宰相がちらりと視線を動かし冷淡に告げれば第2王子妃が醜く顔を歪ませる。
「陛下、これが最後の通達です。どうかご英断を」
「―――っ、宰相。貴様は立場が分かって言っているのか。余の元には人質がいるのだぞ」
「もう一度申し上げます。生前退位を」
しかし宰相の決意は揺るがない。王が人質の件を出そうとも宰相の顔は眉ひとつさえピクリと動かない。
「ぐっ、貴様がそこまで冷酷な人間だとは思わなんだ。では貴様が死んだ後に待っているのは子にとっての地獄だと忘れるなよ?土の中で後悔してももう遅いのだからな」
王は醜く顔を歪めながら宰相を睨む。
「陛下、どうかご英断を」
「くどい!おい、貴様ら今すぐコイツを殺れ!」
愛妾に甘い声ばかりを囁く王が声を荒げれば周囲に黒ずくめの男たちが顕現し、そして王の傍らにはせ参じたのは顔の上半分に鬼角の面をした男だった。
「ひっ!何ですの!?こやつらはっ!」
突然のことに脅えて第2王子妃が王の腕に縋りつくが、王は第2王子妃の腕を払いのけて弾き飛ばした。そして黒ずくめの集団の前に放り出された第2王子妃の顔が引きつる。
「ひぃっ」
「宰相。今なら泣いて赦しを乞えば考えてやらんこともない」
「―――あなたは、愚かです」
「何だと?」
「影があなたに忠実だと考える、その考えも、全てです」
「貴様!影は王である余のものだぞ!」
「そうですか」
「ふん、貴様はもういらん!幸い王太子がいるから貴様などいなくとも余の元に金は入ってくるからな」
「えぇ。私などいなくともあの方がおります。ですからあの方が王位に就くことこそがこの国の正しい未来なのです」
「王は余だ!貴様も王太子も余のためにただ尽くせばよいのだ!それを放棄した貴様などいらぬ!子ともども地獄を見せてくれる!さぁ、やれ!余の影よ!」
「御意」
鬼面の男は短くそう返事を返すと次の瞬間、王がガクリと項垂れた。
「本当に、やるとは思わなかった」
宰相が意識のない王を前に小さく呟く。
「ふふっ、お楽しみはここからだからなァ?」
ほの暗い後宮の奥で、宰相の聞きなれたおどけた口調が響いた。
※次回っ!丸々拷問回っ!※




