招かれざる客
「いったぁっ!この私に何をするのよ!」
見えない壁に激突し、仰向けに倒れた女がむくりと起き上がった。
なお、この女に関しては原作小説の中で名前だけは出てきた。しかしながらアニメでははしょられたキャラ。だがしかし同情など少しもわかない。
この女の名はキキョウと言う。紫色の見事なロングヘアーに、アメジスト色の瞳を持つ美女であるが、彼女は第2王子妃であり長年ハスキを虐め抜いた異母姉である。
だからこそハスキは俺の背中にべったりと張り付いて彼女と顔を合わさないようにしているわけだが。
うん、俺の婚約者のハスキがかわいすぎる。だからどうでもいい。しかしながらそれは彼女のプライドが許さなかったらしい。
「あら、半魔の第4王子殿下?ごきげんよう」
と、白々しく挨拶してくる。“半魔”などと堂々と呼ぶ時点で、この女は俺のことを見下しているのだ。たいした魔法も使えないくせに。第2王子妃におさまったからこそ、俺よりも立場が上だと自負している。―――王太子妃ならともかく、一介の王子の妃が王子でありしかも魔物の王である“魔王”の甥たる俺よりも立場が上なわけがなかろう?
一体、何を勘違いしているのか。
しかしながら、こういう意地悪な姉に対しざまぁすることによってハスキから俺への好感度がぐぐっと上がるイベントだと言ってもいい。
まぁ、ここは思う存分威嚇してやろうか。
「一体何の用だ。貴様などを俺の宮に招待した覚えはないが」
「私は第2王子妃よ。招待を受けずとも義弟の宮に自由に入る権利くらいあるわ」
いや、ねぇよ。第2王子の宮だって第2王子から追い出されたら入れないのにそんな権利があってたまるかぁっ!!
「それに、話しは別にあるのよ」
「何だ」
「ふんっ、相変わらず私に対する礼儀がなっていないわね」
「何故この俺が貴様に敬意を払わねばならない」
にやりとほくそ笑んでやる。因みに斜め上から目線。
「くぅっ!傲岸不遜な悪逆王子め!」
貴様にだけは言われたくないがな。
「まぁ、いいわ。今回は私のかわいい妹と、義弟のスザナに会いに来たのよ?」
その言葉に俺の背中に張り付いているハスキがビクンと震えスザナも顔をこわばらせて俺の斜め後ろに控える。
「どうも最近、あなたが私の妹にご執心だと聞いて。家にも帰らせてもらえないようだから両親も兄妹もとても心配しているのよ?」
「ほぉ?」
俺に対してそんな見え透いた嘘を言うとはたいした度胸だなぁ?
「聞いた話だと、スザナまでここに軟禁状態と言うことじゃない。スザナを義弟としてかわいがってきた私たち夫婦からしてみれば心配で心配で夜も眠れないのよ?」
その割には目の下のクマもなく、健康そうだな。むしろスザナの方がお前たち夫婦ふたりぶんの公務を押し付けられてげっそりしていたぞ?
それに、これは軟禁ではない。―――監禁だ!何故なら溺愛ルートだからなっ!!
※あくまでもイザナの個人的な所見です
「では、眠らなければよいだろう?」
「は?」
「眠らずに、今までスザナに押し付けてきた貴様らふたりぶんの執務をとっとと終わらせて来ることだな。夫婦そろって城から追い出される前になぁ?」
俺はひどく醜悪な笑みをキキョウに向ける。
「んなぁっ!」
ふん。お前たちの考え方は短絡的すぎるのだ。今日ここに来た一番の理由は執務が滞っているのを王太子に咎められたからだろうに。
「この私に、何てことを!そう言う事なら構いません!あなたを私たちのかわいい妹のハスキを不当に誘拐したとして国王陛下に直訴させていただきますから!」
「ふぅん。好きにすればいい。その時はお前の実家を丸ごと消し炭にしてくれよう」
「なっ!王子であるお前にそんな横暴が許されると思っているの!?」
「貴様こそ身の程を知れ。王子であるこの俺に盾突くとはいい度胸だ」
にぃっとラスボスのごとく威圧オーラを放ちほくそ笑んでやれば。
「ひぅっ!悪逆王子め!」
第2王子妃・キキョウは表情を歪めながらふらふらの脚で逃げるように去って行った。
「さぁ、もう大丈夫だ。ハスキ」
そう言って後ろを振り返れば、びくびくとウサギのように震えるハスキが俺を上目遣いに見上げていた。
―――なにこれ。食べてしまいたいくらいにかわいい、ってどんな変態だっ!俺はっ!いや狡猾イザナはぶっちゃけ変態だと思うがな。
「ハスキもスザナも安心しろ。この宮には俺が許可したもの以外は入れん。あの女がこの宮に入ってくることはない。だから俺の宮を出るなよ?」
まぁ、お前らも俺の許可がなければ一生出られんがな。
にぃっ
「はぃ」
頬を赤らめながら頷くハスキ。
「わかりました!お兄さまっ!」
頬を赤らめながら俺を見つめるスザナ。
ふふふ、やはりこういったイベントで悪女をぎゃふんと言わせてやることで好感度は急上昇するらしい。
「では、行ってくるぞ」
「ぃって、らっしゃぃ、ませ」
「行ってらっしゃいませ、お兄さま!」
そして俺は、宮の連中に見送られながらやっと王太子の元へと向かったのであった。―――まぁ、転移魔法でチートしたけども。