行ってきます
さて、今日は面倒だが王太子の元へと行かねばならない。あぁ、本当に面倒くさいんだが。
しかしながら見送りと称しハスキは俺が与えた赤いバラの髪飾りを付けている。スザナは帯剣しておりその剣には俺が与えた赤い魔石のついた飾りが吊るされている。
ふふふ。こういうのも良いものだ。あ、そう言えば溺愛と言えば!俺の中の狡猾イザナが悪魔のささやきを仕掛ける!
「さぁ、ハスキ。この俺に行ってきますのちゅーはどうした?」
俺はハスキに壁ドンをかましつつ、にやりとほくそ笑んだ。―――いや、ここはほくそ笑むところだったか。
俺の頬筋は、相変わらずほくそ笑むばかりでまだまだイケメンの爽やか微笑などとはほど遠いらしい。
―――と言うか何故行ってきますのちゅーなどと最高に恥ずかしい行為を要求してるんだっ!?俺はぁっ!!
「―――っ!」
ハスキが頬を赤らめて、目をぱっちりと開いている。―――やっぱり、何でこんなにかわいいんだ。
そして口の前に両手を持ってきて、俺を見上げている。でも、もう後には引けない。俺を見上げるハスキの目が、そう訴えているように俺に突き刺さる。
うぐっ!
しかし、少し戸惑いながらもハスキが俺に顔を寄せて?え?マジか、マジでハスキはする気、―――なのか!?ちょっと待て!これは半分勢いで要求した超難易度級の手管だぞっ!?
とすっ
何故かハスキは、両手を唇に当てたまま俺の唇に向かってきた。
こ、これは、どう表現したらいいん、だ?
「―――ふっ」
ここは、狡猾イザナよ。お前が責任を取れ。
「まぁ、いい。今日はそれで勘弁してやろう」
くいっとハスキの顎を上に持ち上げ、そしてにやりとほくそ笑む。
さて、スザナの方を見やれば。うむ一度溺愛すると決めたのだからコイツにも何かしてもらわんとな・・・
さすがに弟に行ってきますのちゅーを要求したとすれば。多分、溺愛ルートは溺愛ルートでもちょっと違うルートに行ってしまいそうだ。
「―――では、スザナよ」
「はい、お兄さまっ!」
頬を赤らめて、俺をキラキラとした双眸で見てくるスザナ。ここはこやつの思いにも答えねば!
しかし、どうしようか?
ドンッ
「俺が留守の間の宮を、しばし頼むぞ?」
うむ。壁ドンと顎くいなら、男兄弟でも大丈夫だろう!だって俺はイザナさまだからな。カリスマイザナさまだからこそ許されるシチュエーションだ。
ニタリっ
「は、はいっ!お兄さまっ!!」
うむ・・・スザナもキラキラした羨望を込めた目で俺を見上げている。これはお兄さまの俺に懐いている証拠だ。
うん。カリスマイザナが培ってきた勘を信じよう。
「よし、ではみなのもの!」
何故か俺をキラキラした目で見上げているハスキとスザナの後ろのシャルルとナユタの視線が。ぐぐっ
大丈夫、大丈夫。カリスマイザナの勘を信じよう、俺!
さて、後ろを振り返り早速面倒な王太子を訪ねに行こうと思いきや。
「まぁっ!ハスキ!元気そうで安心したわっ!」
紫色の見事なストレートヘアーを靡かせ美女がこちらに走ってきた。
そしてハスキがぎゅっと俺の背中に引っ付いたのがわかった。原因はわかっている。だが、しかし。
何だその反応はぁっ!かわいすぎるにもほどがあるっ!!
俺は向かってきた美女が見えない壁に激突し仰向けに転がっているのには露程も興味がなかったので、暫くかわいいハスキを堪能することにした。