表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

餌付け


「うむ。おふくろの味だな」


「??」

肉じゃがを完成させた俺に首を傾げながらきょとんと見ているシャルルを発見した。


「何だ貴様。肉じゃがも知らんのか」

「―――は、はぃ。すみません」

何だ、コイツ。最初は威勢が良かったのに最近は大人しいな。


「何か用か?晩メシはあと10分後だぞ」


「えぇと、その」


何だかもじもじしている。


「日用品の調達は、どうしたら」

あぁ、そう言えば全てナユタに任せていたし、女子だからな。男からしてみれば気付かない必要物資もあるだろう。


「後で申請書をやるから、それに書いて出せ」


「えっと、ですが」


「何かあるのか?」


「文字、書けないので」


「は?」


「読めない、ですし」


「平民でも簡単な読み書きと計算くらいは、教会で習うだろう。―――行ってなかったのか」


「―――半魔はんま、なので、入れてもらえません」

え?何その俺にケンカ売ってるような対応。教会の奴らめ、今度部下たちとの実践訓練の供物にしてくれようか?


「それに孤児院ではみんな仕事があるので、教会へは行かせてもらえませんし」

んなぁっ。そう言えばコイツのいた孤児院もちょっとひどかったな。職員はガラ悪そうだったし、お金への執着もヤバかった。―――道徳教育も必要なのではないだろうか。これは早急に改革でもしておくか?


まぁ、俺のところに回ってくる役目は“掃除”であり、実際に動くのは別だが。


そう言えば。原作小説の中では俺を罠にめて破滅の一端をになったハスキはかつての婚約者の俺が死ぬ原因を作ったことに責任を感じ、本来ならば救国の英雄と共に城に残るかと思いきや、ひとり身分も何もかも捨てて孤児院や貧しい町村を巡って、ボランティアで子どもたちに読み書きを教えて過ごすんだったな。


―――暴君だった俺を殺す一端を担ったからと言って、何故ハスキがそれを気にしたのか、よくわからないが。


仕方がないか。肉じゃがはあと蒸らしておけばいいし、もうじき米も炊ける。


俺が厨房を出てダイニングに行くと、みんなお行儀よくそろっていた。


ふむ。ちょうどいいか。


「ハスキ」


「は、はぃ」

ハスキは自信なさげに立ちあがるが、最初に比べたらしっかり返事ができるようになったな。


「貴様は文字の読み書きはできるな」

「―――はぃ」

まぁ、家で冷遇されてきたとはいえ、貴族の令嬢でスペアとは言え嫁入り道具として扱われた娘だ。

それくらいは習っているだろう。


そしてその知識を使って、原作小説の中での俺破滅後に文字の読み書きを教えてるんだったな。


「では、貴様に俺の婚約者としての仕事をくれてやろう」

「は、はぃっ!」

次の瞬間、彼女がぱああぁぁとして顔を上げた。ふるふるしているのに、何となく目が輝いているような気がする。やっぱかわいいんですけど、俺の婚約者。


「シャルルに読み書きを教えろ。あと、シャルルの弟どもにもな」


『えっ!?』

シャルルもハスキも驚いているようだった。


「私だけじゃなくて、弟たちもですか?」


「貴様はハスキの侍女だ。宮のことを少しでも任せる以上読み書きができねば困るし、貴様の弟どもも働ける年齢になったら宮で役に立ってもらわねばならん」


「は、はぃ」

貴様まで委縮しながらハスキみたいな返事をするなっ!!かじりついてくるところも良かったが急に大人しくなりやがって。


「ハスキ、できるな。貴様には向いている仕事だと思うが」


「は、はぃっ!」

何だか先ほどの返事よりはやる気が出ていそうだ。やはり天性か何かなのか、彼女はひとに教えることが好きなのだろうな。今まではそれを活かす場所がなかっただけで。


「では、明日から行うように」

「わかりました!」

ハスキが今までで一番はきはきとした返事で答える。頬が赤らんでいるし、何これ。何このかわいい小動物っ!野ウサギ。ウサ耳はないが野ウサギみたいだな?


「あ、あの。お兄さま」


「どうした、スザナ」


「お、俺も、お兄さまのお役に立ちたいです!」

んなっ!?何そのお兄さまだい好き光線みたいなのを発している目は!!やばい。小説でコイツこんなキャラだったか?もう少し熱血ヒーロータイプだった気がするんだが。こんなしっぽ振ってそうなわんこっぽいキャラじゃなかった気がする。


「―――ふむ」


「お兄さまのお仕事のお手伝いは、できませんか!?」


「―――っ」

俺の仕事、―――をコイツに手伝わせるのは、なぁ?溺愛ルートに乗せる以上、俺はでろっでろにコイツを甘やかさねばなるまい。


王子教育は、―――第2王子が投げてくる仕事を時間はかかるが処理できる程度には進んでいるはずだ。


―――となれば。


「明日宿題をやるから、それを片付けておくといい」


「わ、わかりました!」

うぅ、コイツまで目を輝かせて。で、溺愛ルートに乗せるんだよな、俺。こういう時は~、こういう時は~っ!


「ふんっ、せいぜい俺の役に立つよう、精進するがいいっ!」


にやりっ


「はいっ!お兄さまっ!」

うん!しっぽを振っている幻影が見えるし、取り敢えずは成功だ!!

※あくまでもイザナの個人的な所見です


本日も宮の全員で晩餐だ。メニューは米、肉じゃが、フルーツのシロップ漬けに味噌汁、漬物。

最初は箸が持てなかったシャルルたち姉弟きょうだいだが、今では不器用ながら持てている。多分ハスキが教えたのだろうな。


黙々と食べるナユタを見ながら、シャルルも食べ方を学んでいるようだし。学ぶ意欲は人一倍にあるらしい。この調子なら読み書きもすぐに慣れるだろう。


―――そして今日も。


「ほら、ハスキ。あ~んしてごらん。じゃがいもは中が熱いから、ちょっとずつ食べるんだぞ」


「は、はぃ」

俺のアドバイスを聞き、ちょっとずつじゃがいもを食べるハスキは。何だろうこれ、何か尊いような気がする。


視線を感じたので隣を見やれば、俺を挟んで左に座っているスザナがきょとんとして見つめていた。


はっ!そうか!俺は婚約者のみならず弟も溺愛せねばなるまい。ならばここは分け隔てなくスザナにもあ~んすべきであろう。


「ほら、スザナ、貴様もあ~んするがいい」

―――と、にんじんを差し出すとスザナもぱくっと食べる。


ふっ、餌付けも楽しいものだなっ!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ